41話 モソ族との出会い
北海道 十勝岳。
今は9月下旬ということで、登山客はそれなりに見受けられるものの、俺が今いるのは一般の整備ルートから外れた場所のため、周囲を気にする心配はない。
ここへ来た目的は、『剣聖の記憶』を解放するため、ハンター適性試験も終わり、レイド祭を迎える前に少しでも力の解放を進める必要がある。
未登録と言えども魔塔連が念入りに下調べを行なっているため、安全面はかなり考慮されているが、ダンジョンでは何が起きるか分からない。例えミッションを失敗してしまうような事になったとしても、いざという時は力を使うことを迫られる。
だとしても、そのいざという時が来ないことを祈るのみ。
「改めて考えるとおかしいよな・・・・?」
現在の時点で俺自身の実力がバレているのは「2/5」人。
システムから与えられた転職ミッションは、俺自身に剣聖の力が宿っている事実を知られてはならないというもの。
そして、1人目はメラだとして、2人目はおそらく『富士山』で出会った神託者だろう。
確かにあれは一種の気の迷いで、かなり危ない綱渡りだったと言える。だとしても、彼女はどうやって俺に宿るこの力が「剣聖の力」であることを知ったんだ?
剣聖は生前、俺と同じで魔力を全くと言っていいほど有してはいなかった。というよりあの頃は、むしろ魔力を有している者の方が少なかった。
当然、現代に生きる誰も剣聖を実際に見たことはなく、魔力の大きさでバレたことも考えにくい。
「あー、ダメだ」
このまま考えてたところで意味がない。
大切なのは、一刻も早く力を解放すること。
思考により狭まっていた視野を解放し、視線の先を指す『記憶の道標』の行方を見据える。
同時に広大な心洗われる絶景が視界へと飛び込んできた。空の青さに照らされた緑豊かな自然の景色。
心地よい風が肌に触れ、根拠のない満たされた感覚に陥る。
「昔は、どんな景色だったんだろうな」
若干の期待を胸に、更に歩みを進めていくと、意識が途切れて記憶へと誘われる。
「––––––––––––妙様。この男どうします?」
「捨ておけ、妾たちには関係のない者だ」
「––––––––––––ん・・・・・?」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!! 目を覚ましたぞ!」
何やら騒がしい中、ゆっくりと目を覚ます。
どうやら今回は、初めから一人称視点による体験らしい。
ん? どうしてだろう・・・・・身動きが取れない。
違和感のする方向へと視線を向けると、両手両足が縛られており、更に獲物のごとく地面に背を向ける逆さまの体勢で拘束されている事実に気が付く。
「男! どうしてこのような場所で寝ていたのか答えろ!」
目の前には、何やら神輿のようなモノを担いだ怪しげな集団が。そして、神輿から微かに見える人物は、息を呑むほどに儚く美しさに溢れていた。
周囲一帯は真っ白な景色。
そんな中で神輿を担いでいる貴方たちもどうかと思いますけど、こんな場所に寝ていたらしい剣聖も大概だな。
「答えろぉ!」
「眠かったから––––––––––––」
塞ぐこともできない口から、突如思ってもない言葉が飛び出す。
「貴様ぁ〜・・・・・」
「あはっ––––––フッフッフッフッ」
ふくよかな女性が大声を上げたとほぼ同時に神輿の中からさぞかし楽しげな声が響く。
「みょ––––––妙様?」
神輿の中から姿を見せたその人物は、全体的にふんわりとした雰囲気で、青と紫をベースとした袖口が広くて長く、足元まで隠れる漢服と呼ばれる衣装に身を包み、頭にはいくつもの花模様が散りばめられたスタイルとなっている。
「其方。名は何という?」
<彼女は「モソ族」の巫女として祀られている––––––––––––妙>
<モソ族は中国 雲南省 瀘沽湖周辺に暮らしていた女性だけの少数民族––––––––––––この時期は、「剣王」の統治下にあった>
「分からない。これまで誰にも、名前を教えてもらったことがないから」
剣聖のその一言で場の空気が一気に静まり返る。
「其方に親や家族は?」
「いない」
先ほどまで怪しい者に向ける目つきをしていた者たちも、次第に哀れな存在へと向ける視線へと変わっていく。
「包よ」
「何でしょうか、妙様」
「こやつを我が家に連れて行こう」
「それはなりません!」
包と呼ばれるふくよかなスタイルの女性は、焦った様子で妙に頭を下げる。
「すでに妙様には勇剣緒様という婚約者がいらっしゃるじゃありませんか。目の行き届かない間にどこぞの者かも知らぬ男性と関係を持ったとなれば、剣王様にどのような罰を受けるか・・・・・」
「包が心配していることにはならんから心配するな。ただ、行き場を失くした可哀想な少年を助けることの何がいけないというのか」
付き添い人たちの言葉に耳を貸そうとしない妙。
「それにな、妾とてあの者と婚姻したくてするわけではないのだ。せっかくならば一度の人生、心から想える殿方に会いたいものよな」
乙女チックにふける妙には、最早皆が揃って頭を抱えてしまっても仕方がない。
「それでは、その者を客人だと思って丁重に扱うのだぞ。よいな?」
皆が渋々頷く様子を確認すると、妙は再び神輿へと乗り込んだ。




