102話 呼応
宙を広大に彩る虹色の輝き。
その光景を目前に、空魔は頬を引き攣らせていた。
「心配は杞憂だったみたいだね・・・全く君には敵う気がしないよ」
空魔は剣王のことを尊敬しているが、下ではなく、隣で肩を並べられる存在になりたいと常々思っていた。
しかし、舞王景という男を知れば知るほどに自分との距離が開いていく感覚に襲われ、いつしかその望みは幻と化していたのだ。
そして今抱く感情は悔しさや切なさといったマイナスの感情は一切なく、ただただ剣王という存在が誇らしく思えていた。
やはり最強は剣王であるのだと。
「美しいですね」
いつの間にかそこにいた黒陽も剣王の戦いぶりに心を奪われてしまっており、絆されたかのようなとろけた表情を浮かべている。
命もまた、意識を奪われてしまっていた。
しかしそれは、空魔や黒陽とは違った感情で––––––
命はこれまで幾度となく代替わりする剣王を目にしてきた。
その度に強さを増していく様に多少の恐怖を感じていたのだが、現代の剣王はこれまでの剣王たちとは強さの格が違った。
理由は、明白––––––ジョブの存在が多大なる影響を及ぼしているのだ。
ジョブなどなくともS級ハンター以上の力を有している剣王が、チートジョブを2つも獲得しているのだ。
世界最強と言っても過言ではない。
しかしそれでも、言い伝えられてきた剣聖の伝承は、剣王の強さが霞んでしまうほど俄かには信じ難いものばかりだった。
故に、現代における剣聖の物語は、一つのフィクションとして扱われている。
凪星とともに過ごした過去を持つ命だからこそ、その話に嘘偽りが存在しないと信じることができていた。
だからこそ、現代剣王では暴走状態の凪星に及ばないことを即座に見抜いていたのだが、現実は剣王による一方的な蹂躙。
凪星をどうにかして止めたい気持ちを抱きながらも、愛した・・・・・いや、今も尚愛している者のやられる姿を目の当たりにすると、心が悲鳴を上げる。
「凪星・・・・・凪星!」
命の声など、今の距離的にも届くはずがない。
しかし、まるで命の叫びに呼応するかのように虹色の景色は弾け飛び、辺り一帯が爆風に晒される。
「ウッ」
「マジか!」
「景様––––––ッ!?」
爆風が止み、3者の視線の先には平然と立ち尽くす白き存在の姿が。
力尽き、意識を失い倒れそうになった剣王を、黒陽がギリギリのところで支える。
一方の流星は、剣王がやっとの思いで負わせた傷を一瞬で再生し、体力も魔力も回復済み。
「・・・どこまでも出鱈目な奴だ」
「景様、今は話されないほうが––––––––––––」
「命・・・悪いが、後は頼めるか?」
「端からそのつもりじゃ––––––––––––ここからは妾たちの時間。何人も立ち入ることは許さない」
命は一生の内では決して身につかない威厳と風格を醸し出し、流星の下へ近づいていく。
何かを感じ取っているのか、命の歩みに呼応して宙から舞い降りる流星。
そうして2人の視線が重なった。
「––––––久しいな」
返ってくるのは沈黙。
「其方は昔、大切な者を失う辛さが分からないと言っていたが、妾の存在が其方の大切になれていたことを心から嬉しく思う」
しかし、命の表情は悲しさを表すもの。
「けれど、其方の苦しむ姿は望まぬ––––––転生し、姿は変わってしまったが、妾は今でも其方のことが愛おしくてたまらないのだ」
笑みが浮かべられた瞬間、涙が頬を滴る。
「妾はここにおるぞ・・・・・・其方とまた、会える日が来るとはな」
命の細く、白い腕がゆっくりと流星の顔へと伸ばされていく。
しかし流星は動かない。
「––––––愛している」
そして命のプルンとした桜色の唇が、そっと流星の唇に触れた直後、脳天から本来の姿を取り戻していく。
その変化を間近で見ていた命の瞳は大きく開かれていく。
「––––––––––––流星!?」
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