17話 予兆
絶え間なく響く金属音。
幾度となく高温の炎に焼かれ、数万の雷に身を貫かれる。
更に絶え間ない雨風にさらされたと思うと、いつの間にかこの身は、月の光に癒されている。
まだ足りない・・・・・まだ足りないと、来る日も来る日も同じことの繰り返し。
・・・・・これは一体、誰の記憶だろう・・・・・
ここはどこで、俺は今何をしている?
何か夢を見ているわけでも、映像が流れているわけでもない。
ただただ、身に覚えのない感覚だけを鮮明に感じ取っている。
『––––––––––––余の闇を呑み込むほどの光・・・・・ツクヨミの対となる存在。最愛の其方に与える名は––––––––––––』
目を開くと、無機質な部屋の天井が視界に映る。
「ここは・・・・・」
「––––––––––––よかったぁ」
声のする方へと視線を向けると、ホッとしたような笑みを浮かべる天音さんの姿が目に入った。
「もう2日も目覚まさないから、マジで心配したんだけど」
「ごめん。それと、心配してくれてありがとう」
何もかも失ったと思ってた俺を、心から心配してくれる人がまだいたなんて・・・・・
天音さんがどうして俺のことを気にかけてくれるのかはまだ分からないけど、疑うのはもうよそう。
会ってまだ間もないけど、恋愛とかの意味じゃなく、彼女は紛れもなく俺の中で大切な存在の一人になった。
「それにしても、派手にやったね」
「ん?・・・何のこと?」
「これ」
天音さんが差し出してきたスマホの画面には、『国会議事堂』ダンジョンの記事が開かれていた。
その中でも目を引いたのは、攻略されたダンジョン内の建物が全て水平に切断されていたという一文。
「これやったの流星なんでしょ?」
「えっ・・・・・俺?」
気を失う前、確かに国会議事堂を両断するところまでは見ていた。そこからの記憶はないけど、添付されている画像を見る限り、国会議事堂の切断跡とその他の建物に付けられた切断跡が似ていることから、俺の一撃が原因であることは疑いようもない。
攻略された兵魔級以上のダンジョンは、ダンジョンとしての効力を失い崩壊するモノと、ごく普通の建築物に戻るモノとが存在している。洞窟などはほとんど前者で、今回は後者みたいだ。
「どうして『ジョブ』も『魔力』もないあんたがこんなにもすごい力を持ってるのかは確かに気になる。けど、話さなくていいよ」
「えっ・・・・・」
「聞いても聞かなくても私が流星に協力するのは変わらないし、その調子じゃ、あんた自身もよく理解できてはいないみたいだしね」
確かに、俺はこの力について、まだほんの上澄み程度しか理解できていない。
さっき感じたあの感覚も、気のせいなんかじゃない。あれは一体なんだったんだ?
「あのさ、話さなくていいとは言ったけどやっぱり気になるから確かめさせて。目が赤くなってる理由も、その力と関係あったりするの?」
俺は一度、天音さんと目を合わせると、閉じていたカーテンを開け、窓の外に視線を向ける。
遠くまで一直線に伸びる赤い線。
「ステータス」
【ステータス
称号:【記憶喪失剣聖】
ジョブ:『剣聖見習い』
スキル:『×10のポイント増加』『白魔気』『メテオの子』
体力:5999
武力:7000
防御力:3560
敏捷:8000
技術:4176
運:5823
魔力:4012
『メモリーツリー:8%「605993P」』】
一気に50万ほどのポイントが伸びてる。
てことは、兵魔級のボスモンスター一体倒しただけで、50000ポイント以上手に入ったってことだ。
これだけあれば『20%:覚醒』を解放するには十分だけど、その一つ前の『剣聖の記憶』を解放しなければ、その他の小球体も解放することはできない。
初めて『剣聖の記憶』を解放した時は何も考えずにただ突っ走ったけど、毎回そんなことをしてたら嫌でも目立ってしまう。
せめて、今回の『剣聖の記憶』に関する手がかりでもあれば––––––––––––
「天音さん。『ツクヨミ』って言葉聞いたことある?」
「私の質問は無視しといて、自分の質問だけ答えてもらえるとでも?」
