7話 魔塔連からの提案
家に戻ると、案の定大きな騒ぎになっていた。
アパート周辺は数十名の人だかりができ、住民は一人残らず救急車付近へと避難している。
目の前に広がっている人の波は、そのほとんどがマスコミや報道陣によるもの。警察が彼らに自由な行動を取らせないため、場を整備している状況。
体感的にはそれほど時間が経った感じはしない。普段、ここら辺は夜になるとほとんど人の気配がしないため、思わず圧倒されてしまう。
「すみません。千葉県警の者ですが、八尺 流星さんですか?」
唐突な出来事に、俺は体をピクリと反応させてしまう。
「あっ、は、はい。そうですけど・・・・・」
「会いたいという方々がいますので、こちらに来ていただけますか」
「・・・・・はい。分かりました」
俺は警察の人に言われるがままついていくことにする。
俺に会いたい人? 思い当たる人物が全くいない。
そもそも、どうしてこんな場所にこんなにも人が多く集まっているのか。
まぁ確かに、アパートの屋上にアレだけの大穴を開けてしまったんだから、警察が動くのは仕方がないこと。だけど、負傷者は一人もいないみたいだし、これだけの報道陣が集まっているのは、なんか不自然というか・・・・・
そんなことを考えていると、視界へと記憶に新しい人物が飛び込んできた。
「ありがとな。もう下がっていいぜ。こっからは、ハンターの時間だ」
この偉そうに椅子に座っている人は誰だ?
その隣に立っているのは、間違いなくさっき病院で会った魔塔連の副魔塔主。確か名前は・・・・・
「先ほどぶりですね。改めまして、魔塔連 副魔塔主 柳田 アモンと申します。そしてこちらは––––––––––––」
「いや、俺から言う」
そう言うと、椅子に腰掛けていた人物は、俺の目の前へと近づいてきた。
「俺はこいつの上司で、魔塔連の塔主をやってる最門 丈一郎だ」
差し出された大きな手。
実際には、身長も手の大きさも、俺とほぼ同じくらいだけど、なんていうかこの堂々とした感じは、実物よりもより大きくその人を映してしまう。
「おっなんだ、見た目とは違って意外とがっしりした手じゃねぇの」
すると最門さんは、肩からふくらはぎにかけて俺の体をベタベタと触り始める。
「えっ、えっ」
「申し訳ありません、こういう人なのです。悪い人ではないので、少しの間付き合ってあげてください」
そこまで申し訳なさそうにされたら、無理に嫌がれないというか・・・・・
結局俺の体は隅々まで触られ、最門さんは満足気な表情を浮かべていた。
「かなり鍛えられた筋肉を持ってるな。その感じは筋トレなんかじゃ絶対に身に付きやしない––––––––––––少なくとも、C級ハンター並の体つきってことだ」
俺に向けられる視線が鋭いものになる。
今この空間には、俺を含めて最門さんと柳田さんの3人しかいない。だけど、この空間だけが隔離されたみたく静寂に包まれている。
「それになぁ、アモン。お前も感じてるだろ?」
「はい。先ほど会ってからはまだ数時間しか経っていませんが、確実にあの時までは、彼から魔力の気配は感じられませんでした」
なるほど。魔力を持つ人は、他人の中にある魔力も感じ取ることができるのか。
俺自身の魔力量はないに等しいレベルだけど、さっき会った時よりも2人から得体の知れない圧迫感を感じるのはそのせいか。
「魔力を扱えるってことは、当然コントロールもできるってことだけどな、完全に気配を隠すことは俺ですらできないんだなこれが」
今ここで力のことがバレたら、俺はどうなるんだ・・・・・新たな力に目覚めること自体前例がないこと。それも、『ジョブ』もなければ、『魔力』もない不良品の俺なんかが持つ得体の知れない未知の力。
ハンターへの道は閉ざされ、研究対象になる可能性も考えるべきだ。
「けど安心しろ。別にお前の秘密を暴くために会いに来たわけじゃない。ただ単純に、八尺 流星っつう人間に興味を抱いただけなんだよ」
「えっ・・・・・」
「俺たち2人を前にしても屈しないその表情。ますます気に入ったぜ」
俺は、無意識に作ってしまっていた顔の緊張を解く。
誰かを思い切り睨んだのは、これが初めての経験かも知れない。
「過去に前例のないダンジョン災害に巻き込まれ、唯一生還した荷物持ち。そいつにはジョブもなければ、本来は魔力もないはず––––––––––––だが、謎の力に目覚めたかも知れない唯一の存在。面白いじゃねぇか」
強者から向けられる笑顔。これまで他人から向けられるのは、蔑む視線か、憐れむ視線だった。
向けられる笑顔も、弱者に対する優越感や慈悲を含むもの。
だけど今俺自身に向けられている笑顔を見ると、ずっと心の奥底に閉じ込めていた何かを期待しそうになる感覚に駆られる。
「再覚醒なんて前例はこれまでにない。けどな流星。俺はお前を中心に、何か大きな物事が動き出しそうな気がするんだ。だから賭けをしねぇか?」
「賭け、ですか?」
「そうだ。過去に前例のないことをしようとすれば、多くの視線を浴びることになる。その分当然批判もすごいだろうな。けどお前が本気なら、2度目のハンター適性試験を準備してやっても構わない」
ハンター適性試験・・・ハンターを志願する者たち用に特別に実施される等級を測定する試験のこと。内容としては、魔力測定に、実技試験の2つ。その際、ジョブは自己申告をし、それに合った試験内容が用意される。
ハンターたちは、肉体の成長やジョブの洗練度合いにより等級を上げることができるが、魔力量は思春期を過ぎてしまえば増えることはない。そのため、成人を過ぎてから自力で等級を上げられる者はかなり珍しい。
「言ってしまえば、お前はみんなから見下される落ちこぼれだ。日本最大組織の魔塔連がそんなお前を特別扱いすれば、必ずお前は矢面に立たされることになる。だから、できるだけ早くみんなを見返せる存在になって見せろ––––––––––––A級レベル。それがお前に課す条件だ。そんくらい成長できた時、俺のところに来い。いつでも待ってるからな」
俺は込み上げる感情の高まりを我慢するのが限界で、何も言葉を返すことができなかった。
ただ、遠ざかっていく最門さんたちの背中を見つめているだけ。その時、ぴたりと遠ざかる足が止まる。
「そうだ言い忘れるとこだった。アレ、今回だけは俺がなんとかしといてやる。お近づきの印にな」
そう言い残し、今度こそ去っていった。
数日後、綺麗さっぱり元通りとなったアパートを目にして、俺は再度心の中で大きく感謝した。




