46話 ダンジョンの意思
「ダンジョンに意思があるのか・・・・・?」
衝撃のあまり、心の中で呟いたはずの一言を口に出してしまっていた。
「何? それは一体どういうことだ?」
口に出してしまった以上言い逃れはできない。だからと言って、この力を正直に話すことは論外。
「『ジョブ』の力で、ダンジョン内の状況を感じとることができるんだ」
「あーそうか、今ではそのような力が主流なのだったな––––––––––––それで・・・・・意思とはどういうことだ?」
命は、余計なことを言ってしまったと心配しているのか、多少の間を開けた後に再び俺へと質問を返す。
「魂が囚われているのか、それとも意思だけがその場所にとどまっているのかは分からない。ただ言えるのは、彼女たちの憎悪はその場へと残り続けてるってことだ・・・・・そして、ダンジョン自身が解放を望んでいる」
俺の話を聞いた命の表情は、今にも泣き出してしまいそうなほど弱さを全面に押し出したモノとなっていた。
「そんな・・・・・それじゃあ私のしていたことは、ただ苦しめていただけだということか・・・・・」
「––––––––––––それはきっと違う、と思う。感じるんだ––––––怨念の中に宿る確かな温かさを」
これは嘘だ––––––––––––というより、『剣聖の記憶』から推察した俺自身の客観的な推測。
「これ以上苦しませたくない––––––これ以上歩みを止めていて欲しくないと思う心の優しさが」
俺はゆっくりと隣へ視線を向ける。
重なった命の瞳には小さく輝く涙が浮かべられていた。
「この場所と命に関係があるんなら、この優しさは、きっと命に向けられたモノなんじゃないのか?」
「妾に––––––––––––」
「そうだ」
「・・・・・・流星。手出しは不要だ。私に任せて欲しい」
一瞬記憶の中の一人称に戻った気がした。
今の俺は彼女にとっては会って間もない他人にすぎない。
だからこそ、無理に自分を抑えようとする必要はないのに。
ただ、今の黒川 命に至った彼女にしか分からない歴史がある。それはミッション関係なく、俺が口を出していいことじゃない。
命が結界を解くと、俺自身にも感じ取れる魔力の渦がダンジョン内から漂ってきた。
確かに、身震いしてしまうほどの刺すような殺意を感じる。ただ、魔力の濃さ的には高くてA級と言ったところだろう。
「行くぞ。もたもたしていたらハンターたちが来てしまうからな」
ダンジョン内は、外側から見ていた景色とは打って変わり黒い霧に辺り一帯が覆われた状態となっている。
あれほど鮮明に見えていた石板は一つも見当たらず、モンスターの姿すら見えない。
「命!」
返事が返って来ない。
命の実力がどの程度なのかは分からないけど、この状況じゃ探そうにも方法がない。剣戟でどんなに霧を切り裂いたところで、核を破壊しないことには永遠とこのまま。下手をしたら命を巻き込んでしまう可能性だってある。
だけど不思議なことに、ダンジョンに入ってからというもの、モンスターが1体たりとも現れない。
「どういうことなんだ?」
念のため周囲を警戒しつつ、大きさも形も何もかも分からないダンジョンの核を探す。
だけど案の定、一向に見つけられる気配がしない。
本格的な焦りが胸の奥から込み上げて来ようとした頃、突然隣に気配を感じる。
魔力ではない。人間の本能というモノで、普段は感じることのできないエネルギーを感じることができる時がある。今がまさにその時––––––––––––
「––––––––––––妙様の側にいてくれて感謝してるよ」
耳元で囁かれる一言。
それは、記憶の中で聞いた包という名の女性の声。
剣聖が初めて会った時はトゲトゲしく耳に「キーン」と響くものだったのに対し、心から感謝の気持ちが込められた優しさに溢れる声となっていた。
直後、俺の目の前へと1体の白鬼が姿を現す。
「モンスター?」
疑念を抱きつつも、聖剣を取り出して瞬時に断ち切る。
<記憶と繋がりを持つダンジョンをクリア––––––––––––10000×10=100000Pを獲得>
よく分からなかったが、霧が明け、命の姿も見えてきたことで一安心する。
霧とともにお墓の痕跡も跡形もなく消え、その場所は緑生い茂る自然のみの景色となった。
俺は涙を拭う命へとそっと近づく。
「感謝するぞ、流星」
「いや、俺は何もしてないよ」
「そんなことはない。少しずつだが、これから前を向いていけそうな気がするんだ」
俺の知らないところで何があったのかは聞かないでおこう。
彼女の明るい笑顔を見られただけで、満足だから。
もう心配する必要もなさそうだな。
この先は、俺にしてあげられることは何もない。
次の目先の目標は、これで解放可能になった『30%:感情』。
「ステータス」




