33話 香の想い
死ねない・・・・・
私は、こんなところで死ぬわけにはいかない。
確かにあの時、私は初めて目にしたボスモンスターに恐怖を覚えた。
その恐怖が、今は周囲一帯を支配している。
あまりの熱さで呼吸もまともにできない中、剣を握る手の震えだけはどうしても止まらない。
決して倒せない相手じゃない。
けれど、この恐怖からは絶対に抜け出せないと、本能で悟ってしまう。
魔力もほとんど使い果たし、満身創痍。
それなのに、どうしてまだ諦めないで剣を握っていられるの?
––––––––––––そんなことは決まっている。
「私まで・・・・・死ぬわけには行かないのよ!」
彼とは、生まれた頃から一緒にいた。
何をするにしても私たちは一緒で、幼いながらに同じ存在に憧れた。
––––––––––––『ハンター』––––––––––––
幼い頃の私はとても弱くて、いつも2人に助けられてばかりいたわ。
そして、助けられることが幸せだった。
一緒に同じ夢を追いかけられていたあの日々が幸せだった・・・・・
けれど、彼だけは『魔力』にも恵まれず、『ジョブ』にすら恵まれない。
どうして・・・・・
どうして、よりによって私の大好きな人なの・・・・・どうして––––––––––––
私は強くなろうと決めた。
どんなに彼に嫌われようと、憎まれようと、どんな災難からも守れるように––––––––––––強くなろうと。
けれど結局は、彼の苦しむ姿が見たくなくて、私たちは逃げたのよ。
近くにいると、必ず傷つけてしまうから。
だから・・・・・これ以上、彼の幸せを奪わせたくはなかったのに・・・・・
約5年前の大規模ダンジョンバーストで、彼は両親を失った。
そして––––––––––––
数日前、唯一残された弟まで奪われてしまった。
彼に隠れていつものように一君のお見舞いに行ったあの日。
そこに一君の姿はなくて、ベッドの上に横たわる流星の姿があった。
神に縋る想いだったわ。
何でもするから、私から流星を奪わないで欲しい、と。
結果一命を取り留めてくれたけど、生きながら、一切の希望がない絶望に晒される恐怖を理解できる人がいる?
私には、到底理解してあげることはできない。
––––––––––––自惚れかもしれない。
けれど、彼はきっと、私の死を悲しんでくれる。
「そうはさせない!」
これ以上、流星を孤独になんてさせない!
憎まれてるかも知れない––––––––––––だから蔑まれるかも知れない––––––––––––また、傷つけてしまうかも知れない––––––––––––
けど––––––––––––
私は、彼の側にいてあげたい。
努力して・・・努力して努力して努力して––––––––––––希望になってあげたい。
もしも生きて帰れたら、流星に会いに行こう。
あの時みたいに、また笑い合える日を迎えられるかな・・・・・?
「会いたいよ––––––––––––流星」
香の手から剣が「ボトリッ」と滑り落ちる。
狩人が獲物の隙を狙うが如く、宙を舞うモンスターたちが一斉に香へと飛び掛かる。
死を悟ったその瞬間、視界が白く包まれる。
直後に肌を伝って感じられる温かな温もり。
「香!」
自分の名を呼ぶ声。
「・・・・・流星––––––––––––」




