15話 『国会議事堂』ダンジョン(5)——————「メテオの子」
ボスモンスターに挑む前にポイントを振り分けておくか。
【 ステータス
称号:【記憶喪失剣聖】
ジョブ:『剣聖見習い』
スキル:『×10のポイント増加』『白魔気』『メテオの子』
体力:5999
武力:7000
防御力:3560
敏捷:8000
技術:4176
運:5823
魔力:4012
『メモリーツリー:8%「97700P」』】
とりあえず、『剣聖の記憶』が解放可能なところまでメモリーツリーを進めたけど、それでもかなりのポイントがまだ残ってるな。
『20%:覚醒』までに解放が必要な球体は、その前にある『剣聖の記憶』と、いくつかの小球体だけ。
今のままのポイントじゃ心許ないけど、ボスモンスター撃破によるポイントを合わせれば、20%まで解放できるはず。
「それに・・・・・」
握り込んだ左拳へと、白と黒が入り混じった薄らとした炎のようなものが纏われる。
灰色ではなく、2つの色が鮮明に浮かび上がっている。
「白魔気がやっと使えるようになった」
白鬼を一撃で葬り去ったスキル。
現実世界で使えるようになる条件は、魔力の値が4000を超えることだったんだろう。
何はともあれ、今出来る準備は全部整った。
ボスモンスターが存在するダンジョンは、基本的にS級のハンターが担当するものだけど、この場には、俺以外にも多くのA級ハンターがいてくれる。
「アレン!」
「シャルマンさん」
ようやく俺の下へと、シャルマンさん含めて19人のA級ハンターたちが合流する。
「他の人たちは?」
「B級ハンター以下は全員退避させた。アレンの言うとおり、B級ハンターの何人かは嫌な目つきをしていたからな。最悪の事態になる前でよかった」
そう言うと、シャルマンさんはサッと辺りへと目を配り、俺のすぐ隣へと近づいてきた。
「あいつとお前の間に何があったのかは聞かない。だが、その選択が正しかったとは、肯定はしてやれない」
「はい・・・・・分かってます」
想定外の事態とはいえ、戦闘で散々目立ってしまっている上、殺人までしたとなると、俺自身の首を絞めるだけだと理解はしてる。
けれど、大門と言葉を交わしていると、どうしても理性ではなく感情が先行してしまった。
「俺は、今後もアレンとはいい関係を築いていきたいと思っている。ダンジョンでは、常に死はつきものだ」
俺の左肩へと、優しく手のひらが乗せられる。
「もう自分を下げるマネはするなよ」
「・・・・・はい」
俺はシャルマンさんの対応に感謝をし、遅れて歩き出す。
「あのボスには死角が存在しないのか?」
俺の背後を歩いていた一人のハンターがふと口にする。
今現在、俺たちのいる西側以外はボスモンスターの絶え間ない攻撃に晒されている。
「あるとすれば、俺たちのいる国会議事堂の背後だろう。ただ––––––––––––」
国会議事堂本体が議員会館のような怪物に変化しているわけでもなく、瓦礫などの物質の塊を周囲に作り出し、素早く飛ばすことで攻撃に使用している。
つまりあのボスの能力は、『生み出した物質を自在に操ることができる』といったようなもの。正確には違うだろうけど、周囲の建物が入り口付近に比べて新しかったのもボスの仕業。
シャルマンさんも、俺と同じことにひっかかっている様子。
背後すらも、奴の死角ではないんじゃないかと。
「マジかよ・・・・・」
案の定、崩壊させた建物の瓦礫が無数に動き出し、再び一つの巨大な塊へと戻っていく。
「アレンばかりに任せてはいられないからな」
突如シャルマンさんの全身から真っ赤な炎が吹き出し、全身を包み込む。
あれは・・・・・俺の白魔気と似たようなものなのか?
