3話 剣聖システム
どのくらい、その場にいたのかは分からない。
どうやって帰って来たのかも覚えていない。
俺は冷たい床の上、小さな部屋の壁に身を預け、夜の闇に包まれた部屋の一点の空虚を見つめていた。
<適合テストの集計が終了>
突如目に差す蒼白い光とともに、見覚えのない文字が宙へと出現する。
「・・・・・・」
今更何が起きたところで意味なんてない。
俺は無感情のまま、虚な目を向ける。
<「剣聖の魂」との適合率––––––––––––100%。
適合率に比例した集計の結果・・・・・スキル『×10のポイント増加』を獲得。このスキルは、自動的に常時適用される>
<続いて、適合テストで得たポイント––––––––––––10000×10=100000Pを付与>
【 ステータス
称号:【記憶喪失剣聖】
ジョブ:なし
スキル:『×10のポイント増加』
体力:1
武力:1
防御力:1
敏捷:1
技術:0
運:3
魔力:0
『メモリーツリー「100000P」』】
「何・・・これ」
確か俺が持ってた称号は、【不撓不屈】と【盗人】の2つしかなかったはず。
ていうか、その2つが無くなって、新しく【記憶喪失剣聖】というのが追加されている。
剣聖・・・・・そんな風に呼ばれている歴史上の人物を、俺は一人しか知らない。
だけど、まさか––––––––––––
俺は、得体の知れない胸の奥底からじわじわと込み上げてくる高揚感に、意識が引き戻されていく感覚を味わう。
気が付くと俺の指は、先ほどから白く光っている『メモリーツリー』の文字をタップしていた。
「うそ、だろ・・・・・」
突然、視界全体が宇宙空間のような景色に包まれる。
そして360°、至るところに存在する大小様々な黒い球体状の何か。
その中の一つに手を伸ばした瞬間、いきなり視界全体が回転し、目の前へと赤く輝いた球体が出現した。
「思った通り触れられ–––––––––––––」
球体へと手を伸ばした途端、猛烈な熱さが瞳に宿る。
「くあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
目の表面だけでなく、奥までも無数の針で突き刺されている感覚だ。
<メモリーツリー達成度:1%––––––––––––『記憶の道標』を獲得>
どういうわけか、地獄のような痛みはスッと消え失せ、ゆっくりと目を開けると、先ほどまでは黒く塗り潰されていた球体の表面に、何やら文字のようなモノが浮かび上がっていた。
「––––––武力。それにこっちは魔力って・・・・・ステータス」
俺がその言葉を唱えると、案の定、称号の書かれた画面に切り替わる。
「試してみよう」
俺は赤い球体から伸びる「武力」の球体をタップする。
すると、さっきまで1だったステータス表記が2に変化する。
「やっぱりそういうことか」
その後、敏捷と魔力、体力をそれぞれ一つずつ解放して分かったことは–––––––––––––「ツリー」と言うだけあって、枝分かれになり細い線で繋がっている球体を順番通りに解放していけること。そして、解放していくに連れて、一つの球体で消費するポイントが多くなって行くこと。基本的に書かれている数字分がそのままポイントになるみたいだけど、この目には、まだ解放されていない武力とかの項目は見えても、必要なポイント数は見えない。
確かにすごい。
まるで夢でも見ているみたいだ。
一体誰がこんな力を俺に授けてくれたのかは分からない。そしてこの力があれば、ハンターになれるかも知れない。
––––––––––––けど、ただ純粋に強くなりたいと思っていた幼いあの頃とは、もう違う。
お父さんとお母さんは、5年前に起こった大規模なダンジョンバーストに巻き込まれて命を落とし、唯一残った弟は、俺が意識を失っていた3日前に亡くなった。
誰に何と言われたとしても、盗みを働こうとも、一は必ず救うと誓ったのに・・・・・
もう生きる気力も、意味も失った。
守ってあげたい人がみんないなくなっちゃったのに––––––––––––
「今更強くなる意味なんて、ないじゃないか」
<肉体から生きる希望の損失を確認––––––––––––『死者蘇生』をリクエスト>
「––––––えっ」
画面はメモリーツリーへと切り替わり、俺は、視界に飛び込んできた文字に目を疑う。
中央に50%と表示されている大きな球体。
『50%:死者蘇生「1名」』と確かに記されている。
「どういう––––––––––––いや・・・・・」
僅かだけれど希望を得られたおかげか、さっきよりも視野を広く持つことができるようになった。
どうやら球体の大きさは、大中小の3つに分けられているらしい。
武力や防御力の球体が最も小さく、10、20、30、40と、10間隔で表記されている計10個の球体は、最も大きい。
ラストの中くらいの球体には、『剣聖の記憶』という文字が記されている。
そしてこの最初の赤い球体のすぐ隣にある巨大な球体、そこに記されている『100%:剣聖』の文字。
「つまり、剣聖の力を半分解放することができれば、一を生き返らせることができるかも知れない」
このシステムのことはまだまだ全然分からないけど、俺はあの状況から生き延びることができたんだ。
他に縋れるものなんてない。だったらこれが悪魔の囁きだったとしても信じてみよう。
「待ってろ一。必ず俺が、生き返らせてやる!」




