50話 熱くしてくれる男
レイド祭前日の夜。
塔主室。
真夜中、部屋の扉がいきなりノックされる。
「レオナか?」
「そうだ」
「入っていいぜ」
丈一郎の了承よりも少し早く開かれる扉。
「随分遅くまで訓練してたみたいだな。んで、あいつらはお前の思うマシにはなったか?」
レオナは少しため息をつくと、呆れ顔で口を開く。
「ギリギリで第一関門突破と言ったところだ。全く、S級ともあろう者があの程度の覇気もまともに受けれんとは、今後が思いやられるな」
「まぁ、あいつらの言い分も確かに分からなくはねぇ。もちろんお前の気持ちもな」
「何を腑抜けたことを」
「互いの意見が食い違うのは、同じS級だとしても、俺たち『神託者』とあいつらとじゃ天と地ほどの差があるからだ」
レオナは丈一郎の言葉が気に食わないのか、終始眉間に皺を寄せ、不機嫌な表情を浮かべている。
「特にお前は異常個体だろうがよぉ。強くなって欲しい気持ちがあるなら、もう少し寄り添ってやってもいいんじゃねぇか」
「はぁ、聞くに堪えんな。このままでは、更に多くの死者が出ることなど目に見えている。いっそのことやる気のない奴らは放っておいて、新人発掘にでも力を入れてみるか?」
丈一郎は、レオナのらしくない発言に瞳を丸くする。
「気持ちわりぃな、おい。誰に対しても興味を抱かないお前が新人発掘だぁ? 寝言は寝て言えよ」
しかし、レオナの真剣な表情に、丈一郎のふざけていた笑みはかき消されて次第に真剣な表情へと変わっていく。
「ここに来た目的は何だ?」
レオナは待っていたと言わんばかりにほくそ笑む。
「私を、佐々木 神威のいるグループの担当へと変更してもらおう」
丈一郎の心臓は思わず跳ねる。
「無茶言うんじゃねぇよ」
「そうか? 塔主のお前ならば、指先一つで容易いことだろう。それとも、私には任せたくない別の理由でもあるのか?」
レオナの推測は当たっていた。
丈一郎はあえて、佐々木 神威のいるグループの担当をレオナにはしなかったのだ。
実力のある者は固まるべきでないというのも理由の一つだが––––––––––––
「何を企んでるんだ?」
丈一郎の鋭い視線を笑顔で飄々と流すレオナ。
「そう怖い顔をするな。母国に帰還してからすでに一週間以上経過しているんだ。『L』の話が私の耳に入って来ないわけがないだろう」
丈一郎は水と同様、レオナにだけは『L』の話を知られてはいけないと考えていた。
理由は単純、強者に目がない性格ゆえ、絶対に面倒なことになるから。
しかし、『L』という名称は限られた人物しか知らず、佐々木 神威の適性試験結果も外部の者は知らないはず。それなのにどうして、今この場でレオナの口から2者の名前が出て来たのか頭を悩ませる。
「『L』については偶然耳にしてな。詳しいことは愚弟が教えてくれた」
「人の心を読むんじゃねぇよ」
きっと姉の威圧感に耐えられなかったんだろうと、水を不憫に思う丈一郎。
「それで、佐々木 神威に関してもうちの職員に無理矢理聞いたのかよ」
「そんなことはしていない。貴様は私を何だと思っている?」
言葉の通じない猛獣の類だと思っています––––––などとは口が裂けても言えるわけがない。
「まぁいい。それに関しては先ほど偶然帰り際の職員が話している内容を耳にしたんだ––––––––––––自らA級を志願した新人がいるとな。それでアモンを問い詰めてみたところ––––––––––––」
「やってんじゃねぇかよ!」
我慢できずに思わず突っ込んでしまい、自身のペースがことごとく崩されている現状に、丈一郎は頭を抱える。
「人の話は最後まで聞くものだぞ」
「お前が言うんじゃねぇよ。ったく––––––––––––––」
外部の者へのハンターの情報公開は、受験者本人でも試験結果は知ることができないのだが、内部に限っては本部内のすべてのサーバーにハンター1人1人の詳細な情報が保存されているため、単なる情報の閲覧ならば職員であれば誰でもできてしまうのだ。
そして当然、佐々木 神威の試験結果は本部内の多くの者たちの目に留まり、話題を産んでいた。
「内部情報を外部に持ち出されちゃいないものの、内部管理を徹底させた方が良さそうだな」
「フッ、アモンをあまりいじめてやるなよ」
丈一郎は一度大きなため息を吐くと、思考を切り替える。
「んで、『L』と佐々木 神威。この2人の名前を出したってことは、お前も同一人物だと睨んでるってことだろ。どうしてそう思った?」
レオナは、先日の『富士山』での手合わせと佐々木 神威の試験結果を聞いて、ほぼ確信を持ってこの2人が同一人物であると思っている。剣を使っていたこととジョブが『剣士』であることの他に、実力を隠そうとしている点に共通点を感じた。
しかし、そのことを丈一郎に話すことはしない。
「秘密だ」
「んだよそれ・・・・・まぁ大方の予想は成り立つぜ。お前は、『L』と接触したことがあって、結果を聞いて改めて感じる共通点があったってところだろうよ」
その見事な推理力に思わず笑みがこぼれてしまう。
「流石だな––––––––––––愚弟には言ったが、私の許可なく手は出すなよ」
「それはこっちのセリフだぜ?」
両者笑みを浮かべているものの、A級以下のハンターでは立っているのもやっとな覇気が室内に荒れ狂う。
「まっ、そういうことならしゃあねぇな。今回は特別だからな」
「礼を言うぞ」
「おう」
「あぁそれと、新人発掘に関しては本心だ。『L』のような逸材がまだまだ隠れていないとも限らないからな」
レオナは目的通り佐々木 神威の属するグループのリーダーを任されることになったことで喜びの笑みを浮かべながら塔主室を後にする。
「私としたことが、はしゃぎすぎてしまったか」
今の自分を客観視すると、不意に恥ずかしさが込み上げて来る。
『富士山』での約束を破るつもりは一切ない。ただ、気づいてしまったからにはどうしても会いたい気持ちが抑えられない。
またあの時の興奮を可能性を感じたい。
「まさか、私をここまで熱くしてくれる男がこの世にいてくれるとはな」
今日のレオナは、明日のことが楽しみすぎて眠れる気がしないのだった。




