74話 五大皇帝:第二の試練
『剣聖の記憶』
五大皇帝:第二の試練
やって来たのは、のどかな景色広がる草原。
周囲には緑色に染められた大きな山々が聳え立っていて、仙善様の時と同様に人の気配は感じられない。
聖道を習得したことによって、その感覚は曖昧ではなく確かなもの。
「まさかたったの5日で『体道』を習得してくるなんてね。わっちらの目に狂いはなかったということさね」
第二の試練は、麗春様から課せられる。
大きな胸をわざと強調させているのか、大きく胸元が開かれた着物のような服装をしている。下半身の布から見えるスラリとした腿の姿もかなり刺激強めだ。
だけど最も目につくのは、スラリと伸びたしなやかな紫髪。嗅いだこともないいい香りが癖になる。
「どこ見てるんだい?」
そう言うと、麗春様は揶揄うような視線を向けてくる。
「いやっ・・・・・・」
ここで指摘が入ったということは、凪星もこの時は俺と全く同じ行動をしてたんだろう。
だけど、正直男として生まれて来た以上、女体を気にするなというのが無理な話だ。
別に開き直っているとかそういうことではなく、これほど魅了的な女性が目の前にいたら、本能が見ないことを許してくれない。
「そんなんじゃ、愛する者に怒られるさね。まぁ、どうしてもっていうなら、少しくらい触らせてあげてもいいさね」
俺は大きく喉を鳴らす。
「いや––––––」
今回ばかりは口が勝手に動くこの現象を恨めしく思ってしまった。
「そうかい? それは残念だね」
全くそうは思っていないようなニンマリとした表情を浮かべている。
これは間違いなく俺を揶揄っておもしろがってるな。
なんだか精神的にドット疲れた気がするが、まだ試練は始まってもいない。
「それじゃあ、試練について説明するさね––––––わっちの試練は『空歩』と『万眼』を習得すること」
『空歩』とは、いわゆる飛行のことであり、『万眼』とは、巨大な視野のこと言う。
「正確には、その術に似た技を習得させようと思ってたんだけどね、どうやら神の力が宿っているようじゃないか––––––つまり、人としての限界を超えられるということだよ」
確かに、人の身で文字通り空を飛ぶなんて真似は不可能だし、視野を広く持つと言っても、普通の人なら数百メートル先はぼんやりとしか見えないだろう。
「『空歩』に関しては、始めは足で地面を蹴る感覚と同じように、空気の膜を蹴る感覚をイメージするといいさね」
そう言うと、麗春様はフワリと宙に浮かび上がると、まるで空中を泳ぐように自由気まままに飛び始める。
「全然、足で空気を押しているようには見えない・・・・」
「それはそうさね。わっちレベルともなると、全身で大気を操れるさね。始めは大きく動かしていた手足や胴体も、いつしか微量に振動させるだけで良くなるって訳さ。『万眼』の感覚を掴むのはそう難しくないよ。神の力があるんなら、目にそれを集中させてあげればいい。そして慣れてきたら見える範囲を徐々に徐々に大きくしていくんだよ」
俺は早速『万眼』を試してみる。
力を集中させた途端、強烈な熱さに襲われる。まるで燃えるような感覚だ。
だけど、『記憶の道標』を初めて体感したあの時の痛みに比べれば、大したことはない。
「へぇ〜、悲鳴を上げないなんてやるじゃないか」
「––––––––––––うわぁ・・・・・・」
瞳を開くと、先ほどまで一体に捉えていた山の景色の内側を見据えていた。
地を這う動物や虫の姿。
林の中を舞う鳥の軍勢。
滴り落ちる水滴の一粒一粒が鮮明に視覚によって捉えることができる。
正しく「新世界」にやってきたような感覚。
「その調子だと、あと7日もしない間に100km先は見えてそうだね」
「100!?」
思わず声が上擦ってしまう。
いや、無理もない。体感するまでは想像すらできない「神の所業」というものだ。
「因みに、麗春が見えている範囲はどれくらい?」
「様を付けないかい。凪星には、空に何が見えてる?」
この時の空は雲一つ見当たらない快晴。
現代のように人工衛星や飛行機など見えるはずもなく、広大な空を自由に舞う鳥の姿と薄らとした月の姿を捉えることができる。
「その様子じゃ、城の姿形は全くもって見えてなさそうだね」
「城・・・・・ですか?」
そんなモノ一体どこにあるんだ?
