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記憶喪失剣聖  作者: 融合


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44話 地獄の特訓

 魔塔連本部地下訓練場。

 この場所には、武器と防具、バフルーンといったハンターの必需品が保管されている倉庫に、個室仕様になったいくつもの訓練スペースと、開けた共同訓練スペースが設けられている。

 通常ハンターはダンジョンを巡って研鑽を積み活動するため、魔塔連の訓練スペースを使用する者は今ではほとんどいない。

 ただしこの訓練場は、S級ハンターの力にも耐えられるように設計されているため、多少の無理は許容範囲内。

 そして今日この場には、計6名のハンターが集まっていた。

 内一人は夜神レオナである。

「今日この場に集まってもらったのは他でもない、お前たちを一から鍛え直すためだ!」

 レオナの目の前には、上魔級ダンジョン『富士山:溶岩地帯』に集まったアモンを除く5名のS級ハンター。

「おいおい、アモンの姿が見えねぇじゃねぇかよ。あの時のメンツならいなきゃおかしいいだろぉが」

「確かにな。だが、あいつには他にやることがある」

「そんなこと言ったら、俺たちにもやることはあるんだけどな」

 イライラを募らせるバクラへと、レオナは挑発的な笑みを向ける。

「どうした? 今日はやけに挑発的じゃないか」

「たりめぇだろうが。あんたが知ってる以前の俺たちは確かに弱かった。けどな、今の俺たちはS級だ。あんまナメんじゃねぇぞ」

「いい目つきだ」

 そう言うと、レオナは一度全員の表情を確認する。

「お前たちも雷坊と同じ意見か? ん? 愚弟よ」

「そうですね・・・・・正直に言うと、姉さんの基準は普通ではないと言いますか・・・・・僕たちは今の実力でも十分、S級であると誇ることはできます」

「ほほぉう」

 挑発的な笑みは、次第に獲物を見据える鋭さへと様変わりしていく。

「2人とも何を言うか。お姉様がせっかく鍛えてくれるというのに––––––––––––」

「あぁ? イカれたか美玲。こいつの特訓がどんなに地獄だったか覚えてねぇのかよ」

「そ、それは・・・・・」

「フゥ〜・・・もういい。わざわざここまで足を運んでおいていつまで駄々をこねるつもりだ? 確かに私はお前たちから見ても化け物だろう。ならば、お前たち自身が惨めになるまで化け物の私が分からせてやるとしよう」

 レオナの魔力の気配が一気に膨れ上がると、建物全体が大きく振動し始める。

 赤くも黒くもない透明なオーラは、まるで炎の周囲に見られる空間が揺らぐ現象を引き起こす。

 レオナを中心とした半径5メートル範囲内は、レオナのテリトリー内と化した。

「正気かよ。いくら頑丈っつても、あんたの力に耐えられるようにはできてねぇぞ!」

「姉さん、僕たち諸共関係のない従業員まで殺す気ですか!」

 先ほどまで不満たらたらだったバクラと水が、またもや息ぴったりに焦った様子を浮かべる。

「心配はいらない。これ以上魔力を上げることはしないし、今からたった一撃だけ放つ。どんな方法を用いても両足で立ち続けられていれば帰ってもいいぞ––––––––––––ただし! 片足でも着いた時は地獄の特訓スタートだ」

