81話 理解不能な存在
舞王飛と舞王美を含めたこの場にいる者全員は、電光掲示板に表示されている信じられない光景に意識を釘付けにされていた。
電光掲示板には、挑戦後の記録が表示される他、現在進行形で行われているダンジョン内での戦闘が数値として表示される仕組みとなっている。
「これは、現実なの・・・・・?」
舞王美は、麗しい蒼い瞳を見開いて驚愕の様相を浮かべている。
「––––––––––––きっと、これは何かのまやかしに決まっている」
舞王飛は、目の前で起きる理解不能な出来事への理解を早々に投げ出していた。
その他のハンターたちも、誰一人として一言も発することなく、ただただ急速に変動していく電光掲示板の距離の表示に表情を引き攣らせるばかり。
最早苦笑いするしかない。
これは嘘であると、何かの間違い––––––あるいは不正をしているんだと、思い込んでしまうのは無理のないこと。
彼らにとって、現在流星が叩き出している1,000kmを約3時間で突破するなどという理不尽は、天地がひっくり返っても不可能なこと。
聖人級ハンターである舞王兄妹ですら、1,000kmを突破するのに一週間を要してるのだ。
3時間など、一体どれほどのスピードでモンスターを倒せば可能なのか、想像すらできない。
「––––––––––––けれどもし、あの者の記録が偽りではなかったならどうする?」
「そんなことはありえないわ・・・・・たとえ祖父様だとしても、こんな記録は出せないと断言できるわ」
唐突に飛び出した命の信じられない発言を、一切思考する素振りすら見せずに否定する。
「ならば、其方たちも見てみよ。この場にいる皆に共有することはできないが、2人だけならば問題ない」
「もしかして本当にそんなこと・・・・・いや・・・ありえないわ」
「そう思うなら確かめて見るといい」
そう言って、命は美と飛へとそれぞれ手のひらを差し出す。
命は生まれつき「輪廻」の力を宿し、25回目の輪廻からは結界を操る能力までも得た。
結界を操る能力は、北海道十勝岳に施したように0からオリジナルの結界を作り出せる他、ダンジョンの存在を悟ることができる。
この力は結界の有無に関わらないため、現在進行形で万里の長城ダンジョンの内部の様子を鮮明に感じ取ることができていた。
感じ取る力は意識すればするほど日に日に強さを増しており、流星と出会った時までは存在を単に悟るのが限界だったのが、今は感じ取った気配を映像として脳内に流す技を習得している。
更に命が見ている脳内景色は、命の体の一部––––––特に脳に近い部分に触れているほど鮮明に共有することができるため、両手に掴んだ飛と美の手のひらを自身の後頭部へと運ぶ。
「「–––––––––––– ッ!?」」
触れた瞬間、直接頭の中へと命が見ている景色と同様の景色が流れ込んできた。
万里の長城をありない速さで駆ける一人の男を起点として、360°様々な角度からの映像がテレビでも見ているかのように映し出される。
「・・・・・信じられないわ」
言葉を発する美の口元は、小刻みに震え出していた。
人は神から「魔力」と『ジョブ』を授かり、何ステージも上の次元へと進化を遂げた。
しかし、今映像の中心にいる人物は、明らかに異常。
モンスターの大きさや含有する魔力量に関係なく、全ての存在を一刀両断に斬り伏せている。
実際に何度もこのダンジョンに挑んでいる2人だからこそ理解できる。
日本ではS級ハンターに匹敵するほどの彼らですら、1,000km地点まで進めば一定量のダメージは避けられないし、モンスターも一筋縄ではいかなくなってくる。
思考が追いつかないほどの速さで進みながら出現する全てのモンスターの息の根を正確に止めるなど絶対に不可能。
「彼には一体何が見えているというの?」
「––––––今更ながら、彼に取ってしまった自分の行動が恥ずかしく思える」
「ええ、できもしない目標を掲げる彼の愚かさにムカつき、まるで蔑まれている気分だったわ・・・・・・けれど、彼は本気だったのね」
舞王美は先ほどの取った自分の行動を振り返り、後悔の感情とともに、自分自身がちっぽけで哀れな存在に思えてきてしまった。
「私は、其方たちよりも長き時を生きている。それでも、未だに学ばされることは多いいのだ。其方たちは聖人級となり、皆から慕われ手本になる立場だとは思う。けれど、新たな出会いを繰り返すたびに新たな発見や感情と出会うもの」
美と飛は命に「輪廻」の力が宿っていることを知っている数少ない者。
故に、心に刺さる言葉の重みがかなりのもの。
「けれどこれも覚えておくといい。繰り返される出会いの中、心奪われるのは数少ないことなのだと。そしてその想いを何よりも大切に扱うべきであるとも言えるが、未練となってしまった際は、最大の障壁になることも心に留めておくといい」
2人から命の表情は見えないものの、どこか寂しさを彷彿とさせるような雰囲気を感じていた。
それから4時間が経過し、『万里の長城ダンジョン』誕生以来初の攻略者が現れた。
––––––––––––と誰しもが衝撃を受けた瞬間、外部にも漏れるほどの大きな振動が辺り一帯を襲う。
「「「ッ!?」」」
ダンジョン内の映像に意識を向けていた3名は、あまりにも巨大なダンジョン全体がまるで生き物のように動き出した様を目の当たりにしていた。
「––––––まさか・・・・・ダンジョン全てがモンスターということか!?」
「うそ・・・でしょ・・・・・・祖父様は一体何のためにこんなダンジョンを造ったのよ––––––––––––」
「––––––––––––凪星」
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