20話 兵魔級ダンジョン『富士山』(3)——————「覚醒」
「あれは・・・・・誰だ?」
音を奏でる人物は、白髪ではなく長髪の黒髪を背後で一つに束ねている。
部屋中にギラつく炎を激らせ、片手には金槌が握られている。
それを幾度となく熱した金属に叩きつける。
「足りない・・・足りない・・・・・これほどの輝きでは、遠く及ばぬ」
その人物は、幾度となく山を襲う雨風と雷に剣を晒し、夜月の光を吸収させた。
それでも一向に満足した様子を見せることはなく、徐々に徐々にと何かに追い込まれているかのように精神を荒げていった。
しばらく同じシーンが続いた後、突然景色は切り替わる。
そこには、先ほどこの部屋に入った時のような、炎が鳴り止んだ薄暗い部屋の景色が広がっていた。そして部屋の片隅には、精根尽きた黒髪の人物が壁にもたれかかっていた。
痩せ細り、全てに絶望したような諦めの表情を浮かべている。
すると、俺の背後から「ギイィィ」と錆びた扉の軋む音が響く。
「––––––––––––剣聖!?」
「年端もいかない幼な子が、こんな場所に何用だ?」
「分からない・・・・・」
「––––––何?」
「これからどうすればいいのか、何をすればいいのかが分からない。気がついたら、ここにいた」
剣聖の瞳に精気は宿っていなく、虚な目をしてる。
「導かれたとでも言うのか・・・・・」
そう言いながら、黒髪の男は地面に転がる一本の剣に視線を落とす。
「神である余が、まさか人の世で人のような絶望を味わうことになろうとはな」
「神様・・・・・?」
「この地に夜闇を落としているのは、ツクヨミである余の存在があるからだ。けれど、もう間もなく余の闇を疎ましく思う存在に、余は消滅させられる」
本当に「ツクヨミ」と名乗るこの男が神なら、神を消滅させられる存在って一体・・・・・・
「其方も、余の闇を疎ましく思うか?」
ツクヨミは、剣聖へと悲しげな表情を向ける。
「––––––––––––僕の死を望んでない人がいてくれる。だけど、僕はみんなを不幸にする存在だから・・・・・神様の質問に答えられる資格がない」
俺自身があの時に体感したからこそ理解できる。
剣聖は、両親の生きてほしいという想いを胸に強く刻み続けている。だけど、白鬼に村の人たちが殺されたのは、自分のせいだとでも思っているんだろう。
「少年よ、歳はいくつだ?」
「・・・・・たぶん、九つくらい」
「それほどの幼さで、地獄を味わったことのある目をしているな」
ツクヨミの剣聖を見つめる瞳に、優しさが宿ったように見えた。
「奇しくも今この場には、似た者同士が存在しているというわけだ。けれど其方には、まだたくさんの時間が残されている・・・・・生きられる資格と思いがあるのならば、強くさを磨くのだ。この世は強き者が全てを手にできる時代––––––故にこれを与えよう」
ツクヨミは、一本の剣を掬い上げて剣聖へと差し出す。
「余の闇を呑み込む希望として自ら創造した一振りだ。余の希望にはなり得なかったが、其方の希望になれることを祈っている」
どういうことだ・・・・・なんでわざわざ自らが生み出す闇を自分自身の手で消してしまう必要がある?
いや・・・・・そうじゃない。
ツクヨミは自身の終わりを悟っている。だからこそ、他者の手ではなく、自殺という手段を取ろうとしていたんじゃないのか。
すると、剣聖が剣を握りしめた瞬間、自身の白気と反応した剣が真っ白な眩い光を発して視界を覆い尽くす。
「こ––––––これは!?」
なぜかここで記憶は途切れ、俺は元いた錆びれただけの一室に戻ってきていた。
「まだ何も試練を受けてなのに、なんで・・・・・」
<引き続き『剣聖の記憶』に入るには、解放可能なメモリーツリーを全て解放することを推奨>
今のポイントは605993Pある。
前半のコストから考えるに、多少上がったとしても十分足りるはずだ。
国会議事堂ダンジョンでポイントを稼いどいてよかったな。
「これでよしっ」
<条件達成––––––––––––『20%:覚醒』を解放>
瞬く間に景色は変化し、再び視界は真っ白な光に包まれる。
「其方が・・・・・余の探し求めていた最後のピースだったとは––––––––––––これで余の誇りだけは守られる。感謝する––––––名も知らぬ少年よ」
ツクヨミは、ゆっくりと瞳を閉じた後に笑みを浮かべて片目から涙を流す。
「––––––––––––余の闇を呑み込むほどの光・・・・・ツクヨミの対となる存在。最愛の其方に与える名は、アマ––––––––––––」
「メテオ––––––––––––」
気が付くと俺は剣聖の意識となり、天に向けて剣を振り上げていた。
次の瞬間、頭上の全てが斬り裂かれる。
月読山の頂上は真っ二つになり、天が割れた。
次第に顔を見せた太陽が闇を溶かしていき、ツクヨミ自身も消滅していく。
「礼を言う。そしてその名も悪くはないな––––––––––––」
<『メテオ』の名を再生。スキル『メテオの子』が『聖剣メテオ』に進化––––––––––––称号【メテオ】を獲得>
<新たな称号【メテオ】の獲得により、スキル『聖剣の恩恵』を獲得>
【ステータス
称号:【記憶喪失剣聖】【メテオ】
ジョブ:『剣聖見習い』
スキル:『×10のポイント増加』『白魔気』『聖剣メテオ』『聖剣の恩恵』
体力:7080
武力:7500
防御力:5000
敏捷:8335
技術:5000
運:7112
魔力:8342
『メモリーツリー:12%「292139P」』】
<『聖剣の恩恵』・・・常時デバフ効果のあるあらゆるスキルの無効と、戦闘時のみ全ステータスが×30%の効果を得る>
今でも天を割れるほどのこの規格外の力に、全ステータス30%のバフが乗るのか。それに常時デバフ無効とか・・・・・完全にチートじゃんか。
確か剣聖の逸話の中に、天を斬り裂く話があったような気がする。
つまり剣聖は、たった九つの頃にそんな偉業を成し得たってことだ。
「つくづく驚かされるな––––––––––––ッ!?」
突然、手に持っていた聖剣が一人でに動き出すと、俺の胸の中へと消えていった。
「スキルだからってことか・・・・・?」
聖剣の消失を合図に記憶の再生が終了して現実に戻ると、とてつもない振動が山全体を襲っていた。