 本来S級ハンターとは、国民たちへと世の中の安全を示し、国の顔となるエリートである。現に、この場で怖気ずく熱真ですら、国民にとっては憧れの的なのだ。

 しかし今、S級ハンター皆が身震いとともに息を呑んでいる。

「挑戦したい者は前に出ろ。出ない者は強制的に特訓へ参加してもらう」

 レオナの忠告を受けても尚、迷わず前に出るバクラと水。

 続いて熱真も足を何とか前に踏み出そうとするが、レオナの鋭い視線が向けられる。

「お前は引っ込んでいろ。今の状態では命を落とすぞ」

 レオナの発言に更に恐れをなした熱真は、大人しく部屋の端へと寄る。

「私も遠慮しておく」

 美玲も熱真同様に端へと身を寄せる。

「どうした? 迷うくらいならばどいていろ。安全の保証などできないぞ」

 創真は葛藤していた。

 今すぐ逃げ出したい衝動は訓練が嫌だからではない。レオナの強大な圧によるもの。

 むしろ訓練に対する姿勢は前向き。

「もしも俺がここで耐え切ったとしても、俺は訓練に参加する」

「ほう。凌げる前提が気に食わないが、その姿勢は愚弟たちにも見習って欲しいものだ」

 創真の発言を受けたレオナの表情が若干嬉しさを含む柔らかなものとなるが、感じられる圧に変化はない。

「俺はもっと強くならなくちゃいけない。だからまず、身をもってあんたとの力の差を実感する」

「ハッハ、気に入った! それじゃいくぞ馬鹿どもぉ!」

 周囲に発散していたオーラ全てが右拳一点に集中する。

 考えられるのは前方への範囲攻撃。

 バクラは全身を雷と化すと、一瞬にしてレオナの背後へと移動して距離を取る。バクラもバリバリの戦闘タイプかつ相当な火力の持ち主であるが、レオナと真正面でぶつかり合うのは自殺行為。

 一方の水は、多少のダメージは覚悟の上、周囲一帯に高密度の炎の壁を展開する。

 創真は水同様に自身の周囲を氷の壁で守りつつ、幾つもの鋭利な棘を有した氷の巨大な波をレオナへ向けて放つ。

「その程度か!」

 前方へ向けて右拳を放ったはずの衝撃は、レオナの周囲一帯へと勢いよく派生し、衝撃でバクラを天井へとめり込ませ、水と創真の炎と氷を打ち消した後、2人を後方へと勢いよく吹き飛ばした。

 結果、3人とも意識は保っていたものの、レオナの試練を乗り越えることはできなかった。

「おいおい、こりゃまた派手にやってんなぁ」

 嵐の中の静けさに響く呑気な男の声。

「いたのか」

「こんな派手にやられちゃ嫌でも無視する訳にはいかねぇだろぉがよ」

「何を言ってる? この程度、準備運動にすらならん!」

「何を言ってるは俺のセリフだよったく、ここの修理費は誰が出すと思ってんだ?」

 レオナの飄々とした態度にため息をつきつつ、頭をかく丈一郎。

「私にそこまでの金はない。よってお前が負担することになるな」

「簡単に言ってくれるぜまったく」

 呆れた表情を見せる丈一郎へと、鋭い視線を向けるレオナ。

「ならば聞くが、たった何千万という金で何億という人々を救うことができるのだ––––––––––––レイド祭」

 突如レオナの口から飛び出した「レイド祭」という単語に、真剣な表情を浮かべる丈一郎。

「近頃のダンジョンの突然変異や異常発生している件を踏まえた上で、魔塔連が用意したイベントなのだろう」

「まぁな」

「下調べを念入りに行なっているとはいえ、仮にも未登録ダンジョンだ。ハンターたちを指揮する立場のこいつらを死ぬほど鍛えた結果、魔塔連が崩壊したとしてバチは当たらないだろう」

「確かに一理あるが、魔塔連の崩壊は本末転倒だろ」

「フッ安心しろ、壊す気など毛頭ない」

 ナメたレオナの態度に軽く舌打ちを入れる丈一郎。

 これが『神託者』ではないS級ハンターだったならば、気絶するほどの拳骨が落とされていたことだろう。

 しかし、レオナは同じ『神託者』として丈一郎の実力を認めているこそ、今の舌打ちはなかったことにする。

「いつまで寝ている、腰抜けどもめぇ!!」

 部屋中に大きく響き渡るレオナの声が、息を切らす水たちの鼓膜を刺激する。

「無理言わないでくださいよ・・・・・」

「ったくよぉ、『ジョブ』も使わずあの強さなんて・・・・・んなもんありかよ」

 重たい体をゆっくりと起こすバクラ、水、創真。

「レイド祭までは残り約一週間だ。できることは限られる。よって、個人の面倒を見るつもりはない! つまり、私が先ほど放った一撃をこの一週間の間に何としてでも耐え抜いて見せろ」

