21話 兵魔級ダンジョン『富士山』(4)
流星が『剣聖の記憶』に入るのと時を同じく。
「アレが下層のボスモンスターですか」
富士山の下層内部は中央が大きくくり抜かれており、僅かな足場が螺旋状に側面に存在している。
くり抜かれた中央には巨大なマグマ溜まりが存在し、それが生き物のように蠢いている。
いや、異彩な魔力を放っていることから、アレこそがボスモンスターで間違いない。
「やはりこのダンジョンは、下層に比べて上層にモンスターが集まる傾向があるようです」
「それに上層は下層に比べて層の数も圧倒的に多いですし、早く倒して合流してあげましょう」
夜神は、隣で発言するハンターへと目を細めて試すような視線を向ける。
「随分と簡単に言ってくれるじゃありませんか。早く倒す・・・・・? それは僕に、早く倒して来いってことですか」
「い、いや、違いますよ! 炎帝お一人に任せるわけないじゃないですか! 俺たちも一緒に戦います」
「フッ、冗談ですよ」
夜神はイタズラな笑みを浮かべる。
「ここは僕一人で大丈夫ですから、皆さんはうちのお姫様の下に向かってあげてください。ボスモンスターは下層だけじゃないですからね」
『富士山』は特殊なダンジョンの一つであり、本来なら一つのダンジョンにつき、一体のボスモンスターが存在しているのだが、下層と上層合わせて2体のボスモンスターが存在している。
また、夜神が一人でボスモンスターを相手できるように、『ヘパイストス』の副ギルド長である東条 香も同等の実力を有している。
しかし、下層に比べて上層はモンスターの数が比較にならないほど多いと予想したため、夜神はこの場にいるA級ハンターたちを上層に向かわせることにした。
「討伐したら、僕も後を追います」
「分かりました。お気をつけて」
ダンジョンの情報は一律に共有しているため、即刻各々行動を開始する。
そして夜神もA級ハンターたちの姿が見えなくなった段階で、持参していたルーン石を懐から取り出し服用する。
「やはり美味しくはないですね。フルーツ味とかに改良すれば、更に売れ行きは良くなると思いますが」
バフルーンの効果により、一時的に身体能力と魔力が向上する。
ルーン石とは、肉体や魔力の強化、ジョブの強化に使用できるアイテムのこと。
大きく天然物と人工物に分けられ、天然物には「属性ルーン」「ユニークルーン」「エピックルーン」が存在し、人工物には「バフルーン」が存在している。
属性ルーン・・・八大元素(炎・水・風・地・雷・氷・闇・光)の力を強化できる。ただし、ルーンによって属性は異なっているため、適合するルーンでないと強化できない。
ユニークルーン・・・ユニークジョブを強化できる。
エピックルーン・・・噂では、新たな『ジョブ』を入手できる。
バフルーン・・・一時的な肉体強化や魔力増幅を促す。回復バフも存在している。
属性ルーンはユニークルーンに比べて、ダンジョンならばどこでも手に入る可能性があるが、合わない属性には使用できない点と、強化幅がユニークに比べて圧倒的に劣る。
ユニークルーンは、S級ハンターのみが入場を許された『バベルの塔』でのみ獲得できる。
エピックルーンはダンジョンや塔に限定されているアイテムではないらしいが、これまで獲得できた者は、世界中で24名のみ。
ちなみにバフルーンは、一般のショップで売られている。
「それじゃあ、行きますか」
夜神は、悠々大胆に身を乗り出し、ボスモンスター目掛けて落下していく。
拳銃に見立てた左手へと真っ赤な魔力を収束させていき、直径2メートルほどの巨大な炎の球体を形作る。
「僕の炎とどちらが熱いか、勝負と行きましょう」
高速に放たれた炎の球体がボスモンスターに直撃した直後、マグマが巨大な飛沫を立てて夜神に襲いかかる。
「大した熱さじゃありませんね」
マグマを真正面から受け止めた夜神は、表情一つ変えずに涼しげな笑みを浮かべたまま、空中に停止していた。
原理は、全身に纏わせる高濃度に圧縮した炎のオーラが、周囲の空気を操っているというもの。
直後、マグマ溜まりから伸びる無数の炎の柱。
それらが次第に一つの集合体と化していき、マグマに覆われた巨大なモンスターが誕生した。
上半身のみがマグマ溜まりから突き出し、2本の腕と一つの頭が存在しているが、目鼻立ちはのっぺらぼうのような風貌で分からない。
確認できるだけでも、夜神の30倍ほどの大きさはあるだろう。
「そうでなくては面白くないですね」
口元に笑みを浮かべる夜神も、負けじと全身に纏う炎の熱さを増していく。
A級ハンター以下では、肉体の形を保っていられるかも分からないほどの熱さと魔力が充満する。
「僕は繊細な魔力コントロールは存外苦手でしてね、一気に片を付けさせてもらいますよ」
モンスターは全てが魔力で構成されていると言っても、一つの生命なことには変わりない。そのため、心臓や頭部破壊など、生命活動を停止させる手段を講じることにより撃退することが可能。
ただし、今回夜神が相手にしているマグマ溜まりを媒介にしているモンスターや、国会議事堂で流星が倒したボスモンスターといった元々ある媒体を利用してモンスターと化している存在は、必ず核となる本体が別で存在している。
しかし、これほど巨大なボスモンスターの中から自身よりも小さいかもしれないモンスターを見つけ出すのは至難の技。
そういった魔力操作や感知を得意としない夜神だが、その弱点を帳消しにしてしまうほどの火力の持ち主であることもまた事実。
夜神は存分に高めた魔力を炎へと変換し、巨大な滝の如くボスモンスターに向けて放つ。
視界全体が己の炎一色で埋め尽くされる。
しかし次の瞬間、またしても無数の柱が下層から湧き上がる。
「これは!?––––––––––––少々甘くみすぎていましたか」
そう言うと、更にルーン石を3つ飲み込む。
「クッ」
バフルーン石はいわゆるドーピングであるため、一度に服用できる量には限界がある。
人によってそれぞれだが、服用しすぎてしまうと、中毒症状や効き目時間の短縮に繋がる恐れがあるため、使うほどいいというわけでもない。
ルーン石が体へと馴染むまでの間、全身を蝕む激痛に耐えながら、幾度となくくねりながら迫り来るマグマによる攻撃を宙を舞って華麗に躱していく。
「チェックメイトです」
先ほどよりも早く、無駄なく溜め込んだ魔力を、一方からではなく、全身を使って発散させる。
全身から放たれた巨大な炎は、マグマの柱を全て呑み込んだ後、目視できるマグマを一瞬で喰らう。
しかし、夜神が視認しているマグマ溜まりは、本来のマグマ溜まりの上澄でしかなく、ボスモンスターの核が地下へと移動してしまった場合、手がつけられなくなってしまう。
なぜならば、夜神の魔力とマグマ溜まりに蓄えられた魔力とが反応することによって、大噴火が起きてしまう可能性がかなり高いため。
故に、この場で早急にボスモンスターを始末しておきたいところだが・・・・・
息を呑み、結果を見守る。
次第にマグマの流れは緩やかとなり、下層から感じられる魔力もだんだんと薄れていく。
「フゥ〜・・・残すは上層のみですか」
息をついたのも束の間、突如目前へと、キラリとした線が走る。
「––––––––––––ッ!?」
直後、大きな振動とともに山は二つに割れ始めた。




