78話 万里の長城
万里の長城。
ユネスコ世界遺産に登録されているモノの一つ。
博識じゃない俺でも聞いたことくらいある超有名な文化遺産。
紫禁城と同様に、北方の侵入に備えた防衛目的で建設されたらしく、今では人類史上最大の城壁とされている。
ただ、全てが一本の道として繋がっているわけではなく、風化によって消滅してしまった部分や時代ごとに造られた部分が存在し、現存する全ての部分を合わせると、なんと2万kmにまで及ぶらしい。
本で見た緑豊かな光景に包まれる細長い長城は、朝日や夕陽に照らされてその様相をことごとく変化させる。
それら全ての景色が人々の心を盗んでしまうほどの美しさを放ち、そういった場所は中国には数多く存在している。
俺は密かに、この万里の長城から見える景色を楽しみにしてたんだが・・・・・・
まさかダンジョン化してるなんてな。
緑豊かな景色はそのまま残された状態で、肝心の長城の姿のみが真っ白なドーム状の何かに覆われてしまっている。
念のためにメラは故宮博物院の近くのホテルに置いて来たけど・・・・・なんなんだよ、このお祭り騒ぎは––––––––––––
「チクショー! また1日保たなかった」
「いやいや、ギリギリ届かなかっただけでも十分やばいぞ。それより、どんなアイテムドロップしたのか見せてくれよ」
「よっしゃー!! 目標達成!」
「あいつあの程度で何言ってんだ」
「ていうかまぁ、ぶっちゃけ上位層がバケモンすぎるんだよなぁ」
とまぁ、こんな感じでダンジョンに対してどいつもこいつもお遊び気分。
「次の方どうぞー」
どうやらこのダンジョンには入場登録というものが必要らしく、俺を含めた数名のハンターが簡易的に設けられた受付へと並んでいる。
中国は仲間意識が強いせいか、新参者に対する視線が冷たい。
どこか蔑むような、試すような気に食わない視線も多々ある。
「次の方どうぞー」
俺の番となり、受付人の手前へと足を進める。
「それでは身分証をご提示ください」
指示の通り、日本のハンター記録が記されている身分証を提出する。
この身分証は何かと便利なもので、国籍証明書の役割を果たし、査証の情報も空港にて入力されている。
「日本の方でしたか。観光は楽しめていますか?」
「・・・はい。画像で見るより何倍も綺麗な景色ばかりで驚きました。万里の長城の姿も見てみたかったんですけど、まさかダンジョン化してるなんて」
「ご安心ください。ダンジョン内に入れば、元の景色と同様の美しさが味わえますよ。それにこのダンジョンは『神託者』様が造られたダンジョンなので、安全面にもしっかりと考慮されているのです」
神託者が作ったダンジョン!?
つまりこのダンジョンは自然発生したモノじゃないってことか・・・・
ダンジョンである以上中には「魔物」が存在しているだろうし、一歩管理を誤まればダンジョンバーストを起こすリスクだってある。
それなのに、ここにいるハンターたちは安全を全くもって疑ってはいない様子。
「身分証をお返しいたします––––––––––––それでは手続きが済みましたので、説明に入らさせていただきますがよろしいでしょうか?」
「はい」
「まず初めにダンジョンの規模からご説明いたします。当ダンジョンは全てが連続した構造となっており、その長さは3,412kmにまで及びます。そして、ダンジョン内における1日は、現実世界での1時間ということをしっかりと頭に入れておくようお願いいたします」
ダンジョン内の時間の流れは、24倍。剣聖の記憶で皇帝たちの試練に突入した際と同様の時間の流れ方だ。
ダンジョンには時々魔力が発生させる磁場の影響で外部との時間の流れに誤差が生じることがある。
問題は、距離の方。
3,000kmを単純に数字として見れば想像がつきにくいが、北海道から沖縄までの距離と同等かそれ以上だと言えば、誰しもが驚愕するだろう。
それほどに広大なダンジョンを創造した『神託者』ってのはつくづく規格外だな。
「入場する際には、ダンジョン入り口となる「ゲート」と呼ばれる黒い渦巻き状の部分をくぐると、自動的に防御結界が全身に施される仕組みとなります。使用者の魔力や攻撃では一切ダメージを受けることはなく、モンスターから受ける攻撃が一定値に達しましたら、外部へと強制帰還させられます。それまでに獲得した全てのアイテムはハンターの報酬となりますのでご安心ください。また、その他一切のペナルティもございません。ここまでで何かご質問はありますか?」
説明に対する質問はない。
だけど、たった1人の人間だけでどうやってダンジョンを創造したのかにはすごく興味が湧く。
例え、レオナさんほどの魔力と強さを有する『神託者』だとしても、ダンジョンを作るほどの魔力をたった1人で発生させることなんて不可能だろう。
いやそもそも、ダンジョンの発生条件なんて誰にも解明できてないから、今の日本の異常事態には魔塔連でも対処し切れてはいないんだ。
「大丈夫です」
「かしこまりました。それでは、ダンジョンに挑むにあたり目標を設定していただきます」
「目標、ですか?」
「はい。ダンジョン内での時間において、どれほどの距離を達成するかを定めていただきます。例えば、あちらの電光掲示板にありますように、一位の方は現在7日で1,000kmを記録されています」
国立競技場などで目にする大きな電光掲示板が入り口の真上に設置されている。
表示されている内容は、距離と時間、それらをもとに導き出されたポイント数。
「あのポイント数っていうのは何ですか?」
「ポイントは、当運営側が管理しているオンラインショップで多種多様なアイテムと交換できるのです。目標に設定した距離と時間、あるいはそのどちらかを達成いたしますと、帰還時のポイントに目標達成度合いに応じたボーナスポイントが付与される仕組みとなっております。掲示板に載られているハンターの方々はかなりの実力者になりますので、初めは目安にはせず、あくまで設定の参考程度にするのがよいでしょう」
「––––––––––––もし、このダンジョンを造った『神託者』が挑んだなら、全てを攻略するのにどれくらいかかりますかね?」
「・・・そうですね・・・・・う〜ん・・・・・・・・あくまで噂なんですけど、数年前にこのダンジョンが造られた際、かかった時間は僅か1日と言われています。まぁ、噂なので、正確性にはかなり欠けますが」
てことは、間違いなく『ジョブ』が関係してるな。
『神託者』が造ったダンジョンなら、じっくりと楽しみたい気持ちも当然ある。
けど一番は、今の俺の力が現実世界でどの程度なのか確かめておきたい。
このダンジョンは、力を試す絶好の機会だ。
「––––––3,412kmを、1日で攻略する」




