49話 感情移入
「–––––––––––– ハッ」
「大丈夫か? 流星・・・・・?」
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・」
地に横たわる俺を心配そうに見つめる命。
姿は違っても、彼女は妙なんだ。
一体、妙がいつ亡くなったのかはまだ分からない。
その理由を確かめることができるのかも分からない。
ただ一つはっきりと言えるのは––––––––––––あの場で、何としてでも守り抜くべきだったってことだ。
「えっ––––––––––––流星!?」
俺は、無意識に命を抱きしめていた。
記憶が再生されているわけじゃない。
今この場にいるのは、紛れもなく八尺 流星本人。
だけど今この瞬間は、どうしようもなく命のことが愛おしく思えてしまった。
「ごめん・・・・・ごめん・・・・・」
「どうして流星が謝るのだ?」
俺はふと我に帰り、命から距離を取る。
「いや・・・・・ごめん」
「訳も分からずそんなに謝られたら困ってしまうだろう」
「確かに」
命は少しばかりのため息と笑みをこぼす。
「一先ず、帰るとしよう」
そうして俺たちは命の家へと戻り、出発の準備をする。
「流星もかなり大きな事情を抱えているんだろう。距離は離れているが、いつでも歓迎するぞ」
「ありがとう」
転職ミッションなんてモノがなければ今すぐにでも打ち明けたい。
「いつか、命に聞いて欲しい話があるんだ」
「その時を楽しみにしているとしよう」
命は笑顔でそう答える。
俺も、命に真実を話せる時を楽しみにしているよ。
すぐに打ち明けてくれなかったことを怒られるか––––––––––––いや、妙であった命なら、きっと再会を嬉しく思ってくれるはず。だけど同時に、俺に宿るのは記憶だけだと知り、悲しくもあるはず。
俺はそんな2人の再会を、第三者視点で見ていることだろう。
だけどそれでいい。
俺は八尺 流星であって凪星(剣聖)ではないから。
それでも、できることならともに過ごしてみたいと思ってしまう気持ちがある。
「あのさ」
「どうした?」
「俺に着いて来てくれない?」
命は少しの間フリーズする。
「それは・・・・・流星とともに東京へ行こうということで合っているか?」
「うん。命にはお世話になったし、今度は俺の家で暮らさないかなって––––––––––––もちろん、2人きりじゃないよ。今は知り合いの子が一緒に住んでるから3人になるけど」
「・・・・・そうだな。それも良いかもしれないな」
命は本心からそう思っている笑顔を俺へと向ける。
「だが、今すぐにはできないな」
「・・・・・そっか」
「そう残念がるな。一度、故郷である中国に行ってみようと思うのだ。未練とかではなく、純粋に今の中国がどのように変わったのか興味が湧いてな」
黒川 命とは、明らかに日本人の名前。つまり、妙時代のことを言っているということ。ここは触れないでおこう。
「いいと思うよ。もしかしたら、俺も用事で中国に行くことがあるかも知れないから、その時は案内を頼めるかな」
「もちろんだ! 私が最高の旅行を提供してあげよう」
いつもと変わらない綺麗な命の笑顔。
だけど、今朝とは明らかに異なる吹っ切れた爽やかな雰囲気を纏っている。
「それじゃあ、また会える日を楽しみにしてるよ」
「私こそだ」
俺たちは別れ際に握手を交わし、俺は1人、十勝岳を下るのだった。




