99話 ヴァンパイア
剣王は思考する。
どうすれば流星の暴走を止められるのか。
その鍵となるのは、記憶の中で暴走に至るにあたった存在。
「確証はないが、賭けるだけの勝算はありそうだ」
しかし問題は、【剣王】に宿る記憶を探る余裕すらこのままでは取れないこと。
「もうお出ましか」
黒陽を最も容易く攻略した流星が雪山の大地に佇む剣王の頭上へと姿を見せる。
「黒陽」
名を呼んで間もなく、先ほど流星によって瀕死にまで追い込まれたはずの黒陽が笑みを浮かべて姿を見せる。
「血は足りてるか?」
「はい。問題ございません」
黒陽のジョブは『ヴァンパイア』。
人間に限らず、生命の血液をその身に取り込むことで自らの命へと変換し、膨大な力と超速の回復力を得る。
貧血になれば人よりもパワーも回復力も劣ってしまい、間もなく寿命を迎えてしまう。
そして、人間の血液が最も循環効率がよく、何と言っても美味なのだそうだ。
黒陽は自らの口元へと差し出された剣王の右腕に喉を鳴らし、頬を熱らせる。
「こ、これは・・・」
「補充しておけ」
「・・・よろしいのですか?」
ここでやっぱりダメだと言われても、もう止められないほどの興奮度合いに達してしまっている。
「構わん」
「で、では––––––カプッ」
鋭い八重歯を逞しい剣王の筋肉に突き立て、極上のひと時を味わう。
脳に電流が走り、剣王への愛おしさで心臓が締め付けられる。
「はぁあああ・・・・・幸せでございますぅ」
「1分の間、あいつを抑えられるか?」
「1分ですか・・・」
貧血にならない間、黒陽の肉体は実質不死身とは言え、一撃のダメージを考えると正直生き残れる保証はない。
「お任せを」
しかし黒陽はなんてことない頼みを引き受けるかのような笑みを剣王へと向けて見せる。
「頼りにしてる」
そのたった一言だけで十分であった。
それだけでどんな苦痛にも耐えられる自信が、力が漲って来る。
黒陽は再び剣王から授かりし「魔剣黒爪」を両手に出現させ、流星の意識を自身へと誘導する。
油断は一切ない。
だというのに––––––
「カハッ」
背後からの一撃で体が真っ二つに裂かれる。
激痛––––––しかし、これくらいの痛みならば、これまで何度も味わってきた––––––
黒陽の体は瞬く間に微塵切りにされては再生し、再び悉く刻まれていく。
最早悲鳴が追いつく暇もなく、黒陽は地獄の一分間を送る。
細々と散った肉片が宙を舞い、何度目か完全再生を終えて目覚めると、視界には剣王の姿が。
「あ・・・あぁ、私は・・・やり遂げたのですね」
「よくやった」
そう言って大量の血液が黒陽に浴びせられると、先ほどの瀕死状態が嘘のように完全復活した。
「景様・・・これほどの血を私などに与えてしまい、問題はありませんか?」
「お前はそれほどの働きをしてくれた」
感極まる褒め言葉。
しかし、いつまでも興奮に足を掬われてなどいられない。
「それで、何かお考えが・・・?」
「ああ。正直これも賭けだが、命が鍵になるはずだ」
「・・・彼女に彼を止めるほどの力があるようには思えませんが」
「物理的な力の問題じゃない。あいつにとって命は、特別な存在だ」
「承知いたしました。それでは、彼女を早急にお連れ致します」
「ああ。俺はこれから結界の外に出て流星を相手する」
「ご武運を––––––––––––」
そう言い残し、黒陽は命の下へと急ぐ。
残った剣王は、『神格者』としての力を完全解放し、天に浮かぶ流星と向かい合うのだった。
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