6話 魔塔連
東京都渋谷区 魔塔連本部「塔主室」。
室内には、2人の男の姿があった。
1人は椅子へと腰掛け、机に置かれているパソコンへと視線を向けており、もう1人はその傍らで立ち、椅子に腰掛ける人物へと視線を向けている。
「––––––––––––八尺 流星。歳は21で両親は既に他界。7つ離れた弟と2人暮らしか・・・・・今の人類では唯一、例外的にジョブどころか魔力すら有していない存在。資料だけじゃ俄には信じらんねぇな」
「我々は、ジョブを直接文字として確かめることはできませんが、魔塔連が行う適性試験により、その存在を確かめることはできます。けれど彼からは、微塵も魔力反応を感じ取ることができませんでした」
「S級のお前が直接会った上でそう判断するなら、不正に登録したわけでもないわな」
「はい。そもそも、魔塔連のシステムを掻い潜れる者など、塔主様と同じく『神託者』の称号を有する者たちだけでしょう。私ですら無謀ですから」
魔塔主は、机へと肘を付き拳へと顎を乗せると、難しげな表情を浮かべる。
「こう言っちゃアレだけどよ、力は人類最底辺。外見もこれといった特徴はなく、どこにでもいる青年って感じだ」
日本国民はハンターに限らず、10歳以上は自身の能力を記した身分証の発行が義務付けられており、年1回の更新が定められている(魔塔連は、ハンターの適性試験だけだなく、一般用の適性審査も請け負っている)。
現在の流星の外見は、目と耳に黒髪がかかり、突出した顔のパーツもない冴えない顔。そして細くて色白。
見た目から弱者のオーラが滲み出てしまっている。
「そんな奴が、千葉の未登録ダンジョンの崩壊に巻き込まれて生き残ったってか・・・・・アモンの発言と合わせて考えれば、ますます意味不明じゃねーかよ」
「やはり、ダンジョンの申請記録にはない外部の誰かが助けたと考えた方が、妥当性はあるでしょうね」
塔主はアモンの発言に対し、不快そうに舌を一度鳴らす。
「上魔級となれば、あの女が関与したって言いたいのか?」
「ええ。仮に、他のS級ハンターだったとしても、複数以上の痕跡をなくすことなど不可能でしょうから」
「あの野蛮人は俺の性に合わない」
「以前は合同戦線にも参加した仲だとお伺いしたのですが・・・・・」
合同戦線とは、2つ以上のギルドが協力してダンジョンボスへと挑むこと。
「何年前の話を持ち出してんだ、お前はよ。まぁ、いい女なのには違いねぇけど、先に嫌ってきたのはあっちだからな。嫌われてる相手を好く奴がどこにいるんだよ。だろ?」
「––––––––––––御もっともです」
「分かりゃいいんだよ」
若干変な間が生じはしたものの、話題は再び流星のことへ。
「けど、この流星って奴には素直に感心するな」
塔主の口から飛び出した発言だとは思えず、アモンは一瞬己の耳を疑う。
「塔主様がそのように思われるなんて珍しいこともあるものですね。しかし、私も同意です。ジョブも、魔力すらない身一つで、何度もダンジョンに潜っているのですから」
身分証には、表面化されないデータ上の部分に、ダンジョンの活動記録が追加される仕組みとなっている。
「採掘班や建築班の経歴もあるにはあるが、荷物持ちとして潜ったのが一番多いいな。どうしてそこまで・・・・・まるで死にに行くようなもんだ」
「その、偶然聞いてしまったのですが・・・・・」
アモンの表情が一気に暗くなったことに首を捻る塔主。
「なんだ?」
「彼の弟である一君は、生まれつき心臓が弱く、3年ほど前から彼が運ばれた病院に入院していたそうです」
「要するに、多額の費用を払うため、命懸けでもダンジョンに潜る必要があったというわけね」
「ハンターでなくとも、ダンジョンでの仕事はかなり稼げますから」
「––––––––––––って、なんで過去形なんだ?」
アモンの言い回しに含まれる多少の違和感。そして、依然として暗い表情を浮かべていることに気が付く。
「実は––––––––––––」
その後の空間は静まり返る。
しばらくして、静かな室内にスマホのバイブレーションの音が微かに響く。
「はい。こちら魔塔連本部 柳田 アモン––––––––––––それは警察の管轄では?––––––––––––八尺 流星の、それは本当ですか?––––––––––––分かりました。すぐに向かうので、周りの整備はお願いします。では––––––––––––」
「八尺 流星がどうしたって?」
「どうやら、彼が住むアパートで事故が起きたようです。ニュースでは匿名となっていましたが、上の方の警察には身元が明かされているのでしょう。なので今から現場に向かいたいと思います」
そうしてアモンが部屋を後にしようとしたところ、背後から椅子が大きく動く音がした。
「俺も行くぜっ。どうせ今は今回のダンジョンの件で話題は持ちきりなんだしよ、本部にいても暇なだけだしな」
「それだけですか?」
アモンの鋭い眼光が塔主へ向けられる。
「ったくお前は鋭いな。ただ単純に会ってみたいんだよ。それじゃダメか?」
「いえ、そうだと思いましたよ。伊達に一緒にいるわけではありませんからね」
2人は小さく笑みを浮かべた後、八尺 流星の自宅へと向かうのだった。




