63話 厄災の足音(2)
『そうか・・・・・分かった。一先ずお前はバクラのグループと合流してくれ』
「ああ––––––––––––」
通話を終えたレオナは、水平線へと視線を向けながら呆然と黄昏れる神威の下へと歩み寄る。
先ほどまでの地獄が嘘だったかのように静かで澄んでいる沖縄の海。
頬に当たる暖かな風が、先ほどの出来事を遠い昔のように思わせる。
「呑気なものだな」
それは決して神威に向けて放った言葉ではない。
こちらの情緒など無視して、美しく存在する景色に対してのモノ。
「すみません––––––––––––」
「貴様に言ったのではない。感謝こそすれ、私が文句を言える立場ではないからな」
「俺は強くなって、自分の力を過信しすぎていました」
「その口ぶりだと、まるで以前は弱かったと言っているようだな」
レオナにこれ以上力のことを隠したところで意味はないが、流星は弱かった頃の自分が嫌いだった。
だからこそ、あの頃の自分と重なって見える今の自分を認めたくない感情が込み上げてくる。
「・・・・・・」
大切な仲間を失ってしまった辛さが、余計に無力な自分から目を背けたくさせる。
「レオナさんもいたんだ・・・・・俺がもっと周りに気を遣っていれば、仲間をこんなにも失うことはなかった」
「––––––––––––涙することには何も言わん。だが、俯いてばかりいないで周りをよく見てみろ」
流星は気力の失われた瞳をゆっくりと周囲に向ける。
そこには、涙と笑顔が存在していた。
仲間を失った悲しみと辛さは皆平等に抱きながらも、命が存在する感動に浸っていた。
そこには流星への感謝が存在し、視線の合う者たちは揃って流星へと頭を下げていく。
しかしそこに、愛久はいない。
「私のせいでもある。あろうことか恐怖を感じ、欲が生まれてしまった」
「・・・・・レオナさんが無事で良かったです」
「私も、貴様が無事で良かったぞ。だが、次またあの者と相まみえることになれば、生きて帰れるかは分からん」
自身を脅かしてくれる強者を心の底から望んでいたレオナが生まれて初めて恐怖させられた相手。
「実は、奴と会ったのは今回が初めてじゃないんです」
「何だと!? 一体どこで会ったんだ?」
「レオナさんと初めて会ったあの時です」
「・・・・・富士山でのことを言っているのか?」
「はい。あの時奴は、俺に対して敵意を向けてくるどころか、危機に陥る仲間の居場所を教えてくれた」
「何が言いたい?」
レオナの流星へと向ける視線が鋭さを増す。
内なる弱さを見透かすような瞳。
しかし視線はすぐに逸らされ、しばらくの間沈黙が2人の空間を支配する。
「神威」
名を呼ばれてレオナの顔を見上げると、その整った顔立ちの鼻の高い横顔が視界に映る。
笑みなどない真剣な表情。
「強くなれ。剣聖の力を有する貴様ならば、奴に必ず届き得るはずだ」
もう今更なため、流星は驚かない。
「どうして、俺の力が剣聖のモノだと分かったんですか?」
「そうだな〜・・・・・」
レオナは少し考え込む様子を見せた後、薄らと微笑む。
「次に会った時、貴様の本当の名を教えてもらったら私も教えてやろう。どうだ? フェアな提案だろう」
「フッそうですね」
暗かった流星の表情にも明るさが灯る。
「強くなって来い」
レオナが流星へと向ける表情は、今まさに目の前の存在を送り出そうとするモノ。
「レイド祭はどうなるんですか?」
「当然中止だ。丈一郎が下した判断だから安心しろ。この後私たちは雷坊––––––––––––バクラのグループと合流した後、東京へと帰還する。だから貴様は、自分のすべきことをやりに行け」
流星はすでに、次の『剣聖の記憶』を解放できるところまでメモリーツリーを進めている。
「––––––––––––ありがとうございます」
「あぁ。帰りを待っているぞ」
流星は立ち上がるとともに、再度己の目標を胸に刻む。
瞳には気力が戻り、しっかりと前を向く。
「はい––––––––––––」
しかし次の瞬間、レオナの服にしまわれていた携帯のアラートが周囲に鳴り響く。
皆何事かと視線を向ける。
「どうしたんですか?」
レオナは眉間に皺を寄せ、自体の深刻さを肌で感じ取っていた。
自身を脅かすほどの強敵の出現と『特魔級ダンジョン』の突発的な出現。
タイミング的に、何かしらの因果関係は存在する。
「悪い。雷坊との合流までは貴様に任せる」
「レオナさんは?」
「急用ができた。頼んだぞ––––––––––––」
そう言い残すと、凄まじい速さで飛び立ってしまった。
「まさか––––––––––––」
流星は今のアラートが何を示していたのか密かに感じ取り、事の重大さを悟る。
「もたもたしてる暇はないな」




