14話 『国会議事堂』ダンジョン(4)——————「復讐」
「来い––––––––––––」
俺は無理やり大門の胸ぐらを掴み、そのまま集団を抜け、再びモンスターの群れへと突っ込んでいく。
「クソッ、離せぇ! 聞いてんのかおいっ––––––––––––」
「なら、望み通り囮になってもらうよ」
俺は、モンスターの群れの中へと容赦なく大門を投げ捨てる。
「なっ––––––––––––テメェ、ぜってぇぶち殺してやるよぉぉぉ!」
情けなく落下していく大門の姿を見て、心のわだかまりがスッと引いていく感覚に陥る。
このまま放っておけば、大門は間違いなくモンスターたちの餌となって死ぬ。
だけどそれじゃああいつと同じだ。
あいつにされた仕打ちに比べれば、全然気は晴れないけど、復讐心に囚われて本質を見失うわけにはいかない。
「ステータス」
【 ステータス
称号:【記憶喪失剣聖】
ジョブ:『剣聖見習い』
スキル:『×10のポイント増加』『白魔気』
体力:3000
武力:5532
防御力:2800
敏捷:6000
技術:999
運:5000
魔力:2339
『メモリーツリー:7%「55800P」』】
一先ず、武力・俊敏・技術へと均等にポイントを振り分けよう。
「さぁて、一体どれだけのポイントが手に入るのか・・・・・」
空中で余裕の笑みを見せる俺へと、左右に位置する巨大な怪物による猛攻が振るわれる。
「遅い––––––––––––」
俺は怪物の攻撃をいなすと、そのまま怪物の肉体を構成している建物内を駆け抜け、幾度となく剣を振るう。
そのまま地上にまで駆け抜けた時には、怪物の体は頭部から崩壊し始めていた。
魔力が宿っているとはいえ、所詮は本体の意思で動かされている人形。
つまり、怪物を崩壊させてもポイントは得られないけど、崩壊に巻き込まれていくモンスターたちが次々とポイントへと還元されていく。
俺は、視線の先で何もできずにただ尻餅をついている大門を回収し、2体目の怪物撃破に急ぐ。
「情けないな」
「何だと?」
「普段はあんなに偉そうなクセに、いざとなったらお前はいつも臆病だ」
「今日初めて会った奴に、俺の何が分かんだよ!」
2体目の撃破完了。
巨大な2つの建物の崩壊により、辺り一帯が山で見る雪崩のような有様となっている。
これらの建物は、本体によって操られていたため、それ自体に意思はない。距離の離れている他の建物の怪物は、辺りに佇むのみでこっちに攻撃する素振りを見せてこないのがいい証拠。
だけど近づけば感知して襲いかかってくるはず。
遠慮なく、一滴残らずポイントを搾り取ってやる。
「おい。お前の剣をよこせ」
「はぁ? 何言ってんだテメェ」
「逃げることしか考えてないような奴に、剣を握る資格なんてないんだよ」
俺は、目の前で座り込む大門へと、この世で一番哀れな男へと見下した視線を向ける。
「弱者を犠牲にすることでしか生きていけない弱虫が・・・・・お前がこれまで犠牲にしてきた人たちは、お前なんかよりもよっぽど強い存在だ」
「はっ、何の役にも立たねぇ雑魚が、俺の役に立って死ねただけで光栄に思うべきだろうが! 誰が何と言おうと、俺は、俺のやり方でここまで上り詰めてきたんだ」
本当に––––––––––––救い用のない人だ。
「確かに、弱さは最大の弱点だ。だけど、弱いからこそ、自分の弱さを認めることができる。人一倍の強い覚悟を持つことができるんだ」
「分かんねぇな。テメェは強ぇだろうが・・・・・実際、お前にとっちゃ俺は弱者に見えてんだろ。その俺を蔑む目が、言ってることと矛盾してんだろうが!」
「はぁ––––––––––––」
俺はダメな人間だ。
頭では分かっていても、心がもう我慢できない。
俺は今から、人を一人殺す。
「––––––––––––『不良品』。その名前に心当たりがあるんじゃない?」
「ふりょ・・・・・何で今そんな話を持ち出すんだよ」
すぐに繋がるはずだ。
今さっきの俺の言葉と、『不良品』という言葉が、大門の中で一つの情景となって思い出される。
「誰だよ、テメェ・・・・・」
あの時のダンジョンに、俺のようなA級ハンターはいなかった。
けど、大門があの時取った行動を知っているのは、あの場にいた者だけ。
俺のような見た目をしているハンターを思い出せるはずがない。
記憶にないんだから。
「これは復讐だよ大門。あの時君が、俺に何をしたのか覚えているよね?」
「な、何言って・・・・・」
体感的には、大分長い間、俺と大門は向かい合っている。
だけど実際は、周囲に舞った瓦礫の埃すら消えていない些細な時間。
シャルマンさんたちの声すら聞こえてこない。
「君は、逃げるために俺を犠牲にした。だから俺と君とは全然違うよね」
分かっている。これはただの言い訳だ。
こんな姿を見たら、家族の誰も喜びはしない。
だけど、俺はどんなことをしてでも強くならなくちゃいけないんだ。過去を乗り越えるために、俺は大門を––––––––––––
「何する気だ・・・・・よせ、やめろ・・・・・やめろぉ!––––––––––––アァァァァ!!」
大門から剣を取り上げると、一瞬で四肢の筋肉を断ち切る。
「グフッ」
勢いよく胴体へと蹴りをお見舞いし、静かに佇んでいる怪物の下へと吹き飛ばす。
直後、建物内から大量のモンスターの群れが湧き出ると、そのまま身動きの取れない大門へと襲いかかる。
四肢をもがれ、悲鳴を上げる。
「ダンジョンでは、ハンターの死はつきものだ」
大門の心からの悲鳴は、俺の容赦ない剣戟に侵された建物の崩壊によって掻き消された。
「人一人手にかけたのに、罪悪感一つ感じない・・・・・」
人は誰しも、力を手にしてしまえば変わらずにはいられない真実を、俺は今日、身をもって知ることになった。
<内なる憎悪の変化を確認––––––––––––渾身の芽吹きに伴い––––––スキル『メテオの子』を獲得>




