5話 剣聖の記憶:始まり
「––––––––––––ん・・・・・何だ、ここ––––––」
先程まで夜に包まれていた景色は、一瞬で快晴広がる朝の景色へと様変わりしていた。
「おい! 気持ち悪りぃんだよ、その髪」
「痛いよ・・・痛いってば」
「ハッ、忌み子の癖に痛がってんじゃねぇーよ!」
流星は、下から聞こえてくる不愉快な会話へと視線を向ける。
「あの子たちは一体・・・・・」
見たところ、6歳ほどの4人の少年たち。
3人が寄ってたかってたった1人に暴言と暴力を振るう姿がそこにはあった。
流星の体は第三者視点となり、宙に浮遊して透明となっている状態だが、それを気にする素振りすら見せず、イジメを受けている少年のために心を痛める。
「君たち! これ以上は、俺も黙って見てられないよ」
「鬼のくせしてどうしてそんなに弱いんだよ! なぁ、ちょっとは反撃してみろよ」
「やめて、やめてよ。僕は鬼じゃない・・・・・何もしてないのにどうして––––––––––––」
流星はここで、自分の声どころか、姿すらあの少年たちに見えていない事実に気が付く。
「もしかして・・・・・立体的になっただけで、これはただの映像ってことなのか? てことは、あの中の誰かが剣聖ってこと?」
流星が今持つ称号【記憶喪失剣聖】は、【不撓不屈】と【盗人】が変化したもの。
そう考えると、剣聖はあまりいい人ではなかったのかも知れない考えが浮かび上がる。しかし、流星のようにやむを得ない理由を背負って盗みを働いてしまっていた可能性も捨てきれない。
そう、忌み子と蔑まれるあの少年のように。
「何もしてないだと・・・・・毎日毎日、村中から食べ物を盗んでる奴が何言ってんだよ!」
「カハッ」
「みんな言ってるぞ。お前のその白い髪は災いだって。早く親のところにいっちまえばいいってさ」
「––––––––––––うっ!」
いじめっ子たちは、土で汚れている白髪を掴み、引っ張り上げる。
「どうして・・・・・僕は生きていたいだけなのに・・・・・」
あまりにも酷似している。
流星は一人、心を痛めていた。
すると、白髪の少年の悲痛な叫びが脳裏にこびり付いたまま、シーンは変化する。
「何だよ・・・・・こんなのって––––––––––––」
それはあまりに残酷で、容赦のない光景だった。
辺り一面が炎に焼かれ、村中が血の海と化している。
白髪の少年をイジメていた少年たちも、蔑んでいた村の人々も、皆が息絶えた光景が広がっていた。
ただ一人、炎の壁に逃げ場を塞がれた幼い少年は、全身を震わせている。
「・・・・・マ・・・マオ、ウ・・・・・マオウ、コロス」
村を焼いた犯人だと思われるその存在は、髪も含めて全身が白く、牙や手足の爪は鋭く、肩や膝、腰といった関節部分の骨が異様に隆起した形となっているが、二本足で歩くその様は、まるで人間のよう。
「・・・・・白鬼」
「そういうことか––––––––––––」
この時代の人々は、人を襲うこの未知の存在を「白鬼」と呼んでおり、この少年は髪色が酷似してしまっているが故、「忌み子」と蔑まれていたのだ。
生き残ったのは一人だけ。その少年には親もおらず、生きたいと思うほどの強い理由もない。
少年の顔が絶望と諦めの色へと染められていく。
その瞬間、突如流星の頭の中へと知らない記憶が流れ込んできた。
それは、見ず知らずの男女の笑顔。愛する、大切な存在へと向けるそんな笑み。そして聞こえる「生きてほしい」と願う想い。
「熱っ––––––––––––え?」
気が付くと、流星の目の前には白鬼が佇んでいた。
「ッ!?––––––––––––グハッ」
尋常ではない痛みが腹部に生じ、大量の血を撒き散らす。
「嘘だろ・・・・・息が––––––––––––グッ––––––––––––ゴハッ」
容赦無く繰り出される拳の嵐。
白鬼の尖った拳が、防御した流星の腕をことごとく抉る。
「・・・・・なるほど。要するにこの体は、剣聖のモノってことか。ステータスが反映されてるおかげで何とか意識は保ててるけど、そう長くは持ちそうにないな」
ステータス画面を開いてみるが、ポイントは10000Pのまま。メモリーツリーも他に解放できそうな球体はない。
「今の俺じゃ、あいつの攻撃を喰らうのは相当にまずい・・・・・けどもし、こっちの攻撃を当てることができたら––––––––––––」
流星は、より一層相手の行動に目を凝らす。
再び拳が顔面に向かって繰り出された瞬間、流星の速さが上回って危なげに避けた後、振りかぶった腕を鞭のようにしならせ繰り出した打撃で、白鬼を遠方へと勢いよく吹き飛ばす。
しかし、直後に周囲へと派生した雷のエネルギーに全身を蝕まれる。
「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「––––––––––––マオ––––––––––マオウ、コロス」
「ブフッ」
内臓が破裂したような痛みと同時に大量に吐血する。
勢いよく吹き飛ばされた流星は、そのまま炎の壁を抜け、後方の岩山に激突した。
「カハッ––––––––––––はぁはぁはぁはぁ」
まるで攻撃が効いていないと思うほど、白鬼の動きは鈍ることなく、プログラムされた機械のように淡々と同じ言葉を繰り返しながら流星の下へと近づいてくる。
「俺は、こんなところで死ぬわけにはいかない・・・・・生きなきゃ行けない理由があるんだ!」
地面を強く踏み締め、立ち上がる。
「さっき初めて君を目にした時、とても弱く見えた。だけど、「剣聖」と呼ばれるくらいに強くなった・・・・・だから、勇気をもらえたよ。こんな俺でも、強くなれるんだって!」
白鬼の容赦のない拳が目と鼻の先に迫った瞬間、流星の全身が白いオーラに包まれる。
突然生じた白いオーラに白鬼の拳は阻まれ、ピタリと動きを止めた。
「強くなるんだ。もう何も奪われないくらい」
握り込んだ右拳に黒きオーラが纏わりつく。
「うおぉぉぉ!」
繰り出した漆黒の拳が白鬼の頭部を一撃で破壊する。
次第に全身がモヤとなって消えていき、辺りは、先ほどの暗闇の景色に戻っていた。
<『剣聖の記憶』を解放。元祖「白気」からスキル『白魔気』を獲得。10000×10=100000Pを獲得>
<ジョブ『剣聖見習い』を獲得>
【 ステータス
称号:【記憶喪失剣聖】
ジョブ:『剣聖見習い』
スキル:『×10のポイント増加』『白魔気』
体力:1000
武力:3000
防御力:1000
敏捷:6000
技術:0
運:5000
魔力:100
『メモリーツリー:5%「110000P」』】
「剣聖見習いか・・・・・」
やっと、やっと俺にもジョブが与えられた。
偶然手にした力だけど、この力は紛れもなく俺の希望だ。
「よしっ・・・・・一先ず、帰ってからのこと考えよう」




