76話 五大皇帝:第四の試練
『40%:試練』
五大皇帝:第四の試練
「ようやく俺の番か」
ニヤリと口元を歪ませ、横暴な雰囲気からは想像できない純白の歯を見せてるくる。
蒙白様を見ていると、どことなく大門を彷彿とさせるために無意識に試練とは別の緊張が走ってしまう。
「俺の試練は何も難しいことはねぇ––––––––––––一度でも俺に勝つことができれば合格ってことにしてやるよ」
その自信満々な表情からは、自分が負けるとは微塵も思ってはいない様子。
確かに威嚇しているためか、押し潰されそうな圧を鮮明に感じる。
蒙白様は床に置いていた自身の背丈ほどある巨大な斧を軽く片手で持ち上げると、太和殿の奥にある転移門へと姿を消していった。
他の皇帝とは違って、この試練を乗り越えればどんなスキルが手に入るのか、その具体的な提示がない。
ただ戦う––––––––––––
つまりこの試練では、これまで培ってきたすべてを試されるってことか。
基礎能力に、研ぎ澄ませた感覚、回復術と、あらゆる術を用いて中国の頂点を攻略してみろと・・・そういうことか。
転移門を抜けると、すでに見慣れた光景が視界へと飛び込んできた。
周囲は一面岩石地帯。
戦闘用に設けられた場所のよう。
「どうだ? 現実そっくりだろ」
「・・・現実?」
「ここは俺が作り出した異空間みてぇなモンだ。だから存分に暴れて見せろ」
蒙白様は早く戦いたくて仕方のない様子だけど、俺はそれどころじゃない。
は?
これほど広い空間を作り出したってのか・・・・・
俺はどの皇帝の力もそのすべてを目にしたわけじゃない。
だけど、蒙白様は次元が違う。
「ゴクリッ」
緊張で手足が無造作に震える––––––––––––けど試練とは関係なく、今の俺の力が一体どこまで通じるのか試してみたい衝動に駆られてしまっている。
「フッ––––––あの人の癖が移ったか?」
柄にもなく、誰にも届かないと知りながら冗談を口にする。
そして俺は改めて目の前の強大な存在に視線を向ける。
凪星の身長は160と少し。
それに比べて、蒙白様は多分2メートルを超えている。
皇帝とは思えないような龍らしき模様が刻まれた道着のような格好。その上からでもはっきりと分かる鍛え抜かれた巨大な筋肉。
筋繊維がミシミシと音を立てているのが聞こえてくるみたいだ。
おまけに肩に担がれたあの巨大斧。
側から見れば、これは弱い者いじめにすらならない。
人間と虫の戯れ程度に思われるだろう。
だけど、俺だって負けるつもりは毛頭ない。
あのいけ好かないニヤケ顔に冷や汗かかせてやるよ。
「おぉ––––––随分と立派な剣じゃねぇかよ」
俺は聖剣を構え、臨戦態勢に入る。
「それにいい面構えだ。行くぜ––––––––––––」
「っ!?」
仙善様の攻撃は、『体道』を習得する前だったから見えすらしなかったのには納得がいく。
けど––––––『聖道』を習得しても尚、ギリギリで受け止めるのがやっとな蒙白様の一撃。
顔面スレスレで聖剣を構え、歯を食いしばって耐え凌ぐ。
「んだよ、そんなもんか?」
次の瞬間、俺の体は勢いよく後方へと吹き飛ばされていた。
「マジかよ––––––」
クッソ––––––––––––
あんな軽そうに振った一撃で、まるで野球玉みたいに軽々と吹き飛ばされた。
それに足もかなり速い。
あんなデカい斧を担ぎながら、宙を移動する俺に追いつく勢いで地上を爆走してる。
間違いない––––––––––––蒙白様は仙善様よりも強い!
俺は体内へと白魔気を存分に巡らせ、『聖道』をフルマックスで発動する。
更に聖剣へと白魔気を纏わせる。
富士山を割った時よりも濃く、深く研ぎ澄ませていく。
「避けんなよ!」
凪星の心もこの戦いで燃えているのを実感する。
上空から勢いよく蒙白様目掛けて落下していく。
『空歩』で自由落下の速度を更に高め、空気摩擦によって真っ赤な膜のようなモノが目の前に生じるが気にしている余裕はない。
聖剣と斧が上下に衝突する。
「はあぁぁぁぁぁ!!」
俺の気合いの籠った声と同時に蒙白様の斧が粉砕した。
俺は一切気を緩めることなく、空中で体を縦に一回転させると、その遠心力を上乗せした一撃を容赦無くお見舞いする。
が––––––––––––
耳に届いたのは鈍い音じゃなく、金属同士がぶつかるような軽やかな音。
「・・・どういうことだよ」
「さぁ、どういうことだろうなぁ?」
「グッ」
蒙白様の手には、今し方砕け散った斧が握られていた。
一瞬気が散った隙を狙い、柄の先端による一撃が腹部に見舞われる。
「ほぉ、膝をつかねぇのは褒めてやる」
息もできずに悶える中、蒙白様の右手に生じた僅かな予備動作を見逃さない。
何とか防御態勢を取ろうとするもまともに体を動かすことができず、俺の胸へと5本の指が突き刺さった。
「がはっ」
勢いよく押し出される血液。
蒙白様の指先が引き抜かれた直後、立っていることすらままならなくなり、俺は呆気なく地面へと横たわる。
「んだぁ? この柔い力はよ。全然練りが足りてねぇじゃねぇかよ」
蒙白様は指先に付着した血液をネチョネチョと擦り合わせながら意味の分からないことを口にする。
今は、この傷を回復するのが先だ。
俺は『万能完治』の力で一瞬にして全ての傷を回復する。
驚くことに、体力までもが回復している。
「王魏の回復術は完璧に習得したみてぇじゃねぇかよ」
相変わらず楽しげな笑みを浮かべる蒙白様。
いくら完全回復したといっても、一度殺されかけた相手を目の前にして笑っていられるほど、俺はイかれちゃいない。
「––––––––––––なんか感じねぇか?」
「え?」
今一度己の内に意識を集中させてみる。
すると、胸に留まっていた熱さが一気に全身を駆け巡る感覚に襲われる。
それだけじゃない––––––力がどんどん湧いてくるような気持ちよさも感じる。
「それが『闘鬼』だ。ただ神の力を内に留めるんじゃなく、細胞一つ一つに刻み込んでやるんだ––––––––––––ったくよぉ、『体道』を教えんならコイツも一緒に教えとけってんだよ––––––いやむしろ、『闘鬼』を習得ぜずによく仙善の試練を乗り越えたって言うべきか」
突然、言葉を発し終えた蒙白様の雰囲気が一変する。
「何だ・・・この感覚––––––––––––」
まるで、富士山と青の洞窟で出会ったあの人型モンスターと対峙している時の威圧感。
無意識の恐怖が俺の精神を震わせる。




