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記憶喪失剣聖  作者: 融合


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43話 輪廻の存在

 目覚めると、木製の天井が視界に映り、心地の良い仄かな甘い香りが漂ってきた。

「どこだ・・・・・?」

「目覚めたか」

 そこにいたのは、真っ黒な黒髪を腰ほどまで垂らした透き通るような和風美人だった。

「人の気配がして様子を見に行ってみれば倒れていたものでな、迷惑かもと思いつつ連れて来たわけだ」

 倒れてた?

 俺は女性の言葉に驚きを隠せず、少しの間フリーズしてしまう。

「そう、だったんですね・・・・・ありがとうございます」

「気にするな」

 丁寧に差し出された白湯を口へと運び、乾いた喉を一先ず潤す。

「早速だが、どうしてここへ? 今では十勝岳は登山用に整備された正規ルートが設けられているはずだろう」

「それは・・・・・」

 当然聞かれる質問。だけど今の俺からすればあまりに咄嗟のことで言葉に詰まってしまった。

「まぁ、何か事情があるのは分かる。聞かれたくはないこともあるだろう」

 それはまるで、彼女自身に向けた言葉のように聞こえた。

 だけど俺の口は、記憶の中のように勝手に動いてしまう。

「貴方は、どうしてここに?」

 すると、彼女は一瞬驚いた表情を見せた後、「フッ」と笑顔を見せる。

「全く、少しは察してほしいものだがな。男とは、こうも鈍感な者が多いのだな」

 何だ・・・・・この話し方に笑った時の雰囲気、誰かを彷彿とさせる。

「––––––––––––様々な意味で、忘れられない場所なのだ」

 愛おしそうに、悲しそうに話す彼女の姿が、偶然にも記憶で見た「妙」と重なって見えた。

「えっ––––––––––––」

 思わず漏れる息。

「どうかしたか?」

「いやっ・・・・・大丈夫です」

 可能性としては十分に考えられる。

 だけど、転職ミッションの縛りのせいであまり踏み込むわけにはいかない。

 けど、気づいてしまったからにはこのまま放っておくことはできない。

 俺は剣聖ではない。剣聖の力と記憶を持つ存在。だが、今の俺は間違いなく彼女のことが気になってしまっている。

 これは恋愛的な意味ではなく、同情的な意味。それでも、今後記憶をどんどん解放していくごとに俺のモノではない感情が芽生えてしまったら、俺は俺でいられるのだろうか・・・・。

「あの」

「何だ?」

「図々しいお願いなんですけど、少しの間だけ泊まらせてもらうことってできますか?」

 今日初めて会った得体の知れない見ず知らずの男性。

 だけど何となく、彼女なら受け入れてくれる気がする。

「どのくらいだ?」

 確か、レイド祭は約一週間後に開催される。

「一週間ほどです」

「・・・・・名は何という?」

 少しだけ悩む姿勢を見せると、真剣な眼差しで俺の瞳を見据えてくる。

「八尺 流星です」

 本当の姿を見られてしまった以上、名前を偽る意味はない。

「流星。火傷したくないならば、ふしだらな感情は抱くなよ。相当な実力者のようだが、私はこう見えてもかなり経験豊富だからな」

 何やら勝ち誇ったような笑みを浮かべる様子に、俺も自然と笑顔になる。

「心配しないでください。泊めてもらうのにそんな失礼なことはしませんよ」

「ならば改めて歓迎しよう。私は黒川くろかわ みことだ」

「よろしくお願いします」

 近くにいて何かできることなど俺にはない。

 ただ、もう少しだけこの場にいたい––––––––––––そう思った。


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