 先ほどの無色のオーラを拡散させる攻撃は、レオナの最大限の手加減を有したもの。レオナの中ではそれくらい呼吸をするように耐え切ってもらわなければ困るのだ。

「今ではA級以下が兵魔級へと変化する。兵魔級が上魔級へと進化する。この先、更に予想外の出来事は多々起きることだろう。その度に己の無力に打ちひしがれるのか? ただ助けを待っているのか?」

 強者は己の強さを驕る傾向がある。自分は守られる側ではなく守る側なのだと。そして問題なく守ることができる力を有しているのだと。

 言い換えればそれは「自信」であり、当然レオナも自身の力に自信を持っている。しかしそれは驕りとはかけ離れている。

「私は、私よりも強い存在に出会ったことがない! しかし、必ず手も足も出ない存在がいることを信じている」

 そしてそんな存在と出会った時の想像を常にレオナは欠かさない。だからこそ、油断はしない。力を抑えるのは、相手の力量を正確に見極められるから。

「私は、私より強い存在と出会った時、命をかけて全てを出し切る覚悟を持っている」

 しかしそれは、戦わざるを得ない場合限定の話。

 同じハンターの中でその出会いがあれば、当然命まで賭けることはしない。

「だがお前たちはどうだ? なぜ生きるために強くなろうとしない? なぜ、救えない未来を想像しない? いいか? 絶望を待つのではなく、自ら迎えに行け! そうすれば、私たちハンターはどこまでも逞しく、気高く、強く在れるのだ」

 聞き入るつもりのなかったレオナの話に、気がつけばこの場の全員が夢中になってしまっていた。

「まったく、心に響いてしまったじゃありませんか」

「流石はお姉様だ」

「チッしゃーねぇな。少しくらい付き合ってやるよ」

 無言の創真と熱真もレオナの説得が響いたらしく、レオナは満足げな笑みを浮かべる。

「だがよ、たった一週間足らずであれを耐えられるようになるなんてできんのかよ」

「知らん。それはお前たち次第だ。別にできなくても死ぬわけじゃない。心の底から無理だと判断したならば、ルーンを探しに行くでもいいだろう。好きにしろ」

 ダンジョンやバベルで『ジョブ』を強化する方法は今では主流であり、効果的かつ効率的。

 しかしレオナは、精神力・基礎的肉体の強さ、人としての潜在的強さを地道な修行で鍛える需要性をしっかりと理解している。

 基礎的な力や技術は、あらゆる力を使いこなす上でも、あらゆる環境に適応する上でも非常に重要となる。

「ならばせめて、コツを教えていただけますか?」

 そう聞かれても困ってしまうレオナである。

 レオナはこれまで、生まれつき授かった肉体的強さと『ジョブ』や『魔力』の強さ、戦闘センスであっという間に「最強生物」と呼ばれるようになった。

 これまで、常人では成し得ることのできない過酷な試練の数々を乗り越えてきたが、どれも取るに足らないことばかり。

 しかしレオナは、最近新たな知識を得たのだ。

「強くなるため・・・・・あるいは実力以上の力を発揮したいならば、その時の全てを己の糧だと思い、心から戦いを楽しむことだ。モンスターとの戦いを楽しむことは中々に難しいだろうが、この特訓の間は全力で楽しめ!」

 そう話すレオナの表情には、心の底から込み上げる楽しさが滲み出ていた。

「楽しむねぇ。まさかお前からそんな言葉が出てくるとはな」

 興味深そうにレオナを見る丈一郎。

「いい出会いでもあったのかよ」

「いずれ分かるはずだ」

 互いが本心を悟らせない挑発的な笑みを浮かべ視線をぶつけ合う。

 

 その後、レオナは疲れを知らずに毎日S級5名の相手をするのだった。

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