表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶喪失剣聖  作者: 融合


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/56

18話 兵魔級ダンジョン『富士山』(1)

 兵魔級ダンジョン『富士山』五合目。

 早朝。

 霧が薄らと視界を遮り、冷たい空気が眠気漂う空気感を徐々に溶かしていく。

 休憩所などが存在しているこの場所では、ちらほらと集まり始めたハンターたちが、緊張する素振りもなく会話に花を咲かせている。

 

 俺は、そんな周囲の様子を眺めながら、無料提供されているお味噌汁を紙コップによそり、近くの空いている席に腰を下ろす。

「はぁ〜」

 温かい味噌汁が体の芯まで温めてくれる。

「兄ちゃん、装備は何も持たなくていいのか?」

「大丈夫です。俺のジョブ『格闘家』なんです。下手に慣れない防具とか身に付けると動きずらくなっちゃうんで」

「なるほどな、男なら拳一つってか。若いのに逞しいねぇ〜」

 人と話すことがあまり得意じゃない俺にとって、気さくに話しかけてくれるこういう人はありがたいけど、今はあまり誰かの記憶に残らないように意識した方がいい。

 俺は席を立とうとする。

「俺のジョブは『狩人』だ。つっても、武器は斧しか使えないんだけどな。ジョブを授かった時から手足のように斧を扱えたんだ、不思議だよな・・・・・で、馴染み深い斧ほど力が増すんで今日はほれっ、特別にこいつを持ってきたってわけよ」

 俺の隣に座る力士のような体格の中年男性は、自慢げに全長一メートルほどある斧を背中から取り出す。

「まぁ、普段の筋トレの成果で素の状態でも握力100kgはいってるけどな。おっそうだ、まだ時間もあるし、腕相撲でもしないか?」

 いや、何でそうなるんだよ。

 たまたま座った席だけど、完全に失敗したな。

「いや、流石に勝てないですよ。俺のジョブはどちらかというと、力よりも技術って感じで」

「けど、『格闘家』ならそこそこ腕力もあるはずだろ?」

「いや・・・・・ちょっ––––––––––––えっ」

 俺は無理やり肩を組まれた状態で、空いているテーブル席へと連れて行かれる。

 ここでこの人の腕を振り払うことは簡単だけど、キレられでもしたら余計騒ぎになりそうだしな。

 ここはいい感じに負けてみよう。

「えっと・・・・・これは?」

 なぜか、俺たちが席について向かい合うなりかなりのギャラリーができてしまう。

「またゴードンのやつが腕相撲するらしいぞ」

「今んとこ負けなしなんだろ?」

「そりゃ、相手見てみろよ。毎回勝てそうな相手しか選んでないんだって」

「おい、バカ! 聞こえるぞ」

 十分過ぎるほど聞こえてる。

 だけど、このゴードンって人はそんな言葉に耳を貸していない。

 ただ純粋に腕相撲がしたいだけなんだろうか?

「一回きりの勝負だ。負けても勝っても何もない、ただ純粋な男同士の勝負だ」

 ここまで言われると申し訳なさを感じるけど、こんなに人だかりができては、全力で負けに行く必要がある。

 俺とゴードンさんは手を握り合うと、いつの間にか進行役に立候補していた一人のハンターが俺たちの拳に手を添える。

「レディ––––––––––––ゴッ!」

 開始の合図と同時に少し力を込める。

 簡単に負け過ぎても不自然だからだ。

「グッ––––––––––––」

 ゴードンさんの顔が強張る。

 どうやら力を入れ過ぎたみたいだ。

 後は少しずつ抜く力を調整していき、逆に顔には力を込めて赤くしておこうか。

「クッ––––––––––––」

 少し漏らした吐息も相まって、善戦していたが惜しくも負けてしまった人に見えるはず。

「勝者––––––––––––ゴードン!」

「よっしゃ!」

「あー、あの若いのもいい線行ってたけど、負けちまったか」

 これで、ここから先の印象はかなり抑えられるだろう。

「なかなかやるじゃないか。俺はA級ハンターのゴードンだ。お前は?」

「––––––––––––境 真琴です」

「今日はよろしくな。何かあったら、いつでも俺を頼ってくれていいからな」

 本当に熱い人だな。

 俺は思わず笑みをこぼした。

「––––––––––––何をやっているんですか?」

 高らかな透き通る女性の声が休憩所内に響き渡り、空気が一瞬にしてヒリつく。

 

 肩ほどの金髪に、真っ赤な瞳。潤ったぷるんとした唇。そして俺とよく似た白い肌。

 真っ白い服を着こなし、男性を魅了する圧倒的美人。

 すっかり大人の女性になっちゃったけど、幼い頃の面影はそのまんまみたいだ。

 

 無意識にその女性のことを目で追っていると、視線が重なる。

 いや、重なった気がしたけれど、すぐに違う方向へと視線を向けていた。

「これから私たちが挑むのは兵魔級ダンジョンです。気を紛らわせるのは構いませんが、先ほどの空気感はいただけません。S級が同行するとはいえ、決して気は抜かないようにお願いします」

 最後に彼女と会ったのは、俺たちが10歳の時。

 普通なら久しぶりの再会に喜ぶところなんだけど、今の偽りの姿にホッとしてしまっている自分がいる。

 会うかもとは覚悟していたけど、あまりにも急すぎた。

「もうすぐ夜神さんもこちらに来られますので、それまで静かに待機していてください」

 そう言い残し、休憩所を後にする。

「あの、彼女はもしかして・・・・・」

「うちの副ギルド長だ。美人な人だけど、いつも厳しんだなこれが。でも、今日はギルド長だけが参加するって聞いてたんだけどな」

 天音さんも、夜神 水に目を付けられないように言ってたし、彼女の参戦は予定外ってことか。

「妖精を操るジョブらしいが、ギルド長以上の火力持ちって噂もある。能力の幅もかなり広くてS級になれるほどの実力。ああいう人を「天才」っていうんだろうな」

 「天才」か・・・・・。

 幼い頃の俺にとっては、その言葉を聞くたびに地獄でしかなかった。

「俺たち団員の中には、副ギルド長のことを「女王様」って呼んでる奴もいる。だけどお前はダメだぞ。まぁ、ギルドに入るなら別だけどな」

 もう、俺の知ってる彼女はいないってことか・・・・・

 どこか寂しい気持ちになりながらも、静かにその後の待ち時間を過ごした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