29話 力の共鳴
『富士山』が再びダンジョン化しようとしていた頃、流星たちは港区六本木にある高層タワーマンションへの引越し作業の最中だった。
とは言っても、業者の人たちが次々と荷物を運び入れてくれているので、2人は特にやることはない。
因みにマンションの名は「TOKYO TOWERS ROUND HILLS」。地上57階建て 地下2階 面積60.83㎡〜180.74㎡で、流星たちの部屋は43階の3LDK。
窓辺からは湖が見え、周辺地域に立ち並ぶ建物を一望することができる。
「本当に良かったの?」
「ん? 何が?」
「弟のために貯めてたお金なんでしょ」
「–––––––––––––うん。一のためにも、メラのためにも、今俺がしてあげられることをしてあげたいからさ」
メラは、そんな俺の一言に嬉しそうな笑みを浮かべる。
「お金なら私だってあるんだけどな〜」
「確かにメラはすごいけど、まだ16歳の子供だろ。ハンターになれれば安定的にお金もこれまでとは比較にならないほど稼げるし、もっと俺を頼ってよ」
次の瞬間、メラの顔がばっと俺へと向けられたかと思うと、眉をへの字にして、何かを言いたそうな表情を浮かべる。
「あ・・・・・あの・・・・・」
「ん?」
「・・・・・はぁ・・・・・はぁ・・・・・何でもない」
深くため息をつき、そのまま視線が逸らされてしまった。
「あの、佐々木さん」
「あっ、はい」
俺は今、八尺 流星ではなく、佐々木 神威という別人に変身している。
見た目は、身長180cmほどの爽やか金髪イケメン。
「荷物は全部運び終わりましたので、こちらにサインいただけますか」
「はい。分かりました」
『50%:死者蘇生(1名)』を解放するまでは、完璧な別人となるため、マンションを借りるための名義も「八尺」ではなく「佐々木」にした。
万が一にも不安要素を増やさないために、前のアパートの契約は八尺 流星の名義で継続中。
「ありがとうございました。これはささやかなお礼です」
「あっいやっそんな、ありがとうございます」
「いえいえ」
「では、私たちはこれで」
俺は作業員たちへと一本ずつ飲み物を渡し、見送った。
一先ずこれで、佐々木としての住所も問題なく獲得できた。ミッション達成後の名義変更時の手続きの問題はあるけれど、そこまで不安に思うことはないだろう。
「よしっ、それじゃあ荷物整理しちゃおっか」
「そうだね」
とは言っても、俺もメラもほとんど荷物はない。
これは近々家具や日用品を色々買いに行かないとな。
「ん? なんで笑ってるの?」
無意識に笑みが溢れてしまっていたらしい。
「いやぁさ、なんて言うか・・・・・嬉しくて」
時間は夕暮れ時。
窓辺から夕陽の差す景色を眺めていると、心が洗われる。
「ここからの景色を眺めてると、荷物持ちだった頃の自分が認められたような、そんな気持ちになれるんだ」
「そう」
心なしか、メラの声も嬉しさを含んでいるモノに聞こえる。
そんな感動に浸っていると、目の前にシステム画面が出現する。
<『月読山』より謎の力を観測––––––––––––僅かばかりの共鳴を感知––––––––––––スキル『絶歩』を獲得>
「何だこれ––––––––––––」
<『絶歩』・・・一瞬で別の場所へと移動できる(強く念じる必要がある)(※『魔力』4000=一回(24時間で回数リセット))>
「つまりは瞬間移動ってことか・・・・・」
<––––––––––––『月読山』への移動を推奨––––––––––––>
システムから何か意思のようなモノを感じるのは気のせいか?
まぁ、ここまで言うのならきっと何かあるんだろう。
「悪いメラ。ちょっと『富士山』まで言って来るよ」
「え? 今から?」
目的は達しているため、もう一度『富士山』に向かう理由が理解できない気持ちはよく分かる。
俺自身もよく分かっていないんだから。
<––––––––––––強く推奨––––––––––––>
「すぐ戻るよ」
メラがスマホへと視線を落としたのとほぼ同時に、俺は『絶歩』を発動させて『富士山』へと飛んだ。
「––––––––––––どういうことなの・・・・・これ––––––––––––」
天音は1人、つい先ほどネット上に上げられた『富士山』の投稿を目にして驚愕するのだった。
「流星・・・・・」




