62話 厄災の足音
「そうか・・・・・分かった。一先ずお前はバクラのグループと合流してくれ」
『ああ––––––––––––』
通話先から聞こえるらしくなく元気のない返事。
丈一郎は通話を切ると、一人険悪な表情を浮かべる。
「––––––––––––何を浮かない顔をしておる!」
丈一郎の視界の数十メートル先、大勢のハンターたちを引き連れた大男の姿が見える。
服の上からでもはっきりと分かる隆起した全身の筋肉。それでいて身長が2メートルを超えているため、歳に見合わない威圧感を漂わせている。
彼の名前は「羅針剛」。
中国生まれ日本育ちの日本人ハンターである。
そして、ジョブは1つでありながら日本のS級ハンターの中でも『神託者』に劣らない実力を有している人物。
「お久しぶりですね、師匠」
「その呼び方はよせ。今はお前の方がワシよりも強いんだからな」
「そうはいかねぇよ。まぁ、師匠の言う通りだけど、鍛えてもらった過去は消えないからな」
「ハッ、可愛げのある奴め」
眉間に皺を寄せつつも、嬉しそうに口元へと笑みを浮かべる羅針剛。
「で、一体何があったか説明してみろ」
羅針剛と軽い挨拶を交わしている間も、丈一郎の表情には険しさが宿っている。
弟子の実力と性格をよく知っているからこそ、これが深刻な事態を表していることを感じ取る。
「––––––––––––沖縄にいるレオナのグループの約半数がダンジョンで命を落としたらしい」
こんな結果を誰が予想できただろうか。
丈一郎もレオナの実力をしっかりと認めているからこそ、迷いなく『青の洞窟ダンジョン』を任せることができた。
一方の羅針剛も、レオナの実力をよく知る者の1人として、驚愕に震えていた。
「それはつまらない冗談か?」
流れるのは「沈黙」。
「俄には信じられん話だが、お前が嘘をつく理由もない」
「あぁ。俺だって信じられねぇさ。あいつは『特魔級ダンジョン』を終始笑顔で単独攻略できるような奴だからな」
そう言いながら丈一郎は手に持つ携帯へと視線を落とす。
「あいつが言うには、ダンジョンから現れた人型のモンスターが関係してるらしくてな。人の言葉を話し、俺たち人間に何か恨みのようなものを抱いてたんだと」
羅針剛は興味深そうに下顎の髭を撫でる。
「ほぉ、意思疎通のできるモンスターか。つまりそいつは、あのレオナを足止めできるほどの強者ということか」
「フッ、笑っちまうけど、足止めなんてレベルじゃねぇ・・・・・むしろレオナの方が押されたらしいぜ」
「それはまた・・・・・」
再び驚愕させられた羅針剛は、胸の内に芽生えた恐怖を押し殺すため、威嚇の表情を何もない空間へと向ける。
「血が沸るわい!」
「熱くなってるとこ申し訳ねぇが、レイド祭は一時中断させる。ダンジョンの異常発生とその人型モンスターは何かしら関係があるかも知れないが、今の状態での深入りはあまりにもリスクが大きいからな」
「そういうことなら仕方ないじゃろ。急ぎ魔塔連に知らせ––––––––––––」
羅針剛の言葉を遮って大音量のアラートが丈一郎の手に持つ携帯から鳴り響く。
周囲にいるハンターたちは驚いた様子で丈一郎たちへと視線を向ける。
「おい、マジかよ・・・・・」
丈一郎の表情は一層険しくなる。
それは羅針剛とて同様。
周囲のアラートの意味を理解していないハンター数千人はただただ困惑しいく。
『神託者』の携帯電話からアラートが発せられた時、それは、国内に『特魔級ダンジョン』が出現したことを意味する。
「師匠、ここは任せる!」
「安心して行ってこい!」
こうして北海道に滞在しているハンターの指揮は羅針剛に任せ、丈一郎は1人『特魔級ダンジョン』の発生源と見られる「長野県の諏訪湖」へと向かうのだった。




