37話 兄妹水入らずの時間
『ヘパイストス』社長室。
突如、部屋の扉が勢いよく開かれる。
「愚弟はいるか!」
「本当に乱暴な人ですね。例え実の姉だとしても、ノックもなしに部屋へと押し入るのはどうかと思いますよ」
「何だ? 私に説教でもするのか?」
ギルド長として多少強気に出てみたものの、レオナの覇気に威圧され、表情を強張らせる。
「いえ・・・・・そんなつもりでは––––––––––––」
レオナはズカズカと部屋へ押し入ると、客用として設けられているフカフカのソファへと腰を下ろす。
「はぁ––––––まさか本当に姉さん自ら家族水入らずの時間を作ってくれるとは、複雑な心境ですね」
水は複雑ながらも、どこか嬉しそうな表情を浮かべる。
「そうか? 私にも家族を想う気持ちくらいある––––––––––––だが気が変わった」
「はい?」
あまりにも自由気ままな方向転換に、水は思わず頭を抑えたい衝動に駆られる。
「実はお前に直接聞きたいことがあってな」
「何ですか?」
「『L』とは一体何だ?」
水はピクリと眉を動かし、作業していた手を止め、レオナへと視線を向ける。
「––––––––––––– どうしてその名を姉さんが?」
「たまたまお宅のS級ハンター2人の会話を聞いてしまってな。それで、Lとは何だ?」
仮にも相手は犯罪者。
下手に事を大きくしたくはなかった。ましてやレオナに知られた日には何をしでかすか分かったものではない。
しかし、身震いしてしまうほどの圧をすぐ隣から感じる恐怖は、きっと多くの者が理解できるだろう。
「––––––––––––はぁ・・・いいでしょう。ただし、この話は広めないようお願いします」
水はレオナへと、『国会議事堂』と『富士山』ダンジョンであった出来事を順を追って説明した。そして、そのLと名付けた人物をスカウトしようとしていることを伝える。
話を聞き終えるなり、レオナの顔には笑みが浮かぶ。
「ほほぉう。なるほどな」
「何がです?」
「私が先日戦った相手こそ、正しくそのLだったというわけだ」
「戦った!? それはまさか、先日の『富士山』ダンジョンでの一件を言っているのですか?」
思わず取り乱す水を冷めた目つきで見るレオナ。
「そうだが」
「ということはつまり、あの戦いの衝撃はダンジョンボスとのものではなく、彼と一戦交えた衝撃だったということですか」
「あれは逸材だ。お前が目をかける理由にも頷ける」
久々に見る姉の何かを企む表情に、嫌な予感しか感じない。
「まだまだ子供と戯れる程度だったが、奴は間違いなく私たち『神託者』と同レベルの土俵へと登ってくるはずだ」
「それほどですか・・・・・・」
誰かへと滅多に興味を抱かない姉の嬉しそうな表情に、目を丸くする。
「愚弟よ、これから言うことは提案やお願いではなく、命令だと思え」
「それはまた強情ですね」
「Lをスカウトすることを諦めろ」
ここはギルドの代表として、表情を崩さず、威厳ある態度で挑む。
「理由を伺っても宜しいですか?」
「私が気に入ったからだ」
「・・・・・はい?」
「聞こえなかったか? 奴は私のモノだと言ったんだ」
1回目と2回目では大分ニュアンスが違う気がしなくもないが、水は負けずに続ける。
「それならば尚更、内のギルドの一員になればいつでも会えるのでは?」
「そういう見解もなくはないが、奴は誰かの下に収まっていい男ではない––––––––––––私を除いてな」
「なんてめちゃくちゃな!」と叫んでやりたい気持ちをグッと堪える。
水が何を言ったところで、レオナの気が変わることはない。
それは、一番側で見てきた水だから確信を持って言えること。
「はぁ、お望み通りにすればいいのでしょう?」
「それと、Lに関する詮索はするな」
これは、L本人に対してレオナが誓った内容。
再び自分の前に現れるまで、一切の詮索はしないと。
「分かりましたよ」
これが権力の差なのだと、深く痛感する水。
「Lのことを知る者たちには、僕から伝えておきます」
「気が利くじゃないか」
「ハハッ」
レオナは水の愛想笑いを無視してそのまま背を向け去ろうとするが、すぐさま立ち止まる。
「そうだ、忘れるところだったな。まだしばらくはこっちにいるつもりでな、たっぷりとお前たちをしシゴいてやるつもりだから覚悟しておけ」
そう言い残して扉が閉まると、しばらくは部屋の外からレオナの不気味な笑い声が響いていたのだった。