習得したばかりの『万眼』を用いても、見上げる空の景色に変化はない。
景色が変わらなさすぎて、『万眼』を発動できているのか疑わしくなってしまうほど。
「そうさね。元々は地上に建てられていた建物をわっちが天に運んだのさ」
「それって・・・・・大丈夫なの?」
「大丈夫も何も、わっちの家なんだから何も問題ないさね」
改めて規格外な人たちだ。
俺は、剣聖の記憶から皇帝たちの力を習得できるみたいだけど、そんなものは本人たちが有する力の一部にすぎないんだ。
だけど、そんなにすごい人たちでさえ警戒せざるを得ない「天魔」は、一体どうやってそれほどの力を手にしたんだ?
「てことで、『空歩』の試練に関しては、天空城に辿り着くことを課題とするさね。一体どれくらいで登って来れるか楽しみだね」
麗春様は心底楽しそうな笑みを浮かべたまま別れを告げると、あっという間に天高く登って行ってしまった。
どこにあるかも分からない天空城を探すためには、少なくとも垂直跳びが連続でできるようになっても意味はない。
麗春様みたいに、体全体を使って横移動できるようにならないといけない。
それだけじゃない––––––『空歩』と同時並行で『万眼』を鍛えることが必要になる。
それから俺は、ひたすらに『空歩』と『万眼』の試練に打ち込んだ。
試練を開始してすでに5日。
仙善様の時を考えると、現実世界では5時間くらいが過ぎた頃か。
どうやら今回の試練の記憶に限り、こっちでの1日が現実世界では1時間の計算となってるらしい。
そう考えれば焦る必要なんてないんだけど、凪星は違う。
中国に来て、もう10日以上が経過してしまったんだ。
妙はもう婚約してしまったかも知れない。
何か、ひどいコトをされているかも知れない。
そう思えば思うほど、胸が痛く締め付けられていく。
「クッ」
『万眼』は目標の100kmが見えるレベルに達したというのに、『空歩』の方は足のみに白魔気を集中させる術にかなり悪戦苦闘している。
・・・・・・ならいっそ、視点を変えてみるのはどうだ?
麗春様はああ言ってたけど、最初から全身で空を飛ぶイメージを構築するんだ。
俺は、『白魔体道』を用いて全身に満遍なく神の力を巡らせる。
改めて己の体の状況、そして周囲の状況を鮮明に感じ取ることができる。
「––––––もしかして・・・王鳳様は最初から全てを見据えてたってわけか・・・・・」
全く恐ろしい人だ。
麗春様の試練を乗り越えるためには、五感で周囲と己の体の状態を感じ取る鋭い感覚が重要。
つまり、仙善様の試練を乗り越えたからこそ、挑むことのできる試練だということ。
それを頭ではなく、体感させられたことによって新たな感覚が芽生え始める。
意識していないのに、ふわりと体が宙に浮く。
正確には、足のみで行っていた操作を全身で行っている訳だけど、断然こっちの方がスムーズに行える。
俺は体と同時に心も浮くような感覚を味わいながら、やっとの思いで天空城に辿り着くことができた。
<麗春の試練を達成––––––––––––スキル『空歩』と『万眼』を獲得––––––––––––現時点から体力1000上昇に伴って『万眼』の効果が1km上昇>
【ステータス
称号:【記憶喪失剣聖】【メテオ】
ジョブ:『剣聖見習い』
スキル:『×10のポイント増加』『白魔気』『聖剣メテオ』『聖剣の恩恵』『絶歩』『聖道』『空歩』『万眼』
体力:15632
武力:15326
防御力:12846
敏捷:15103
技術:14283
運:15340
魔力:13135
『メモリーツリー:25%「32P」』】




