16話 夜神 水
兵魔級ダンジョン『大坂城天守閣』。
「任務中にスマホとは、いささか感心しませんね」
スラリと伸びた長身に、サラリとした真っ赤な長髪を靡かせながら、男は一人、甲冑を身に纏う存在の前に堂々と佇む。
甲冑とは、平安時代から江戸時代にかけ使用された、戦時中に身を守る防具のこと。
大坂城の主人––––––豊臣秀吉が纏っていたとされているものはいくつもあるが、今まさに纏われるは「銀伊予札白糸威胴丸具足」。椎の実に似ている派手な兜が特徴で、前立と後立は金箔押の軍配を模したモノになっている。
「歴史上の偉大な人物に、こうしてお目にかかれたことは大変光栄ですが––––––––––––こういう形でなく出会いたかったものです」
男は、地に腰を据える豊臣秀吉に躊躇なく手のひらを翳す。
「さようなら」
次の瞬間、大坂城から大量の炎が一気に噴き出すと、勢いよく瓦解した。
「––––––––––––あっぶなかったぁ〜・・・・・・死ぬかと思いましたよ」
「貴方がスマホにばかり気を取られていて、よそ見していたのがいけないのでは?」
「まぁ、確かにそのせいで逃げ遅れたのは事実ですけど・・・・・」
「次は助けませんからね」
「はい・・・・・って、そんなことよりこれ見てくださいよ、炎帝」
「だから、ジョブ名で呼ばないでいただけます?」
炎帝こと––––––夜神 水。
ユニークジョブ『炎帝』を有するS級ハンターの一人であり、ギルド『ヘパイストス』のリーダーでもある。
『炎帝』の能力は、既に存在している炎、あるいは自らが生み出した炎に関わらず、意のままに操ることができるというもの。
「それで、何がそんなに気になるんですか?」
そう言いながら、夜神は部下のスマホを覗く。
「『国会議事堂』遂に攻略・・・・・ようやくですか。僕たちS級ハンターは立ち入れないとはいえ、所詮はA級ダンジョン。随分と時間がかかったことですね」
「い、いえ・・・・・そうじゃないんですよ」
部下の男のくぐもった声に違和感を持つ。
「何がです?」
「実は、現在の等級はA級ではなく、兵魔級だったみたいなんです」
「それをA級ハンター以下で攻略したと・・・・・絶対に不可能とはいえませんが、確かに少し不可解ですね」
「ですよね!」
声のトーンが分かりやすく上がる部下へと、細目を向ける夜神。
「それに一番不可解なのは、ダンジョンだった場所一帯が、綺麗に水平に断ち切られていたことなんです! 先ほどの炎帝のように、一撃でダンジョンを攻略したみたく」
「––––––––––––それはつまり、刃物を扱う何者かの仕業ということですか・・・・・」
夜神は珍しく頭を悩ませる。
大抵のことならば、少し考えれば答えを導き出せてしまうが、今回は、部下が息を呑むほどの長考。
「国会議事堂ダンジョンの半径は約1キロメートル。つまり、それほどの芸当ができる存在がA級ハンター以下に紛れていると?」
『国会議事堂』ダンジョンは、S級ハンターレベルの魔力を阻む結界が存在していた。それに、夜神の知る者の中に、そんな並外れたことのできる思い当たる人物はいない。
「実に興味深いですねぇ」
「え・・・・・今、わら・・・・・え?」
「気のせいでしょう。それで、次はどこのダンジョンでしたか?」
「ええっと、兵魔級ダンジョン『富士山』です」
「ほぉ〜、兵魔級と言えど、かなり難関とされるダンジョンです。これを攻略したとなれば『ヘパイストス』の評価は更に上がることでしょう」




