13話 『国会議事堂』ダンジョン(3)
ダンジョン内からは結界の存在が確認できなくなり、日が差しているのかと勘違いしてしまうほど明るい。建物の影ができていることから、まんま太陽の影響を受けているんだろう。
感想としては、廃墟の一言。
そこら中に建物の瓦礫があり、これまでの戦いの様子が鮮明に刻まれている。
だけど、何かがおかしい。
ダンジョンに入ってから、まだ一度もモンスターを見ていない。
『国会議事堂』ダンジョンは、黒い半球体に覆われている部分全てがダンジョンであると事前説明にもあった。
モンスターたちは、ダンジョン内に充満する魔力の影響を受けて発生しているため、一体たりともモンスターを見ないなんてことはあり得ない。
唯一あり得るなら、建物自体がダンジョン化してしまっている場合。
どうやら、この場にいるハンターのほとんどが現状に違和感を感じている様子。
「あ、あの・・・・・さっきはありがとうございました」
「いや、当然のことをしただけだよ。それにしても、A級ダンジョンとはいえ、よく荷物持ちに志願したね」
俺たち西側チームに同行するのは、10人の荷物持ち。
中には現役のハンターもいるだろうけど、当然E級以下の人たちも混ざっている。
今回のダンジョンは、A級の中でもかなり高い難易度なため、相当なリスクが付きまとう。
「僕たちはみんなE級なので、こうやって荷物を持つことでしか役に立てないですから。まともに戦えなくても、せめて最後はハンターとして終わりたいんんです」
ほとんどが同じ気持ちなのか、10人ともが覚悟を決めた目をしている。
俺もついこの間まで荷物持ちだったけど、自分のことで精一杯で、周りのことを見る余裕がなかった。彼らにも、誇りがあることを初めて知った。
「A級ハンターが僕らのような荷物持ちを気にかけてくれたことは、心から感謝しています。他の人は、見て見ぬフリもしないどころか、僕たちのことを人として見てくれてないですから」
大門の態度が特別にひどいということはあるけど、荷物持ちに対する扱いが全体的に良くないのは事実だ。
今回のダンジョンは、B級ハンター以上しか受けられないものにも関わらず、荷物持ちに関しては、その規定を設けていない。更にどの依頼も同様なこととして、ダンジョン内で起きた全ての責任は、本人が負うこととされている。
まぁ、荷物持ちは『ギルド』に所属していない人がほとんどなこともあって、仕方のないことではある。
「危ないと思ったら、荷物なんか置いてすぐに逃げるんだ。ハンターは戦いに精一杯で、君達のことにまで意識が回らないし、中には、他人を平気で犠牲にできる奴もいるんだ。だから、自分を第一に全力で逃げるんだ」
「わ、分かりました」
「気を引き締めろ! おそらくここから先は、かなりのモンスターが待ち構えているはずだ」
先頭にいるシャルマンさんの声が後方にまで響く。
気が付くと、国会議事堂の手前にある議員会館が目と鼻の先にまで差し掛かっていた。
俺はここでまたしても違和感を覚える。
先ほどまでは廃墟同然だった場所が、国会議事堂周辺のみが洗練されている。
不安は徐々に濃くなるとともに横断歩道を渡り終えた瞬間––––––––––––
左右に存在する建物の窓ガラスが勢いよく全て割れ、天から数え切れないほどのモンスターたちが降ってきた。
直後に蔓延するハンターたちの動揺。
幸い後退すればモンスターによる挟み撃ちは避けられる状況で、俺は一人飛び出す。
「ちょっと流星!」
「天音さんはみんなといて––––––––––––」
俺は、渋谷に行った時に買っておいた一振りのなんてことない剣を抜刀する。
「おい––––––––––––」
シャルマンさんのことも気に留めず、集団から離脱。
そのまま建物の側面を駆け上がり、宙に舞う多種多様なモンスターの群れをことごとく切り裂いていく。
側面を蹴り、反対側の建物の側面へ。
