第93話:【93日目】ブラック国家の監査官と、コンプライアンス結界
村が平穏な冬を過ごしている中、遥か南の「ブラック国家」では、勇者一行の失踪と、北の異常な魔力反応(村のインフラ)に焦りを募らせていた。
93日目の昼下がり。
村の結界の外に、王国の紋章を掲げた馬車が到着した。
中から降りてきたのは、高飛車な態度をした王国の「特別監査官」と、数人の護衛騎士だった。
「チッ、こんな辺境の荒野に、本当に村などあるのか? どうせ野蛮な難民の集まりだろう。適当にいちゃもんをつけて、莫大な税をむしり取ってやる」
彼らは結界の入り口で、対応に出た俺と最高情報責任者のシオンをねちっこく見下ろした。
「貴様がこの村の長か? 我々は王国の監査官だ。この土地に無断で定住し、得体の知れない魔法を使っていることについて、厳しく『監査』させてもらう。隠し立てすれば、国家反逆罪だぞ!」
典型的な「権力を笠に着た嫌がらせ」である。
前世でも、こういう理不尽な監査や査察には散々悩まされたものだ。
だが、ここは俺のホワイト村である。
「監査なら大歓迎だ。どうぞ、中へ」
俺は今朝「残り273日」の紙から引いたばかりのアイテムを、村役場の応接室にセットして彼らを招き入れた。
『SSRアイテム【真実の魔導監査ルーム&絶対順法結界】を獲得しました』
『※この部屋に入った者は、あらゆる不正や嘘がつけなくなり、自身の属する組織の「法規違反」や「労働基準違反」を自動的に告白してしまう究極の自浄空間です』
監査官が応接室のふかふかのソファに偉そうにふんぞり返った瞬間。
部屋の魔導ランプが淡く光り、彼を【絶対順法結界】が包み込んだ。
「さあ、まずは貴様らの帳簿から調べさせて……調べ……あ、あれ?」
監査官の顔が、急に青ざめ始めた。彼の口が、自分の意思とは無関係に勝手に動き出す。
「あ、あああっ! 申し訳ありません! 実は私、今回の出張費を二倍に水増し請求して、浮いたお金で愛人にプレゼントを買いましたぁぁっ!」
「は? 監査官殿、何を言っているのですか!?」
護衛騎士が驚くが、彼らの口も止まらない。
「お、俺もです! 先月の残業代が未払いのまま誤魔化されているのに、上官が怖くて黙認していました! 王国の騎士団は、違法なサービス残業の温床ですぅぅっ!」
部屋の中で、ブラック国家の役人たちが次々と「自国の不正」と「労働基準法違反」を号泣しながら暴露し始めた。
圧倒的な透明性と法令順守の魔力の前では、少しでもブラックな要素を持つ者は、己の罪悪感と組織の闇に耐えきれなくなるのだ。
「……というわけで、うちは帳簿も就業規則も完璧にクリーンだ。監査は以上でいいかな?」
「ひぃぃぃっ! 許してください! この村は、私のような汚れた人間が立ち入っていい場所ではありませんでしたぁぁっ!」
監査官たちは這うようにして馬車に逃げ帰り、二度と北の荒野に近づこうとはしなかった。
悪質なクレーマーや理不尽な査察は、絶対的な透明性によって跳ね返すに限る。
(残り272日。明日は何が出る?)




