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記憶喪失剣聖  作者: 融合


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34/56

33話 香の想い

 死ねない・・・・・

 

 私は、こんなところで死ぬわけにはいかない。

 

 確かにあの時、私は初めて目にしたボスモンスターに恐怖を覚えた。

 その恐怖が、今は周囲一帯を支配している。

 あまりの熱さで呼吸もまともにできない中、剣を握る手の震えだけはどうしても止まらない。

 決して倒せない相手じゃない。

 けれど、この恐怖からは絶対に抜け出せないと、本能で悟ってしまう。

 魔力もほとんど使い果たし、満身創痍。

 それなのに、どうしてまだ諦めないで剣を握っていられるの?

 

 ––––––––––––そんなことは決まっている。

 

「私まで・・・・・死ぬわけには行かないのよ!」

 

 彼とは、生まれた頃から一緒にいた。

 何をするにしても私たちは一緒で、幼いながらに同じ存在に憧れた。

 

 ––––––––––––『ハンター』––––––––––––

 

 幼い頃の私はとても弱くて、いつも2人に助けられてばかりいたわ。

 そして、助けられることが幸せだった。

 一緒に同じ夢を追いかけられていたあの日々が幸せだった・・・・・

 

 けれど、彼だけは『魔力』にも恵まれず、『ジョブ』にすら恵まれない。

 

 どうして・・・・・

 

 どうして、よりによって私の大好きな人なの・・・・・どうして––––––––––––

 

 私は強くなろうと決めた。

 どんなに彼に嫌われようと、憎まれようと、どんな災難からも守れるように––––––––––––強くなろうと。

 

 けれど結局は、彼の苦しむ姿が見たくなくて、私たちは逃げたのよ。

 近くにいると、必ず傷つけてしまうから。

 だから・・・・・これ以上、彼の幸せを奪わせたくはなかったのに・・・・・

 

 約5年前の大規模ダンジョンバーストで、彼は両親を失った。

 

 そして––––––––––––

 数日前、唯一残された弟まで奪われてしまった。

 

 彼に隠れていつものように一君のお見舞いに行ったあの日。

 そこに一君の姿はなくて、ベッドの上に横たわる流星の姿があった。

 神に縋る想いだったわ。

 何でもするから、私から流星を奪わないで欲しい、と。

 

 結果一命を取り留めてくれたけど、生きながら、一切の希望がない絶望に晒される恐怖を理解できる人がいる?

 

 私には、到底理解してあげることはできない。

 

 ––––––––––––自惚れかもしれない。

 

 けれど、彼はきっと、私の死を悲しんでくれる。

 

「そうはさせない!」

 

 これ以上、流星を孤独になんてさせない!

 

 憎まれてるかも知れない––––––––––––だから蔑まれるかも知れない––––––––––––また、傷つけてしまうかも知れない––––––––––––

 

 けど––––––––––––

 

 私は、彼の側にいてあげたい。

 努力して・・・努力して努力して努力して––––––––––––希望になってあげたい。

 

 もしも生きて帰れたら、流星に会いに行こう。

 

 あの時みたいに、また笑い合える日を迎えられるかな・・・・・?

「会いたいよ––––––––––––流星」

 

 香の手から剣が「ボトリッ」と滑り落ちる。

 狩人が獲物の隙を狙うが如く、宙を舞うモンスターたちが一斉に香へと飛び掛かる。

 死を悟ったその瞬間、視界が白く包まれる。

 

 直後に肌を伝って感じられる温かな温もり。

「香!」

 自分の名を呼ぶ声。

「・・・・・流星––––––––––––」


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