そうして俺は、一切地に足をつけることなく、多くのモンスターをものの数秒で葬ってみせる。
地上に降り立ち振り返ると、シャルマンさんたちA級ハンター含めた多くのハンターたちが、ポカーンと気の抜けた表情を浮かべていた。
「フッ」
目立つ羽目にはなちゃったけど、かなりいい気分だ。
だけど、気を抜いたのも束の間、瞬く間に周囲の建物は原型を変えていき、最終的には巨大なコンクリート人形が誕生した。
正しく、「怪物」。
遠方にも似たような存在が出現している様子。確認できるだけで、大小合わせて10体以上。
一度他のハンターたちのところに下がる。
「シャルマンさん、これは一体どういうことだと思いますか?」
「おそらくは、千葉の未登録ダンジョンと似たような現象が起きているだろう。すでにこのダンジョンの難易度は、兵魔以上と見ていい」
つまり、ボスモンスターが存在しているということ。
「『国会議事堂』のダンジョンがダンジョンバーストを引き起こしたという話は聞いたことがなかった。だが、考えるまでもなくおかしな話だ」
何度も挑まれたとは言え、その全てが失敗に終わっている。それなら、許容量を超えたモンスターはどこへ消えているのか・・・・・。
「まさか・・・・・そのせいでボスモンスターが誕生したってことですか」
「事例はないが、間違いないはずだ。そして、肝心のボスモンスターは、『国会議事堂』本体––––––––––––」
次の瞬間、遠方の空へと無数の岩のような塊が出現し、地上へと落とされる。
「クッ」
100〜200メートルほど離れていても轟くとてつもない衝撃。
「予想的中だな」
「そうみたいですね」
ここにいる誰も、建物内にこれほどのモンスターが潜んでいる事実を感じ取れなかった。
更に、議員会館ら大きな建物が怪物と化したそれからは、そこまでの魔力は感じられない。
「多分ですけど、ボスモンスターは自身の縄張りへとモンスターたちを誘き寄せ、建物内に捕えたモンスターを養分にしていたんじゃ・・・・・」
「おまけにあいつは、俺たちには不可能な魔力を隠す術が相当に上手いみたいだ」
この仮説が合ってるなら、あの建物の怪物は、ただデカイだけの塊ってことになる。
てことは、国会議事堂自体を叩けばダンジョンは止められる。
そして当然、ただのモンスターよりもボスモンスターの方が大きいポイントが手に入る。
「シャルマンさん。ここの指揮はお願いできますか? 俺の予想が当たっていれば、相当数の人たちがよくないことを考えている」
特に大門。
今のあいつの様子は、俺を置き去りにしたあの時にそっくりだ。下手な笑みを浮かべ、周囲をキョロキョロしている。
「戦う意思を諦め、誰かを犠牲にしようと考えてるかもしれないってことです」
「そんなことを・・・・・俺たちは仲間だ。本気で––––––––––––」
俺の揺るぎない眼差しを前に、シャルマンさんは言葉を詰まらせる。
無理もない。俺も、いくら大門だとしてもあんな行動を取るなんて思ってもなかった。
だけど、現実は想像以上に残酷なもの。
「俺は忠告しましたからね」
そう言い残し、荷物持ちのところにいた天音さんの下に。
「すぐに、彼らを連れてここから出るんだ」
彼らとは、荷物持ちのこと。
「モンスターだけじゃない。今この状況下、ハンターたちも敵だと思え。生きることを優先しろ。ハンターとして終わりたいんだとしたら、無駄死にだけはするな」
偉そうなこと言ってるけど、俺は運良くこの力に恵まれただけ。
だけど誰にだって大切な人は存在するし、いなくなってしまえば、生きていくことが辛くなる。
「あんたはどうするの?」
「残るよ。俺はもっと強くならなくちゃいけないから」
「分かった。でも、絶対生きて戻ってきて」
「––––––約束するよ」
俺が彼女に死なないで欲しいと思っているのと同じく、俺の生を望んでくれている事実が素直に嬉しく思う。
だからこそ、不穏な存在をこの場に残しておくわけにはいかない。




