42話 モソ族との出会い(2)
ここで一度『剣聖の記憶』は途切れたためステータスを更新。
【ステータス
称号:【記憶喪失剣聖】【メテオ】
ジョブ:『剣聖見習い』
スキル:『×10のポイント増加』『白魔気』『聖剣メテオ』『聖剣の恩恵』『絶歩』
体力:10006
武力:11379
防御力:74443
敏捷:10311
技術:8452
運:9320
魔力:10032
『メモリーツリー:15%「479385P」』】
すると再び、『記憶の道標』が発動する。
今回『富士山』のようにその場で続きの記憶が再生される訳ではなく、別の場所に移動する必要があるみたいだ。
時刻は正午を過ぎて夕方に差し掛かろうという頃。
『記憶の道標』が示しているのは、今いる地点よりも更に上層へと登った地点。
「暗くなると危ないけど、行くしかないか・・・・・」
俺は覚悟を決めて更に上へと登っていく。
おそらく1時間も登ってはいないと思うが、凸凹とした歪な坂道は思った以上に体力を削る。初めは美しく見えていた景色も全く変わらない様子に飽きて来ていた頃、一際窪んだ場所へと小さな民家らしきモノが建っていた。
明らかにおかしな間の使い方。その場所は、比較的広々とした開けた空間であるにも関わらず、あるのは中央に佇む一見の家。
徐々に近づいて行くと、家はそこらにある木や葉、草を用いて作られた構造となっている。
まるで今でも誰かが暮らしているかのような新しさ。
もしも誰かがいた場合、めんどくさいことになる。
『記憶の道標』が示しているのはまさに広間の中央。つまり、あの民家ということ。
「––––––––––––––誰だ?」
突然響く女性の声。
俺は慌てて近くにあった大木の後へ隠れようと広間へ片足を踏み入れた瞬間、意識が朦朧とし、視界が360°回転する。
「うそ、だろ––––––––––––」
「––––––––––––妾の話を聞いておるか?」
気が付くと、またしても剣聖の視点となっていた。
剣聖と妙が話にふける目の前では、モソ族の女性たちが先住民たちへと民族独自の踊りを披露している。
その様子はまるで祭り事のようで、広間の周囲に用意された松明の明かりが、まるで異世界の夜のような雰囲気を醸し出していた。
「婚約者の生まれ故郷を見て来いなどと、妾や妾の家族を何だと思っておるのだ!」
「貴方が、本当にみんなのことが大好きなことだけは伝わってくるよ」
「そうであろう。皆、妾の大切な家族だ」
妙は、酔いのせいで瞳をうつろにさせている。
現代の女性とはまた異なる儚げで気品溢れる美しさ。
記憶の中の人物に、思わず心を奪われてしまいそうになる。
「だからこそ、妾が生まれてさえ来なければ、一族はこれまで通りの母系社会としての存続していけたのだ」
妙の美しくも儚げな涙が、根拠もなく剣聖の心を刺激する。
「なんで泣いてるの? 生まれてきたくなかったから?」
「フッ、其方はどうしてそれほどまでに鈍感なのだ」
妙は呆れたような笑みを浮かべた後、自身について話し始める。
「其方は、輪廻を信じるか?」
「輪廻?」
剣聖は首を傾げるが、現代人である俺は当然知っている。
輪廻とは、命ある者の死後、その魂と意識が歯車の如く何度も異なる肉体を巡るコト。
「妾はこれまで数多くの命が散って行く様を、異なる肉体による人生で見てきた。その度に幸せを願っては、何度もその願いが打ち砕かれて来たのだ」
つまり妙という人物は、幾つもの前世の記憶を有しているということになる。
そしてどうやら、妙の特殊体質である「輪廻」と、現在日本にいる理由が関係しているようだ。
「今度こそは幸せを、幸せをと––––––––––––今回でもう23回目となるが、妾は自らの幸せだけでなく、大切な者たちの幸せすら歪ませる存在なのだ」
今、剣聖が何を考えているのかは分からない。ただ、妙の言葉で心が動きを見せていることは、しっかりと感じている。
「生まれ変わるたび、前世の記憶を忘れていたいと願い、それが叶わぬから、幸せをと願っているのだ・・・・・・神というモノが存在しているのなら、ひどいものよな」
「僕は–––––神様が例えいたとしても、この憎まれた人生を恨まないし、期待もしない。ただ、僕の死を望んでいない人がいてくれるから生きてる」
剣聖は相変わらず、己の道を見つけられずにいる。
ツクヨミから聖剣を授かっても、何をすればいいのか、ツクヨミが口にした「希望」という名の言葉の意味が理解できずにいる。
「僕には、大切な人を失う辛さが分からないから、貴方の苦しみを理解してあげることはできないけど、貴方の大切だと思うモノを守ってあげることはできるよ」
下心など一切ない。ただ本心から放った剣聖の言葉を受けた妙は、心底驚いた様子で目を大きく見開く。
「・・・・・どうして、其方が?」
「こうして食べ物もくれて、僕を助けてくれたから。どうせ行く場所もやることもないし、役に立てるなら使っていいよ」
感情を知らない剣聖と、感情に疲れた様子の妙。
どこか奇妙な縁に感じつつも、少年へと向けられていた妙の表情が、いつの間にか悲しみと嬉しさが入り混じったような希望を目にした際のモノへと変化していた。
「その気持ちだけで十分だ。其方に、命までかけさせる訳にはいかぬからな」
「そっか・・・・・分かった」
翌日の早朝、剣聖は妙たちと別れて山を下る。
今回も特に何もなく記憶の再生が終了すると思った直後、視界が突然変化する。
そこは、橙色の夕日に照らされた先ほどの広間。
見るも無惨に村は焼かれ、先住民とモソ族の女性たちの遺体がそこら中に転がっている。
俺自身の感情か、それとも剣聖の感情か、若干の目眩と気持ち悪さが込み上げる。
あの白き外見は見間違いようもない––––––––––––白鬼の仕業だ。
俺は聖剣を手に取り、片っ端から白鬼を叩き切っていく。
その度に根拠のない怒りが胸の底から込み上げる感覚は、俺自身のモノなのか?
次第に、一際大きな民家の中から女性の悲鳴が響く。
「包!!」
中では、妙を庇うために白鬼の前に立ち塞がった包の胸元へと、白鬼の歪な腕が貫通していた。
真っ白な腕を真っ赤な血の色に染め、ひたすらに「マオウ」––––––––––––ただその言葉のみを発している。
「死んではならぬ、皆・・・・・頼むから妾を一人にしないでくれ––––––––––––」
絶望に泣き叫ぶ妙の命を容赦無く奪おうとする白鬼。
俺は刃が妙へと届く前に白鬼の首を叩き落とすと、体が勝手に妙を抱きしめた。
「ごめん––––––––––––」
「其方が謝ることではない––––––––––––どこにも行かないでくれ・・・・・今は、1人でいたくはないのだ」
妙を抱きしめる両腕にグッと力が込められる。
「守るよ」
初めて剣聖が誰かに導かれることなく、自分の意思で進む道を決めたことに衝撃を受けた。




