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記憶喪失剣聖  作者: 融合


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36話 密かな悟り

 レオナが流星と一戦を繰り広げていた頃、周辺住民の避難は夜神含めた5人のS級ハンターによって迅速に完了し、周辺地域への被害はほぼ0に抑えられた。

 結果、建築班と採掘班、『富士山』建築に同行していたA級ハンター合わせて500名以上が犠牲に。

 魔塔連は、今回の『富士山』に対する管理不足と大量の死者を出してしまった声明文を世間に提示。アモンを筆頭に、メディアへと顔を晒し、謝罪の意を伝える結果となった。

 しかし、近頃のダンジョンの異常な変化の要因は未だ掴めておらず、依然として解決の糸口は見つかってはいない。

 

 今回の一件で唯一生き残った「東条 香」は、『富士山』近くの病院に入院していた。

 窓の外へ視線を向けてボソリと呟く。

「もしかして、貴方だったの?」

 流星に対する強い想いを抱くのとほぼ同時に死を悟った瞬間、香が目にしたのは流星らしき人物の姿だった。

 もう10年以上会ってないが、直感でそうであると悟った。

 そして目にした––––––––––––周囲のモンスターを一瞬で蹴散らしたかと思うと、目にも止まらぬ速さで振るった剣戟が、溶岩の柱を切り裂く様を。

「それじゃあ、あの時も––––––––––––」

 それは、1度目の『富士山』ダンジョン攻略時に突如天井から降ってきた一筋の斬撃。

 もしも同じ人物の仕業だったのだとしたら、あの時ダンジョンで言葉を交わした青年の正体は、八尺 流星だったことになる。

 守ろうと決めた人に命を助けられた嬉しさ、しかし、『魔力』も『ジョブ』もないはずの流星がどうしてあれほどの力を有していたのかという疑問と疑念。

 仕方ないと言えど、何一つ事情を明かしてくれない、頼ってくれない、遠ざかって行ってしまうような悲しみと不安。

「・・・・・会いたい」

 けれど、会いに行っていいのか分からない。

 傷つくことを覚悟し、希望になると誓ったが、冷静になってみるととてつもなく怖い。

 

 1人不安な感情に苛まれていると、部屋の扉が開かれる。

「創真」

 神田 創真。彼もまた、香と流星の幼馴染である。

「随分と顔色がいいな」

「もう2日も寝込んじゃったから」

「よく生きててくれた」

 そう言い、創真は香の手を握る。

「夜神レオナが助けてくれたのか。あまり関わりたくはないが、実力だけは化け物だからな」

「・・・・・え? レオナさんが私を?」

 香は、創真の言っている意味が理解できなかった。

 なぜなら、夜神レオナの姿など見た記憶がないから。

「違うのか? 香を助けるためにダンジョンに集合した後、突然現れた夜神レオナが『アルファギルド』のギルド長を連れてダンジョンに入って行ったんだ」

「私を助けてくれたのは––––––––––––」

 香は考える。

 ここで流星のことを伝えていいものかと。なぜなら、理由は分からないが、創真は『ジョブ』を手にしてからというもの、なぜか流星のことを嫌悪しているのだ。

「・・・・・そういえば、流星ってどうしてるかな?」

 すると、創真は明から様に嫌そうな表情を浮かべる。

「あいつの話はしたくない。あんな––––––––––––負け犬の話は」

「そんな言い方––––––––––––」

「だがそれ以上に許せないのは、Lエルの奴だ」

Lエル?」

 香は聞き覚えのない言葉に首を傾げる。

「近頃、不正登録疑惑で有名になってる奴だ。有名と言っても、夜神さん界隈での話だが。あの人は、Lエルをスカウトするつもりらしい」

「そう、なの?」

 香は思わず声が上ずる。

「––––––––––––? らしくない反応だな」

「そう?」

「お前なら、流星のこともあって、不正登録なんてマネは絶対に許さないだろ。現に俺は許せない。奴は犯罪だけじゃなく、香を危険に晒した」

「それは・・・・・」

「事情は何であれ、俺の大切を傷つける存在は絶対に許さない」

 創真は本心からLエルを憎んでいる様子。

 しかし香は、すでにLエルに対する怒りがすっかり消え失せてしまっていた。それどころか、応援する気持ちすら芽生えてきてしまっている。

 L=流星なのかはまだ分からない。ただ、その可能性は非常に高い。

 香たちを避けるのは、ただ嫌いなだけかも知れない。それとも、何か言えない事情を抱えているのかも知れない。

 

「悪い・・・感情的になった。もう帰る」

 そう言って、創真は静かに病室を後にする。

「私は、流星を信じる」

 正確には、自分の願う流星を信じている。

 いつか流星は、自分たちの下に帰ってきてくれると。

 あの頃のように笑い合える流星は絶対にどこかにいてくれると。

 だから香は待つ道を選ぶ。

「助けてくれて、ありがとう」

 どこでもない、ただ窓から見えるなんてことない景色に向かって言葉を投げる。

 ただ、『富士山』で感じたあの悍ましい気配だけは、深く心の隅へとこびりつくのだった。


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