77話 五大皇帝:第四の試練––––––––––––『闘神』
蒙白様の全身はみるみると純白に染まっていく。
逆立っていた黒髪も白髪となり、眉もまつ毛も、瞳さえも白く染めれらていく。
「––––––––––––『闘神』。この形態を習得してんのは俺と王鳳だけだ。別にお前にこれを習得して見せろなんて言わねぇよ。だから選ばせてやる。俺に負けを認めさせろとは言ったが、ここでやめてもかまわねぇぜ」
それは、蒙白様の試練はここまでにして、最後の王鳳様の試練に向かっていいことを指しているのか––––––リタイアという意味なのかは分からない。
そして確かめる必要もない。
妙が心配な気持ちは大いにある––––––––––––けど、凪星の心はここで諦めようだなんて1ミリたりとも思ってない。
俺は無言で聖剣を構える。
「それがお前の答えってわけか」
相変わらず楽しそうな笑みを浮かべてるな。
「フゥ〜」
さっきとは明らかに異なる感覚。
見た目は、さっきまで浮き出ていた薄らとした白と黒の光は完全に鳴りを潜めている。
けど、体が単に軽いだけじゃなく、心に穏やかさが宿っている感覚だ。
余裕とでも言ったらいいんだろうか。
焦る気持ちが消えた訳じゃない。
確かに俺の内に存在しているマイナスの感情は、静寂とした精神の膜のようなモノで覆われている。
意識はより鮮明と化し、吸収する情報の全てを正確に見極めることができるようになった。
「死ぬんじゃねぇぞ!!」
蒙白様の鬼の形相が目と鼻の先へと一瞬にして迫る。
けど、焦る必要はない。
腹部スレスレへと達した拳を受け止めることは不可能だが、仙善様の時のように軌道を逸らすことは可能。
「ほぉ」
俺は最小限の動きのみで放たれた拳を避けて見せる。
放たれた拳による威力は凄まじく、後方の巨大な岩山をいくつも消しとばす。
「ならこれも躱して見せろ」
手に持っていた斧までもが純白と化し、それをまるでおもちゃのように軽々と振り回す。
食らえば間違いなく致命傷。
場所によっては回復を使うことなく一撃で命を持っていかれるな。
振り回すたびに周囲の岩山は爆発音を立てて消し飛んでいく。
「洒落になんねぇぞ、これ––––––」
躱すだけで精一杯。
攻撃なんて・・・そんな隙は全くもって見当たらない。
「おらおら、どうしたぁー! んなもんかぁ?」
斧の軌道ははっきりと見える。
けど、体が徐々についていかなくなる。
死と隣り合わせの体感。
死が迫りくる際周囲の情報がスローモーションになるって聞いたことがある。
今はその感覚に最も近い。
斧の軌道だけじゃない・・・表面についた傷までもが鮮明に見えるおかしな状況。
そしてもっと不思議なのは、蒙白様の斧がまるで生き物のように蠢いている点。
全体的な形を変えている訳じゃない。表面が砂のように蠢いている。
これは一体・・・・・・蒙白様の斧を確かに破壊した直後、一瞬で再生していた。
––––––––––––ってことは、今の蒙白様の力で風化する部分を、もの凄い速さで作り直してるってことか?
なら、武器を何度破壊しても意味はないな。
「––––––––––––ねぇ」
「あぁ?」
凪星の呼びかけに敏感に反応する蒙白様。
攻撃の嵐は一旦止み、俺は一先ず息を整える。
「お互い、武器は無しで勝負しようよ」
凪星は何かに気づいたみたいだけど、俺には一体何のためにそんな提案をするのか理解できない。
確かに斧は厄介だ。
それは拳とて同じはず。
明らかに蒙白様はまだまだ余力を残してる。
「いいぜ。やっぱお前最高だなぁ」
一息ついたのも束の間、先ほどよりも断然速く蒙白様の拳が届く。
「グッ」
見える・・・・見えはするんだ・・・・・・けど、体の反応がまるで追いつかない。
これが『闘鬼』と『闘神』の差なのか。
そこからは防戦一方。
最早防御の腕も崩され、全身満身創痍。
『万能完治』も使用して何とか耐えてはいられるけど、これほど重い一撃一撃をあと何度耐えられるかは分からない。
「おいおい、いいのは威勢だけか? そんなんで女一人守れんのかよぉ」
「––––––––––––守るんだ・・・・・絶対俺が助ける!!」
感情のままに叫んだ直後、内側で何かが弾ける感覚を味わう。
以降、その感覚は蒙白様の攻撃を受けるほど激しくなっていく。
もしかして、神の力同士が反応し合ってるのか・・・?
だとしたら、蒙白様の力を利用して『闘神』の感覚を掴めるかも知れない。
俺は『万能完治』だけを繰り返しながら、防御態勢を解く。
そのことに一瞬攻撃の手が止んだが、すぐさま開始される。
あー・・・・・・そういうことだったのか。
これは命をかけた勝負だけど、命をかけた戦闘じゃない。
俺が今してるのは、修行。
試練と名のつくものだとしても、皇帝たちから教わる立場にあるんだ。
そう思えば、この痛みは優しさに思えてくる。
俺のために振るわれる拳。
ようやく俺の中の力が活性化し始める。
今度は薄らとした光なんかじゃなく、全身の肌の色を純白と漆黒に染め上げ、髪が逆立ち2色に染まる。
「はっ、ようやくかよ」
「ありがとうございます」
ここは俺自身の言葉でお礼を言う。
攻撃は止んだ。
「上出来だ」
「何言ってんの? まだ試練は終わっちゃいない」
凪星の言葉を受けた蒙白様は、ここ一番の笑みを浮かべて振り返る。
「最高じゃねぇかよぉ!!」
<蒙白の試練を達成––––––––––––スキル『聖道』が『闘鬼』へと統合––––––––––––『流星闘鬼』へと進化>
<『流星闘鬼』・・・全ステータスが常時150%上昇。体道の効果により、「防御力」と「技術」のステータスを常時70%上昇––––––––––––気の流れを視認または感知することが可能(※『万眼』の効果範囲の1/100とする)>
<––––––スキル『闘神』を獲得>
<『闘神』発動から一分間、全スキル効果が10倍となる(※ただし、使用後は24時間使用不可となり『流星闘鬼』の効果が封印される他、全ステータスが70%減少する)>
『40%:試練』を開放した途端、一気にメモリーツリーの表示が30%に達した。
確かに、今回の皇帝たちの試練の記憶は続けて開放できた点からも特殊な記憶だってことだ。
そして何より、今の俺は『神託者』に届き得るほどに強くなっただろう。
【ステータス
称号:【記憶喪失剣聖】【メテオ】
ジョブ:『剣聖見習い』
スキル:『×10のポイント増加』『白魔気』『聖剣メテオ』『聖剣の恩恵』『絶歩』『空歩』『万眼』『万能完治』『流星闘鬼』『闘神』
体力:15632
武力:15326
防御力:12846
敏捷:15103
技術:14283
運:15340
魔力:13135
『メモリーツリー:30%「32P」』】
次の王鳳様の記憶を開放するためには、多分かなりのポイントが必要になってくるな。
よし、ダンジョンに行くとしよう。




