24話 ヒミツの共有
俺は天音さんの待つホテルへと向かった。
「おかえり」
どこか暗い表情の天音さんが扉を開けて出迎えてくれた。
「目的は達成できたの?」
「うん。天音さんのおかげだ。本当に感謝してるよ」
そう言って微笑みかける俺の視線を受けた天音さんの表情は、嬉しさの中に悲しみがあるような、そんな表情。
「これ––––––流星の仕業なんでしょ?」
見せられたのは、今し方投稿されたネット記事。
内容は『兵魔級ダンジョン富士山が真っ二つに割られる』。
今回の『富士山』ダンジョンは、核を破壊しても崩壊という形にはならなかったため、俺が聖剣でつけた斬撃の後がクッキリと残っている。
「なるべく目立たないようには気をつけてたんだけど」
俺が目立ちすぎてしまうと、協力してくれている天音さんにまで多大な迷惑がかかる。
こんな落ち込ませるはずじゃなかったのに・・・・・。
「本当にごめん––––––––––––」
「これで、私は用無しってことになるんだよね」
「え?」
「協力するのは、流星が少なくてもA級の力を手にするまでって話だったし、今のあんたはどう見てもS級だよ」
御役御免。
天音さんはそう思って暗い表情を浮かべていたんだ。
「あのさ、俺の話を聞いて欲しい」
これはケジメだ。
天音さんなら、きっと話さなくてもお願いすれば協力を引き受けてくれる。だけど、彼女にはそれ相応の敬意を払うべきだと思う。
「俺がこの力に目覚めたのは、千葉県の未登録ダンジョン災害の時。仲間だと思ってた人たちに裏切られ、死を覚悟したよ。だけど病院のベッドで目を覚ました時には、引きちぎられた腕や足は元通りになってたんだ」
天音さんの喉を鳴らす音が聞こえる。
相当に驚いている様子だけど、耳はしっかりとこちらに傾けている。
「弟が亡くなったことを知って、生きていることを後悔するほど絶望したけど、そんな時、この力の存在を知った。この力があれば、一を生き返らせられる・・・・・だから、強くならなくちゃいけない」
「そんなことが、本当にできるの?」
「できる––––––––––––俺に宿るこの力は、大昔の「魔王」と戦った「剣聖」の力だから」
「––––––––––––剣聖って・・・・・あの?」
いくら天音さんと言えど、規格外の内容すぎて脳の整理が追いつかない様子。
「今回富士山に向かったのも、力の欠片を取り戻すためだったんだ」
信じられない内容。
だけど、実際にみるみる力を増す規格外のこの力を、天音さんも目にしている。
それが何よりの証拠。
<––––––––––––転職ミッション––––––––––––現在「1/5」>
「大丈夫。私は流星を信じてるから。そして、私に話すには相当な覚悟とリスクがあることも。この話の続きを聞く前に、次は私の話を聞いて」
「分かった」
そうして一呼吸置いた後、天音さんは柔らかな表情を浮かべる。
「私がどうして流星に接触したのか、どうして自分の依頼は受けてくれるのか、気になってたんじゃない? その理由を話そうと思う」
天音メラという少女もまた、ハンターを夢見る者の一人だった。
ジョブは非戦闘系、その上女性ということもあり、周囲から常に見下される毎日。次第に自分自身も自らの可能性を信じられなくなり、ジョブを授かった1年後にはハンターの夢を諦めてしまっていた。
それでもハンターへの憧れをどうしても拭いきれず、ハンターを支える道へと進む決意を下す。
まさしくそれが、天才ハッカー誕生の瞬間であった。
『誰かの役に立ちたい』という強い思いがあったからこそ、ハンターという夢を追いかけていた少女は、抱く思いは変えられず、犯罪と分りつつも見境なく仕事をこなすようになっていた。
そんな時に出会ったのが八尺 流星だった。
『不良品』と蔑まれ、ハンターになれなくともダンジョンに潜り続ける青年の姿は、一人の少女の心を救う。
天才ハッカーの突然の消失。一時期一部のネット界隈は、この話題で持ちきりだったほど。
一部の天才ハッカーを求める声とは裏腹に、天音メラは1から自分と向き合う人生を歩み始めることを決意するも、心残りは、自分の人生を変えるきっかけをくれた八尺 流星の存在だった。
「これからは、この人のためだけに自分という存在を使うことにしよう」。それが、天音メラ第2の人生スローガン。
「じゃあ本当に、ネットに俺の写真を投稿したのも、こうして協力してくれたのも、ただ純粋に俺の力になりたかっただけ・・・・・」
本当に、どうしてここまでのいい子を少しでも疑ってしまったんだろう。
天音さんは、誰もが蔑んでいたあの頃の弱くてどうしようもない俺の姿を見て、唯一希望を抱いてくれた人。
そんな人、この世のどこを探したって天音さん以外見つかりっこない。
胸が、嬉しさでいっぱいになる。
感動で視界がぼやける。
こんな幸せな気持ちになったのはいつぶりだろうか。
「私が変われたのは、流星のおかげ。だからありがとう」
一・・・・・俺には今、お前と同じくらい大切にしたいと思える存在ができたよ。
「メラ––––––––––––」
いつか一の頭も、こうして撫でてあげたいな。
「俺のほうこそありがとう」
「い、いやだから・・・・・ずるいでしょ、それは––––––––––––」
モゾモゾとした声ではっきりとは聞こえなかったけど、嫌がってないのだけは分かる。
「ううん––––––––––––それじゃあ、私に力のことを打ち明けた理由を聞かせて」
「うん。今の俺は、剣聖の力を20%ほど引き出した状態なんだけど、力を50%引き出すまで、俺自身に剣聖の力が宿っている事実を誰にも知られちゃいけなくなったんだ」
「えっ、それじゃあ私にも話しちゃダメなんじゃないの?」
「大丈夫。5人までならバレても問題ないらしい。だからあと4人以上にバレたらアウトだってこと」
「つまり、その剣聖の力を授けてくれたシステムに課せられたミッションのようなものだと思えばいいってことね」
「うん。そこで一つ提案なんだけど」
「言ってみて」
「別人として、ハンター登録しに行くのはどうかなって」
これまでは、八尺 流星としてハンター登録することが目的だったから、メラが提案してくれたように複数の人物になりきるやり方がベストだった。どうせ短期間だけの作戦なら、下手に魔塔連に出向いてハンター登録することの方がリスクが高かったから。
だけど今回は、どれくらい時間がかかるのかは分からないけど、決して短くはない期間だってことは分かる。だから別人として身分証を発行し、ハンター登録を済ませてしまえば、不正には変わりないけど大分リスクは減らせると思う。
「なるほどね。確かにその方がリスクは少なくできる。まぁ、0になるわけじゃないけど。身分証も私なら問題なく手配できるし、変装の方も私がいれば問題ない。気をつけなくちゃいけないのは、目標を達成した後かな」
確かに、その人物は現実ではいないのにデータベース上では情報が残ってるのは不自然。だけどメラなら––––––––––––
俺はチラリとメラに視線を向けると、嬉しそうな笑みをこぼす。
「もうすっかり私の虜ってことでオッケー?」
「フッ、返す言葉もないよ」
「安心して、私にいい考えがあるから」
全く、16歳とは思えないくらい頼もしいよ。
そんな彼女に俺がしてあげられることは、できる限り快適な環境を整えて上げることだ。
「この部屋狭いし、引っ越そうか」




