65話 頂点の覚悟
丈一郎は諏訪湖周辺の変わり果てた荒地の姿に絶句させられていた。
諏訪湖のみならず、その周辺地域約2kmはまるで隕石でも落ちたかのような有様。
「冗談きついぜ・・・・・」
アラートの反応があった場所にダンジョンらしき影すらない。
想定されることは、大規模なエネルギーによって消失させられたということ。
「––––––––––––敵は、『神託者』をも凌ぐ実力だ」
「お前が戦ったっていう奴と、関係があると思うか?」
「大アリだな。それほど時間が経ってはいないとは言え、長距離間の移動など息をするものだろう。ただ一つ気になることが––––––––––––」
レオナは少しの間言葉を止めて思考する。
竜人となる前に敵が使っていた魔法は、目には見えないモノ。
しかし、早くもSNSに拡散されている情報によると、諏訪湖周辺地域にまで及ぶ大災害は天から降りる雷撃による攻撃が直接的な原因だと考えられるのだ。
そこに矛盾が生じている。
「奴の力の半分も見ることは叶わなかったが、その攻撃の全てが目には見えない何かだった」
「「捉えられない」じゃなく、見えなかったんだな?」
「ああ。奴が雷撃の力を隠していたことも考えられるが・・・・・」
丈一郎は眉をひそませて目の前の焼け焦げた光景に視線を向ける。
「勘ってわけか」
「その通りだ、根拠はない。ただ、奴が何らかの目的を持ってダンジョンを増やして回ってるのは確実だ」
「当然そこには根拠があるんだろうな」
「––––––佐々木 神威が初めて奴と接触したのは、上魔級となった富士山でのことらしい」
丈一郎の瞳孔は僅かに開かれ、驚きの様子を示す。
「佐々木 神威・・・・・ここでも絡んでくとはな。だが、それだけ聞けば、確かに見えてくるモノは大きいな」
「そうだろう。ダンジョンの異常発生時期とも見事に一致している。これは偶然か?」
「いや違うな」
人型モンスターが神威こと流星に確認されて以降ダンジョンの急増現象が日本各地で見られるようになった。
つまり、レオナが対峙した人型モンスターは、富士山ダンジョンで発生した可能性がかなり高いことを示している。
「そして神威はこうも言っていた「俺に対して敵意を向けてくるどころか、危機に陥る仲間の居場所を教えてくれた」とな」
丈一郎は瞳に怒りの感情を宿しながら、口元には自然と笑みが浮かび上がる。
それは、目の前の残酷な光景との矛盾による混乱。
「ハッ、ハハッ––––––––––––これを見れば一目瞭然だろ。明らかな人類への敵対行動だ」
しかしレオナの考えは丈一郎とは異なる。
「こう考えるのはどうだ? この光景はアクシデントだと」
その瞬間、丈一郎の鋭い目つきがレオナへと向けられる。
「それは笑えねぇな、レオナよ」
「冗談で言っていると思っているのか?」
「どちらにしても笑えなぇな」
「私は拳だけでなく、奴と言葉を交わしたのだ。その時に感じた違和感・・・・・・その正体が神威の言葉を聞いてはっきりした––––––––––––青の洞窟で仲間を殺したのは私だということだ」
丈一郎は特に何かリアクションするでもなく、レオナから目の前の景色へと視線を戻して無言を貫く。
「だとしてもだ、何かしらの手立てを考えなければ手遅れになるぞ。まぁ、もう手遅れでないと言える根拠などないがな」
「はぁ、縁起でもないこと言うんじゃねぇよったく」
たとえ相手に敵対の意思がなかったとしても、人類に多大なる被害が出てしまっているのは紛れもない事実。
しかし、レオナの言うように目的によって生じた副作用が被害という形に現れているのだとしたら、『神託者』を凌ぐ存在が相手だとしても望みは存在する。
「信じるからな?」
「何だその自信のなさは。仮にも貴様はこの国のトップだろう。もっと自信を持って私を信じろ」
レオナの圧に押され、丈一郎はため息と同時に笑みをこぼす。
「しかしいざという時は、私はこの国に生きる人間のために命をかける」
「同じく」
今日初めて2人の笑みが重なった。
この笑みは決して気の緩みなどではない。己を威嚇する行為に等しく、死を覚悟した強者の微笑みである。