目を細め、俺に対して呆れたような表情を向けている。
「ごめん。そんなつもりなかったんだけど––––––––––––」
「いや、そんなマジになって謝んなくても、冗談だから」
初めて見せた無邪気な可愛らしい笑みに、ホッと胸を撫で下ろす。
「聞いたことあるよ。数百年前の歴史に『月読山』っていう山が存在してた記録が残ってる。山周辺が永遠の夜に包まれていたことからそう呼ばれてたみたい」
流石は天音さんだ。
対して俺は初めて聞く名前。歴史が苦手な身として、少し恥ずかしさを覚える。
「今その山がどこにあるのか知ってたりする?」
「かつて、聖剣の光が全ての闇を呑み込んだことで、それ以降は月読山とは呼ばれなくなったの。現代だと、「富士山」と呼ばれてる」
「富士山と言えば、兵魔級ダンジョンの一つ・・・・・」
さっきの感覚がヒントなんだとすると、『剣聖の記憶』を解放するためにはダンジョンに潜る必要があるってことだ。
「早速で悪いんだけど、今から『富士山』に行ってくるよ」
「体は大丈夫なの?」
「うん」
「分かった・・・・・それじゃあ、私もついてく。安心して、流星がダンジョンに潜ってる時は、大人しくホテルで待ってるから」
一瞬、『国会議事堂』みたくダンジョンについてくると言い出すんじゃないかとヒヤヒヤしたけど、ホテルで待っていてくれるのなら、天音さんを危険に晒さずに済む。
かく言う俺自身も、まだまだ力不足は否めない。十分に気をつけなければ。
けどその前に、どうダンジョンに入るかが重要だ。
「へぇ〜運がいいね」
天音さんがご機嫌に笑みを浮かべながら、俺の方へとスマホを向ける。
「丁度、『ヘパイストス』が『富士山』のハンター募集をしてるみたい」
国内最大ギルド『ヘパイストス』。
確かあの2人が所属しているのもそのギルドだ。
「募集条件は?」
「・・・・・A級以上かつ、兵魔級ダンジョン経験者限定。今回はハンター枠しか募集をしてない上、ほとんどがギルドから選考されるみたい」
「つまり、外部の数少ない選考枠に入れるのかってことだね」
「いや、そこに関しても心配はいらないよ。私は元だけど天才ハッカー。これくらいのシステム操作なら、痕跡を残すことなく一瞬で終えられる」
天音さんはノートパソコンを手に取ると、ものの数秒で動かしていた手を止める。
「はいっ、完了っと」
「えっ、もう?」
「今回の流星は、境 真琴って名前の『格闘家』設定。仕方がない展開だったとはいえ、前回のあんたは流石に目立ち過ぎてたからね。ハッキングした全サーバーから前回の痕跡は全て削除しておいた。今回、万が一にも夜神 水に目をつけられるようなことがあったら、どのみち不信感は拭えなくなるから気をつけること」
天音さんの話によると、S級ハンターには特例として、魔塔連が管理しているサーバーにアクセスできる権限が与えられているとのこと。
ハッキングの痕跡を少しでも残していると、そこから様々な情報を抜き取られてしまうらしい。だからと言って、システム上の痕跡を全て消したところで、ハッキングされたという事実に気づかれてしまう理屈は俺にも理解できる。
今回の俺の目的は、なるべく目立たずに『剣聖の記憶』を探すこと。
人目につくところで力を使いさえしなければ、目立つ心配は大分低くなる。
「なるべくダンジョンのモンスターとの戦闘は避けるようにするよ」
「それじゃあ、何のために兵魔級ダンジョンに行くのか分かんないね」
不意にこぼれてしまったような、そんな軽い笑みを天音さんは浮かべた。
「思うんだけどさ、『国会議事堂』での動きを見る限り、もうA級並みの力はあるんじゃない?」
天音さんの言うとおり、限りなくS級に近い実力はすでに持っていると思う。
だからこそ、『20%:覚醒』までメモリーツリーを解放したら、八尺 流星として改めてハンターになりにいく。
「––––––あともう少しだけ協力してほしい」
「まぁ・・・・・私は、全然構わないけど」
「感謝するよ」
その後の新幹線のチケットは俺が手配し、3時間ほどかけて兵魔級ダンジョン『富士山』の待つ静岡県へと向かった。