「足りない・・・・・もっと大きく、もっと鋭く、もっと熱く燃え盛れ!」
次第に炎はみるみる天高く変化していったと思うと、今度は徐々に鳴りを潜めていく。
「何だ、あれ––––––––––––」
「また随分と派手なの作りましたねー」
「あれほどの戦いを見せられたら、誰だって疼くのは当たり前のことだ」
炎が鳴りを潜めた先から姿を現す一本の巨大な大剣。
ビル一つ分はありそうだ。
「さぁ、仕上げに切れ味を試すとしよう」
そうして大剣を怪物目掛けて振り下ろすと、たった一撃で一刀両断してしまった。
シャルマン・クレイン––––––––––––ジョブ『鍛治士』。
文字通り、自らの全身を用いて名刀を生み出すことができる。
「すごい・・・・・」
ひょっとして、俺の実力はA級を超えているんじゃないかと思ってたけど甘かった。
俺が無数に切り刻んで倒した怪物を、シャルマンさんはたったの一撃でねじ伏せて見せた。
それなら、S級はいったいどれほど強いんだろうか。
「アレン。ここは俺たちに任せて先に行け」
「いやっ、でも––––––––––––」
「ボスモンスターを倒すためには、お前の力が必要だ。頼んだぞ」
俺がシャルマンさんを評価しているように、シャルマンさんも俺の力を認め、信じてくれている。
「ありがとうございます」
「ああ」
俺は、徐々に復活し始める怪物の間を駆け抜ける。
そして目と鼻の先に国会議事堂を捉えた瞬間、ボスの攻撃範囲に入っていってしまったらしく、無数の瓦礫が迫り来る。
「クッ」
なんて重さだ・・・・・
まともに受けるのはまずい。
剣の耐久度も目に見えて限界に近い。
目を凝らし、頭上より雨のように降り注ぐ瓦礫をことごとく回避するも、それ自体に意思が宿っているかのように、地上へ激突する直前に方向を変え、俺を追尾してくる。
「クソ、キリがない」
これじゃまともに本体を狙えない。
「なら、強行突破だ!」
俺は全身に白魔気を纏わせ、攻撃をギリギリで回避しながら本体に迫る。
食らえ、白鬼も一撃で倒した白魔気の威力だ!
全力を持って国会議事堂の側面へと剣を振るった瞬間、甲高い音を奏でながら真っ二つに剣が折れてしまった。
「なっ!?––––––––––––カハッ」
一瞬の隙ができた途端、無数の攻撃が俺の全身を蝕んでいく。
その後、一度攻撃範囲から離脱した俺は、折られた剣を見つめる。
「ビクともしなかった・・・・・」
間違いなく白鬼の方が、あのボスモンスターよりも大きな威圧感を感じた。
あの時と今とでは何が違うんだ?
「・・・・・落ち着け、俺。期待に縛られるのはよくない」
シャルマンさんたちに認められたことが嬉しくて、周りがよく見えてなかった。
「あの時感じた拳の熱さ––––––––––––確かに覚えてる」
剣自身も、俺の体の一部だと考えるんだ。
折られた部分に意識を集中させる。
すると、なくなったはずの刀身部分へと、白魔気が鋭利かつ、コンパクトな見た目となって出現した。
色合い以外は違和感なく、折られる前の見た目を再現している。
「行こう」
再び、攻撃の嵐の中へと足を踏み入れる。
途端に攻撃が降り注ぐが、焦らず、正確に回避していく。
今意識するのは、国会議事堂内で、最も強く魔力を感じる部分を探ること。
元々存在していた建物自体にモンスターの意識が宿ることは考えにくい。となると、建物内に潜むモンスターがいると考えるのが自然。
イメージするんだ–––––––––––––どんなモノでも切る鋭利さを。
俺自身とより一体となっている剣の姿を。
意識の外へと届き得る––––––そんな一太刀を––––––––––––
「見つけた」
剣を素早く、けれど静かで丁寧な一撃を意識する。
イメージは、湯船で湯を切り裂くあの感覚。
スキル発動––––––––––––『メテオの子』。
まだどんなスキルかも詳しく見ていないのに、この場で使うことが正しいと直感で理解した。
「うっ––––––––––––」
国会議事堂が横一直線に真っ二つになる姿を最後に、意識は途切れてしまった。




