71話 誤解×和解
故宮博物院事務室。
「質問は以上だ。先ほどは乱暴な真似をして悪かったね。もしかしたら日本人である君もすでに支配されてしまっているんじゃないかと勘違いしてしまったんだ」
「それより、彼はどこにいるの? もしも私の大切な人に何かあったら絶対に許さないから」
メラはものすごい剣幕で目の前の人物に睨みを利かす。
「マジで偉そうだなぁ、この女。第一てめぇら日本人が『天魔』の力を盗んで故宮博物院に攻めて来たくせしてよぉ」
「やめろ金凱! 彼女は非戦闘員な上、支配の影響も受けていなかったんだ。私たちは詫びる立場にある」
そう言うと、神父のような白服を着た男性は誠心誠意メラへと頭を下げて謝罪の意を示す。
「はっ・・・くだらねぇ。少し甘いんじゃねぇのか、万葉さん」
しかし金凱と呼ばれるこの男は目つきが悪い上にスキンヘッドと、明らかに柄の悪い風貌をしている。
人は見かけによらないとはよく言うが、衣服から見える腕や首、お腹周りは刺青だらけ。おまけに全ての歯が金色というどこからどう見ても良い人には見えない男。
「何だと?」
「あぁ? 名前とか生年月日、その他諸々簡単な質問したくらいでなんで支配されてないなんて言い切れるんだよ」
「理解に苦しむな。彼女には明らかな自我があるんだ。それが何よりの証拠だろう」
「いいや、俺はそうは思わねぇんだよ」
「––––––ッ!?」
突如、万葉の首元へと矛の鋒が向けられる。
「これは一体何のつもりだ?」
「何って、『天魔』の支配を受けちまった悪魔を成敗しようとしてんだよ」
しかしその本心は、外見に浮かぶ楽しげな笑みから容易に想像がつく。
「蒙白様の子孫といえ、これは国への反逆行為と見なされるぞ」
「さぁてどうかな〜。俺はみんなに慕われてた蒙白の子孫っていう立場に加えて、この国の聖人級ハンターだ」
聖人級とは、中国独自のハンターをランク分けする階級の名称。
下から兵級→将人級→聖人級が存在し、聖人級は、日本で言うところのS級ハンターの地位である。
「いくら柄が悪くとも、悪魔を葬ったとなれば、俺の株は急上昇だなぁ」
「––––––ならば、聖王である私が命じよう。今すぐその矛を下せ」
突如空間に現れた王鳳と流星の存在に驚きの様子を隠せない3人。
メラの瞳には涙が浮かび、流星の名を呼びたい気持ちをグッと堪える。
「まさか・・・・・その感じ王鳳様かよ」
「その通りだ。矛をしまい、私の話を––––––––––––」
流星は王鳳の言葉を遮り、怒りの剣幕で金凱の首元を掴み上げる。
「んだよ、離せよ!」
金凱が流星の手を解こうとするも、びくともしない。
「クッ––––––––––––」
金凱が苦悶の表情を浮かべる姿を見た王鳳は、小さく口元に笑みを浮かべる。
「そのくらいにしておいてやれ」
「がはっ–––––あぐっ––––––––––––ぺっ」
流星は手を離すと、その場に座り込む金凱をゴミを見るような目つきで見下ろす。
「んだよその目は––––––殺すぞ」
金凱は流星へと矛を向けようとするが、間に割り込んだ王鳳によって場は仲裁される。
「矛をしまえと言ったはずだ」
「チッ」
金凱は怒りが収まらない様子だったが、王鳳の命令に逆らえるはずもなく、矛を収める。
「王鳳様。彼は大丈夫なんですか?」
「支配の影響は受けていない。今のは、そこにいる娘のために怒ったのだろう」
万葉は半信半疑な様子だったが、流星がメラを抱きしめる姿を目にしたことで疑心の念を解いていく。
「無事でよかった」
「りゅ––––––––––––神威も、無事で本当によかった」
「んんっ––––––感傷に浸りたい気持ちは迷惑をかけてしまった身として理解するが、貴殿には魔教との歴史を知っておいてもらわなければならない」
「あぁ? こいつら別に関係ねぇんだろ? なら下手に首突っ込ませてややこしくさせる必要ねぇじゃねぇかよ」
「理由を話すことはできないが、この男には知ってもらう必要があると私は思うのだ。そこの娘も聞いていてもらって構わない」
「えっ・・・・・あんたもしかして」
メラもようやくその違和感に気がついたのか、別人級に変化した医師を見て目を丸くする。
「あぁ。今はこの者の体に宿る別の人格とだけ言っておこう」
そうしてこの場の誰一人退出することなく、中国数百年の歴史が語られることになるのだった。




