70話 剣聖を知る存在
「ん・・・・・」
目覚めると、再び真っ白な天井。
ここは・・・・・さっきの医務室か?
「メラ?」
寝ぼけているのか、どこに視線を向けてもメラの姿が見当たらない。
「目が覚めたようだな」
声のした方向に視線を向けると、白衣を着た女性の姿があった。
椅子に深く腰掛け、腕を組み足を組んでいる。
先生・・・・・か?
いや、どこかさっきとは雰囲気が違う。
黒髪を後ろに掻き上げ、髪の隙間から見えていた青白い顔色は血色を取り戻し、カサついていた唇は潤いが生じている。
「これは・・・・・・」
その瞬間、俺の体が強力な何かに縛られていることに気が付く。
「あんたは一体誰だ? メラをどこにやった?」
警戒心を込めた視線を向けると、先生の口元に笑みが浮かべられる。
「貴様に直接的な恨みはないが、内なる強大な魔力を感じたため、一先ず拘束させてもらった。あの娘に危害は加えてない故安心するといい。ただ、事情を聞かせてもらっている」
事情だと・・・・・
やっぱりさっきこの女性から感じた違和感は、俺たちに向けられた敵意だったってことかよ。
中々に上手く誤魔化されたもんだな。
「まず、2つほど言っておくことがある。この体の持ち主と、私の人格は全くの別物だということ。そして、貴様を拘束しているその鎖は魔力を急激に抑制する効果が付与されたものだ。下手に解こうとすれば魔力が吸われ衰弱していくことになる」
なんて厄介なモノつけてくれたんだよ。
だけど、俺なら魔力を使わずともこんな鎖はすぐに断ち切れるはず。
まぁ、メラが無事と言っても「今は」の話。もしも俺が抵抗すればどうなるかは分からない。
それに一番気になるのは、今俺と話している人格は、先生とは別人格という点。
「先ほどから殺気立っているため助言した。この体の持ち主の人格は完全に眠っている状態にある。故にこの者は何の事情も知らない。傷つけてはくれるな」
メラは本当に無事かも分からない状態で、俺に身動きも取るな––––––体を傷つけるなって・・・・・あまりにも勝手すぎるだろ。
確かに運転手の話からどうして俺が今この状態になっているのか理解することはできるけど、納得することはできない。
まともに話すためにはこの怒りを抑え込む必要があるな。
「何を考えている?」
俺の変化を逸早く感じ取る感覚の鋭さから、この人格はかなりの実力者だってことが分かる。
「体の持ち主は絶対に傷つけないことを約束する。そして、あんたの質問にもいくらでも答える。けど、この状態はフェアじゃない」
「何だと––––––––––––ッ!?」
俺は聖剣を取り出すと、容易く目にも止まらない速さで鎖を断ち切る。
その様子を見ていた目の前の存在は、驚愕した表情を浮かべて固まってしまっている。
「安心しろ。俺はあんたに危害は加えない。だから、何があってもメラは無事に返すと約束してくれ」
「あ・・・・・? あぁ・・・そうだな。分かった」
気のせいか、唐突に心ここに在らずといった雰囲気を醸し出している。
<目の前の存在から剣聖の記憶を感知––––––––––––この者は、剣聖を知る存在––––––––––––本来この世に存在する命でないため、存在を知られてもカウントには加算されない対象外>
「は? 何だよそれ」
剣聖を知る存在・・・・・?
すでに記憶には出てきていると仮定してだ––––––運転手の話から、俺とメラを拘束した理由は天魔神教が関係してると推測できる。
つまり、天魔神教に恨みを持ち、尚且つ剣聖を知る存在はかなり限られる。
記憶は見たばかり、思い出すんだ俺––––––––––––
この堂々とした佇まい。
まるで大きな存在を相手にしているような感覚––––––––––––
「もしかして・・・・・王鳳様––––––––––––」
根拠はない。
ただ、今ある情報の中で思い当たる人物が1人しかいない。
そしてそれは正しかったと、すぐに分かることになる。
その名を口にした直後、先生の瞳が潤む。
「––––––––––––本当に・・・私の勘違いではないのか・・・・・貴殿は、凪星なのか・・・・・・?」
これはもう奇跡としか言いようがない。
もしかして、王鳳様も妙と同じように輪廻を司る存在だったのか。
いやその場合、「本来この世に存在する命ではない」という言い回しはされないだろう。
「よくぞ・・・よくぞ生きていた。姿は変われどもう一度貴殿に会えたこと、私は心から嬉しく思う」
そう言い、俺は抱きしめられる。
だけど俺は凪星じゃない––––––
「一つ訂正させてください。俺は、凪星の力を引き継いだ別の人間なんです。だけど、記憶はしっかりと俺の中にあります」
抱きしめる力が緩み、見えた王鳳様の表情は、どこか寂しさを思わせるモノだった。
「・・・・・つまり凪星は、もうこの世にはいない––––––いや、人間とは本来短な時を生きる生命。こうして記憶を持つ者に出会えた奇跡に感謝するべきか」
王鳳はさっきの態度とは打って変わり、俺へと頭を下げる。
「因みに記憶とは、どこまでを覚えているんだ?」
「今はまだ王鳳様から試練を与えられたところまでです。ただどちらかと言うと、思い出しているといった感じです」
「そうか。ならば、貴殿には話しておかなければならないな。しかし、その前に貴殿の大切な存在を解放してあげなければ––––––私について来い」




