第97話:【97日目】創造性の解放と、20パーセント・ルール
デリバリー網の構築により、村はかつてないほどの業務効率を叩き出していた。
しかし、97日目の朝。俺は最高技術責任者のクロエと、建築リーダーのガルドの様子が少しおかしいことに気づいた。
「……はぁ。スプリンクラーの定期メンテナンス完了。次は地熱パイプの魔力値チェックかぁ……」
「おう。俺様も、社宅の追加分の屋根の点検だ。……まあ、大事な仕事なんだがな」
二人の顔から、いつものような「モノづくり」に対するワクワク感が失われていた。
村のインフラが充実しすぎた結果、彼らの仕事が「新しいものの開発」から「既存システムの保守・点検」へとスライドしてしまったのだ。
「優秀なクリエイターに保守作業ばかりさせると、創造性が死んでしまう(退屈でモチベーションが低下する)。前世のIT企業でもよくある問題だ」
俺は日めくりカレンダーの「残り269日」の紙をめくった。
現れたのは、あらゆる工具と未知の鉱石が詰まった、夢のような工房のセットだった。
『SSRアイテム【ひらめきの魔導工房&無限の試作素材】を獲得しました』
『※ここでは失敗やコストを一切気にせず、思いついたアイデアを即座に形にできる魔法の工房です。脳波を刺激し、インスピレーションを極限まで高めます』
「よし! 今日からうちの村に『20パーセント・ルール』を導入する!」
俺はガルドやクロエ、そして開発に興味がある村人たちを新しい工房に集めた。
「20パーセント・ルール?」
「ああ。業務時間の20パーセント(週に1日分)は、村の保守や定常業務を完全に忘れ、自分の好きな研究や、面白そうなモノづくりに没頭していいというルールだ」
前世の世界的IT企業が採用していた、イノベーションを生み出すための有名な制度だ。
「この工房の素材は使い放題だ。失敗してもいい、ふざけたものでもいい。君たちの『作りたい』という情熱を開放してくれ!」
「えっ!? ほ、本当に何を作ってもいいのかい!? 予算も気にせずに!?」
「ガハハハ! 血が騒いできやがったぜ! 俺様、実は前から作ってみたかったモンがあるんだ!」
ルーティンワークから解放された二人の目に、凄まじい光が戻った。
その日の夕方。工房から飛び出してきたクロエとガルドは、車輪のないスノーボードのような板に乗って、雪原を地上数十センチの高さで滑空していた。
「ひゃっはー! 『魔力浮遊ボード』の完成だよ! 底面に熱線も張ってるから、雪を溶かしながらどこでも走れるんだ!」
「おう! 俺様の打った超軽量合金と、クロエの魔力回路の合作だぜ!」
遊び心100%で作られたその移動ツールに、村の若手たち(獣人やアーサー)が目を輝かせて群がっていく。
「イノベーションは、心と時間の『余白』から生まれる」
俺は楽しそうに笑う彼らを見ながら、組織の成長には「遊び」が不可欠であることを再確認した。
(残り268日。明日は何が出る?)




