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記憶喪失剣聖  作者: 融合


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49/57

48話 剣聖の記憶:感情

 【ステータス

 

 称号:【記憶喪失剣聖】【メテオ】

 ジョブ:『剣聖見習い』

 スキル:『×10のポイント増加』『白魔気』『聖剣メテオ』『聖剣の恩恵』『絶歩』

 

 体力:12331

 武力:14003

 防御力:9768

 敏捷:12517

 技術:11381

 運:10000

 魔力:10032

 

 『メモリーツリー:20%「2P」』】

 

 『30%:感情』までのメモリーツリーを全て解放し終えたため、『記憶の道標』が発動する。

 指し示すは、今まさに俺たちがいる山の頂上だった。

「流星・・・? どうしたのだ、しっかりしろ!」

 全身の力が抜け、視界は再び回転する。

 

 俺は剣聖の意識となり、その隣には黒川 命ではなく妙の姿があった。

 目前に佇み、異様な雰囲気を纏った黒ずくめの人物。

 全員が、足元と手元が隠れるほどの長さを有する艶のあるゆったりとした黒服を纏っており、内4名は黒い布で顔をしっかりと隠し、先頭に立つ1人は、艶のある銀髪と白い肌の整った顔立ちを一切隠すことなくこちらを見つめている。

「あんたら誰?」

 またしても、俺の口が勝手に動く。

「君のほうこそ誰なんだい?」

「––––––––––––凪星なぎ。妙がつけてくれた大切な名前だ」

 剣聖改め、「凪星」の言葉を聞いた妙の表情がほっこりとした喜びを表すモノとなる。

 しかし、銀髪の男の顔に笑みは一つもなく、怒りに満ちた表情を浮かべていた。

「それはよくない・・・・・非常によくないなぁ。いつまで経っても帰って来ないから迎えに来てみれば––––––––––他所の男に絆されるなんて、それはダメだろぉ」

 爽やかな立ち振る舞いを見せていた男の姿はすでにどこにもなく、ただただ怒りに震えた猛獣のような殺気を放ち始めていた。

「僕がもっと早くに迎えに来ていれば・・・・・あんなガキに妙が絆されることもなく、剣王様と勇剣緒様を悲しませずに済んだだろうに!」

「何か勘違いしておるようだがな、こやつは弟のような存在だ。愛情はあれど、恋心など微塵もない」

 どこか震えた声でキッパリと言い切る妙。

 凪星を思ってのためか、それとも本心なのかは分からない。

 ただはっきりとしていることは、目の前にいる銀髪の男の怒りが一向に収まる気配を見せないということ。

「それが恋心に変わらない可能性がどこにあるんだぁ? 知ってるんだぞ、お前が勇剣緒様のことを愛していないことぐらいな。だけど剣王様の命を聞いたのは仲間のためだったんだろう」

