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記憶喪失剣聖  作者: 融合


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88/103

87話 神託者の覚悟

 屋久島の西方12kmに位置する口永良部島(くちのえらぶしま)の海岸にて、佇む2人の男女の姿があった。

 彼らの瞳は真剣に遠方を見据えながらも、口元には微かな笑みが浮かべられていた。

「やはり現れたか」

「こんだけ離れててもやべぇ魔力だな。こりゃあワンチャン俺たち死んだかも知んねぇぜ」

「いや、戦いになれば死ぬ気で蹴散らしてやるまでだ」

 ここ最近から異常発生しているダンジョンの傾向を調査していく内に、ある共通点が導き出されるようになった。

 それは、ダンジョン化に至る前の場所には、必ず魔力の波長が生じているという点。

 これまで魔塔連は、ダンジョンが発生してからその存在を完治していたが、ダンジョンは例外なく、その特徴を有している事実が明らかとなったわけだ。

 そのため、徹底的にまだダンジョンと化してはいないが魔力の波長を感じる地点を割り出した結果、鹿児島県に存在している屋久島には、ダンジョン化しても不思議ではないほどの魔力が存在している事実を掴む。

 それからというもの、レオナと丈一郎は屋久島から最も近い口永良部島にて、ダンジョンの異常発生現象を起こしている存在が現れるのを待ち侘びていた。

 そして今、大音量のアラートがレオナと丈一郎の所有する端末から鳴り響いていた。

 つまり、諏訪湖で出現した存在と同等の何かが屋久島に出現したことを意味している。

 当然、単に特魔級レベルのダンジョンが発生しただけかも知れない。しかし、現在の日本の状況から見れば、今回のダンジョン化も作為的なモノである可能性が十分すぎるくらいに高い。

「まっ、交渉が決裂した時のことなんざ、考えたくもないわな」

 交渉の決裂––––––それは、死を意味している。

 レオナが青の洞窟で戦った存在だけでも手に追えないほどだというのに、それが複数いたとなれば、いくら『神託者』が2人いるとはいえ、命の保障などない。

「いいか? 決して殺意は向けるなよ」

「言われなくても分かってるぜ。第一、こんな馬鹿でかい魔力を前に、敵意を向けようとする奴なんざいねぇだろ––––––お前以外はな」

 言葉とは裏腹に、どこかこの状況を楽しむかのような笑みをレオナへと向ける丈一郎。

「フッ、つまらん冗談だ」

 レオナが笑みを返そうとした瞬間、より一層濃く、身の毛もよだつようなどんよりとした魔力が島全体を襲う。


「「––––––ッ!?」」


 笑みは一瞬にして消え失せ、2人の表情は硬く強張る。

「おいおい、冗談きついぜ、マジで・・・・・」

「ハ・・・ハハッ・・・・・・私は今、自身に恐怖という感情が存在したことに驚いている」

「正直、今ほど『神託者』なんて称号を後悔した日はねぇぜ」

「同じくだ」

 レオナと丈一郎は、人類のトップである『神託者』の名を得る存在が故、今この場にいる。

 例え、『神託者』である2人ですら及ばない敵だとしても、立ち向かえるのは彼らしかいない。

「安心しろ––––––覚悟は疾うにできている」

「おうよ」

 それは、自分自身に言い聞かせた言葉。

 恐怖に染められそうになる心を、奮い立たせる原動力。

 レオナは常に強者を求めてきた。

 その夢がまさに今、叶おうとしているのだ。

 想像と体感は絶大に異なることを身を持って知った今だからこそ、自身の命に対する覚悟がより深いものとなった。

「行くぞ––––––しっかりと私に捕まっていろ」

 レオナはその身を竜と化し、丈一郎とともに屋久島へと飛び立つのだった。


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