26話 噴火
富士山。
現在内部はA級ハンター付き添いの下、大勢の建築班と採掘班により、観光名所への復興を目指している。
攻略後、地下にあるマグマが活性化する様子は見えず、着々と作業は進められていた。
五号目を起点として頂上までは123層存在しており、それぞれ10層地点に休憩ゾーンを建設予定。飲食スペースはもちろんのこと、武器や防具の手入れや新調できるようにストックを貯めておくスペースも設ける予定。
極め付けは、上層から下層にかけて生じた割れ目を生かし、人工階段の建設も予定されている。
下層に関しては、「人工ワームホール」という魔道具の開発が進められており、これを設置することによって、活性化したマグマを上層に届かせることなく別の場所へと溶岩として排出させられる。
無理に噴火を抑えるような真似をしてしまえば、地下へとガスや熱がこもり、地殻変動のバランスが崩れてしまう。それにより、気候や生態系に悪影響を及ぼしかねない。
それもこれも全ては建設に取り掛かるための設計を終える必要がある。
「副ギルド長!? どうしてここへ?」
「少し調べることがあって・・・・・作業は順調に進んでいますか?」
「そうですね。あとは階段の設計だけなのですが・・・・・なにぶん高すぎるもので」
五号目からの建設だとしても、頂上までは3000メートル以上存在する。
それを様々な角度から長さを測らなければいけないため、E級以下の多い建築班だけではかなり難儀している。
「お手伝いしたい気持ちは山々なのですが・・・・・」
香は建築に関する知識がほとんどないため、参加してもむしろ足を引っ張ってしまう可能性がある。
「いえいえ、副ギルド長の手を煩わせるなんてそんな––––––––––––こっちは大丈夫ですから心配なさらないでください!」
明らかに大丈夫そうには見えないが、香は作業員の笑顔に笑顔でこたえ、その場を後にする。
そうして再び錆びれた一室へとやって来た。
「おいで––––––––––––エーテルラビリンス」
エーテルラビリンスとは、香が使役している妖精のうちの一体。属性魔法を行使する妖精とは違い、この妖精は『魔力を探す』ことに長けているのだ。
主に犯罪者を探す目的で非常に役立っており、香はちょくちょく警察の捜査に協力している。
エーテルラビリンスは、どんなに些細な魔力だとしても、その場に魔力が存在しているのならば確実に感じ取ることができる。
「これは私のため・・・・・犯人を見つけたからといって流星の笑顔を取り戻せる訳じゃない」
今から約10年前、香と流星はともに同じハンターという夢を抱き、いつも一緒にいるほど仲が良かった。
しかし今では、自分が流星から笑顔を奪ってしまったのだと苦しんでいる。
そしてだんだんとエーテルラビリンスと感覚を共有していく。
先ほどまで全く感じなかったはずの他者の魔力が徐々に鮮明になっていく。
その感覚を決して忘れないよう、その身に深く刻み込む。
「––––––––––––ッ!?」
突如、色を持っていた香の視界は闇一色に包まれ、身の毛もよだつ悍ましい感覚に襲われる。
「何––––––––––––どうなってるの? 貴方は一体何者なの・・・・・・」
恐ろしい渦に身を投じてしまったことに後悔するも、誰も助けてなどくれない。
唯一、ふいに頭に浮かんだのは、流星の幼い頃の姿だった。
その瞬間、富士山を襲う巨大な振動により香の意識は一気に現実へと引き戻される。
「––––––––––––ッ!? どうなってるの? この振動は––––––––––––」
思考している暇もなく、富士山の割れ目は徐々に広がっていき、振動は収まるどころか凄い勢いで増していく。
「まさか––––––––––––噴火!?」
香は急ぎ建築班のところへ戻ろうとするが、地下から急速に込み上げてきたマグマが目前へと迫り来る。
「アッ」
危機一髪体を拗らせ直撃を免れるが、魔力で全身を包み込んでいてもとてつもない熱さに体が悲鳴をあげる。
「みんなを早く助けないと–––––––––––」
しかし、噴火と同時に不安定だった富士山は頂上から崩壊を始める。
「嘘でしょ!?」
頭上は崩壊。足元はすでに全てが溶岩に埋めつくされていた。
これでは誰一人として生き残ってないと思わされるほどの光景。
それを証明するように、エーテルラビリンスを使用しても誰一人として魔力の気配が感じ取れない。
そして–––––––––––追い討ちをかけるかのように富士山は『ダンジョン』としての息を吹き返す。
「どうして–––––––––––––」
兵魔級だった時以上のとてつもない魔力が富士山一帯に宿っていく。
それに伴い噴き出る溶岩のあちこちから見覚えのあるモンスターが姿を見せる。
正しくそれは、富士山上層で見たユニコーンに似たモンスター。
あの時はボスモンスターとして君臨していたはずの存在が、大量に発生している光景を目の当たりにする。
––––––––––––絶望–––––––––––––
その一つの感情が純粋に香の心を蝕んでいくのだった。