 あいつの言う通り、妙はモソ族のみんなのために望みもしない結婚を受け入れていた。だけど、みんなが亡くなってしまった今、結婚を縛るモノは何一つ存在しない。

 それなのに、妙の顔つきは険しくなっていく一方。

「この墓は、その仲間たちの物か? だから戻る必要はないと?」

「皆に指一本たりとも触れることは決して許さん」

「大丈夫。僕だって彼女たちの死は悲しく思うさ」

 すると、銀髪の男の鋭い視線と俺の視線が重なる。

「けどさぁ、だからって婚姻がなくなるわけじゃない。もし理由が必要というなら、僕が用意してやろう」

「やめろ!!」

 何を察したのか、突然妙がもの凄い剣幕で怒鳴る。

「こやつに指一本でも触れてみろ、死より恐ろしい呪いをかける」

「あいにくと、僕も君と同じで死を恐ろしいモノだとは思ってはいない。呆れるほどに脅しにすらならないね」

 男の怒りと楽しみが混ざり合った狂気の笑みが妙へ向けられた瞬間、俺=凪星は聖剣を手に握る。

「おっと、そっちのチビはやる気十分みたいだな」

「やめるのだ凪星! あやつは剣王の右腕なのだ。これまで幾度となく強者を見てきたが、次元が違う」

 妙に言われるまでもなく、体は正直だ。

 表情は平静を保っているものの、全身が奴の威圧感に圧倒され、震えが止まらない。

 今の俺の強さは、14歳の凪星を上回っている。

 それは魔力の影響であり、剣を構えて隙を窺うも、そんなものは見当たらない。

 つまり、今の俺でもこの銀髪男を倒すのは相当に厳しいということ。

「フッ」

 笑みをこぼすが、反応はない。

 これはあくまでも記憶の体験。戦闘は結末さえ合っていれば比較的自由度は高いが、こと会話となると、記憶に沿わない行為は感知されないみたいだ。

 だけど、俺自身、笑みをこぼせたことにはびっくりしている。

 そして笑みをこぼした理由は、『富士山』で戦った『神託者』を思い出したから。

 あの人と比べたら、目の前の存在は可愛く見えてきてしまう。

 だけどそれが間違いだったと、すぐに知ることになる。

「やれ」

 男が指示を飛ばした瞬間、背後に控えていた4名の刺客が一斉に俺と妙に向かって突っ込んでくる。

 正確には、妙を奪うための突撃。

「やれるものならやってみろよ!」

 無意識に口が動かされる。

 どこかぎこちない感じだが、はっきりと今の凪星は怒りというものを覚えている。

「凪星・・・・・」

「少し離れてて」

 妙が数歩距離を取ったところで、白魔気を発動する。

「悪く思うな、少年」

 覆面の人物の声が耳元で響くと同時に、四方八方から完璧に連携の取れた鋭い刃の攻撃が振るわれる。

 俺はその全ての攻撃の軌道を見切り、その場から一歩も動くことなく4名全ての手足の腱を断ち切って行動不能にする。

「マジ? 思ってた数百倍強いじゃんかよ」

「凪星・・・・・其方は一体・・・・・」

 銀髪の男と妙の驚く視線が同時に俺へと向けられる。

「あんたも来なよ」

「はっ、有象無象を倒したくらいで何いい気になってんの? あーあ、大人しくしてればちょっと痛い目見るだけで済んだのにさ。僕を挑発したからには覚悟はできてんだろうなぁ?」

 男の挑発に屈してはいけないと、力の籠った目つきと聖剣の鋒を向ける。

「もうよい!」

 そう言いながら、妙は俺の横をスタスタと歩いて行く。

「何で?」

 訳も分からず、またしても無意識の言葉が漏れる。

「こやつは『天魔』なのだ。剣王が保有する最大戦力「天魔神教」の首領であり、中国では剣王の次に恐れられる存在」

「いつから剣王様を呼び捨てするようになったんだい?」

 男の笑顔の裏側に隠れた確かな怒りが感じられる。

「まぁ、戻って来る気になってくれたのなら、多めに見てあげるよ。それじゃあ、我が家に帰ろうか」

 背を向け、遠ざかっていく妙。

 俺だけでなく、凪星が例え自身を危険に晒そうとも黙って見ている訳がない。

「待てよ」

「凪星!」

「君もしつこいなぁ、そんなんじゃ女子にモテないよ。まだ若いんだし、新しい出会いを見つければいいじゃんか」

 何を言ってるんだ、この天魔という男は・・・・・。

 凪星の中で、妙はとっくに手放したらいけない大切な存在になってるんだ。

「関係ない奴は黙ってろ!!」

 初めて見せる激怒の様子に、妙は面食らっている様子。

 俺も、凪星がこれほどまでに感情的になるなんて思っても見なかった。

「もう、一人ぼっちは嫌なんだ・・・・・妙のことが大切なんだ。このままどこの誰かも分からない奴のところに行くくらいなら、僕が一生君の側にいてあげる」

 見開かれる妙の瞳。

「僕が君を幸せにしてあげる。僕はいなくなたりしない! 君を、一人なんかには絶対にしない!」

「あのさぁ・・・・・彼女には婚約者がいるんだよ。それなのに何さ、愛の告白? ほんといい度胸してるよ。そんなに死にたいなら、望み通りにしてやるよぉ!!」

 突如天魔の周囲に沸る漆黒のオーラ。

 いや、あれは炎か?

 似ている・・・・・彼女が放っていたあの時の力に––––––––––––

「そっちの力が白だとすると、僕は黒。さて、どっちが強いと思う?」

 そう言うと、天魔は自らの周囲に存在している炎を操り、炎の渦を発生させて自らと俺をその中へと閉じ込める。

 逃げ場のないこの空間で、俺のできることは一つ。

 奴を全力で切ること。

 だけど剣を振るおうとした途端に渦を成していた漆黒の炎は俺の体に纏わりつき、灼熱の熱さによる苦しみに蝕まれる。

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ––––––––––––––––––––––––グフッ」

 全身の苦痛は、視界が開けると同時に腹部の痛みにかき消されていく。

 聖剣が手から滑り落ちる感覚。

 夢でも見ているかのようなほんわかとした感覚。

 視線の先で泣き叫ぶ妙の姿。

 やがて視界は横になり、天魔の去っていく後姿が映る。

 体は徐々に寒くなり、視界は黒く、孤独の恐怖にしばらくの間襲われるのだった。

 

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