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記憶喪失剣聖  作者: 融合


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88話 人間という悪魔

「––––––客人のようだ」

 カモナエルが言葉を発したコンマ1秒後、屋久島だった地へと火だるまが轟音を響かせ降り立つ。

「––––––この間の」

 カンバルはその者の顔に見覚えがあった。

 以前とは多少風貌が異なっているものの、その男勝りな野獣の如く様相は見間違うはずがない。

「また会ったな」

 女の顔にはギラついた笑みが浮かべられており、以前感じた敵意は全くと言っていいほどに感じ取れない。

 あの時の戦闘はカンバルにかつて人間に抱いた恐怖を思い起こさせるものであったため、敵意がないとはいえど、その異常なまでの笑みが不気味に思える。

「今度は何の用?」

「争いに来たわけじゃない。それは私たちに敵意がないことを見れば一目瞭然だろう」

 レオナは臆すことなく堂々とした態度を見せる。


「愚の骨頂だな」


 深く悍ましい声が響いた瞬間、レオナと丈一郎は眉を顰める。

「君たちは、この場において尚、交渉の余地があると思うのか?」

 カモナエルのその言葉は、全ての意図を理解した者から出るモノ。

 一切の交渉の余地なく、2人は窮地に立たされる。

「何のことだ?」

「とぼけても無駄だよ。敵意もなく今この場に現れたのは、何か目的があってのことだ。我々と君たち人間との共通点––––––それはダンジョンだ」

 目の前の人型魔物の知能の高さに、一気に表情を険しくさせる丈一郎。

 しかし、丈一郎の警戒心の原因は、カモナエルだけではない。

 終始こちらを睨みつけ、殺意ダダ漏れのアラフルの存在が大きい。

「カモナエル––––––これは一体どういう状況なんだい?」

 言葉は理解できるものの、話している内容が全くもって理解できないアラフルにとって、この状況は面白くはない。

 一見すると、敵意を持たない人間と、馴れ馴れしく話すカモナエルの姿。

 とても敵同士には見えない姿がそこにはあった。

「要するに彼らは、私たちとの争いは望まないということだ」

「はっ・・・・・・・つまりこういうことか? あの時はいっぱい殺しちゃったけど、自分たちが殺されるのはやっぱり怖いんですぅ〜ってか?」

 感情のままに、アラフルの口と瞼は可動域を無視して大きく広がり、裂けた部分から真っ黒な血液が滴り落ちる。

「・・・この忌々しいドブクズがぁ! ならどうしてボクたちを裏切ったんだ、どうして手を差し伸べる真似なんてしたんだ! どうしてボクたちに優しくしたんだ・・・・・・」

 アラフルの形相と叫びは恐怖を思わせるものだが、同時に悲しみすら感じさせる。

「家族のような存在から心を、肉体を引き裂かれる痛みと絶望は、お前らには絶対に理解できない」

 アラフルの感情の起伏に連動するかのように、止んでいた雨が徐々に強さを増していく。

「もう一度歩み寄ろうとは思わないのか?」

「––––––笑わせてくれる。かつて我々を拒絶した人類が、今になって歩み寄るか・・・」

 レオナの意思を、滑稽だと言わんばかりに鼻で笑い飛ばすカモナエル。

「確かに俺たちは人間だぜ。ただ、俺たちはお前たちを傷つけた人間とは違うってことだ」

 丈一郎の発言を引き金に、カモナエルたちの表情が一気に険しさを増す。

「聞くに耐えないな––––––––––––私たちの新たな世界に、人類は不要だということだ」

 向けられる殺意。

 それは抗いようもないほどの実力差を思い知らされるモノだった。

「レオナ!」

「言われなくても分かっている」

 交渉の決裂––––––即ちそれは、死を意味している。

 これほどの怪物3人を前にして逃げ切るなどまず不可能。

 故に、命を落とす覚悟を持ってレオナは炎を激らせ、丈一郎は『ジョブ』を発動させようとした瞬間、天より轟いた雷鳴が屋久島一帯に落とされる。

「––––––グッ・・・」

「生きてるか、丈一郎」

「あぁ、何とかな」

 今の一撃によって丈一郎は満身創痍となってしまっているが、レオナはピンピンしている。

「相変わらず人間とは思えないな」

 カンバルはカモナエルの一撃にすら余裕で耐えるレオナの様子に眉を顰める。

「ほぉ、興味深いな」

「あのさ2人とも・・・・・ここはボクに譲ってくれるかい?」

「復活したばかりなのに大丈夫?」

「うん、大丈夫さ。大量の魔力を注いでくれたおかげでかなり回復できたんだ」

 アラフルはカモナエルたちの前に出ると、ニヤケ面を隠そうともせずに蔑んだ視線を人間へと向ける。

「勇者のせいで大切なことを忘れるところだったよ––––––人間は弱いんだ。ボクたちの前じゃ何もできずに死ぬしかないのさ」

「それはどう––––––」

 

 レオナは否定を口にしようとして固まった。

 それは、今目の前で起きているあり得ない光景の数々に神経を奪われてしまったため。

 地を叩く雨音は止み、無数の雨粒が宙に浮いたまま静止している。

 更に四方八方を巨大な海の要塞がいつの間にか囲んでおり、屋久島全体に陰りを落とす。

 それだけではない。足場となっている島全体がまるで生き物の如く流動的にうねっているのだ。

「何だ、これは・・・」

「復活したばかりだから眼に見えるモノにしか干渉できないけど、それで十分」

 レオナは『竜人』の炎と『天魔』の炎を二重に纏い、そのドス黒い力の結晶を存分に激らせる。

 丈一郎は『巨人王』の力によってその身を通常の100倍にまで巨大化させている。

 『巨人王』の力は単純で、大きさが増すほどに力が増大し、その限界値は100倍。

 しかし、丈一郎には更に上が存在した。

 『バーサーク』––––––エピックルーンより獲得したこのジョブ効果は、能力値を10倍引き出すというもの。

 もしも低級ハンターがこのジョブを得ていたならば、コントロールするのにそれほど苦労は要さなかったのかも知れない。

 こと丈一郎は、元々有する『ジョブ』が強力すぎるが故、『バーサーク』を使用した際の反動は想像を絶するものとなる。

 街中で全力を出してしまうようなことになれば、大災害間違いなし。

 そのため、丈一郎の実力は『巨人王』のみで判断されてきた。

 しかし今は周囲を気にして力を押さえる必要がない。例え意識を失うことになったとしても、死を前にして力を制御する愚か者ではない。

 丈一郎の体は更に大きく、島全体に陰りを落とすほどの海と同程度までの高さへと巨大化する。

 その足跡一つは東京タワーが収まってしまうほどに大きく、すでにレオナたちからは空模様が見えなくなってしまっていた。

「まさかこのような形で貴様の全力が見られるとはな」

 こんな状況だというのに楽しげなレオナ。

 丈一郎からの反応はないが、レオナの心に焦りはなかった。

「全力で楽しむとしよう」

 レオナと丈一郎は、アラフルの圧倒的なまでの力に呑み込まれるのだった。


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