第89話:【89日目】冬の精密健康診断と、全自動人間ドック《メディカルスキャナー》
勇者アーサーが正式に社員となり、遊園地での休日を終えて新たな一週間が始まった。
だが、500人という規模の人材を抱えるPMとして、俺には一つ気になっていることがあった。
「みんな楽しそうに働いているが……魔王軍やブラック国家で長年酷使されてきた連中だ。蓄積された『見えないガタ(負債)』があるはずだ」
以前、簡単なヘルスチェッカーは導入したが、あれは日々の疲労度を測る簡易的なものだ。
骨格の歪み、慢性的な内臓疲労、古い古傷の後遺症など、長年の過酷な労働環境がもたらした「隠れた疾患」は、ある日突然爆発して深刻な労災を引き起こす。
予防医療の徹底こそが、企業にとって最も費用対効果の高い投資なのだ。
「よし、今日は全社員を対象にした『精密健康診断イベント』だ」
89日目の朝。俺は「残り277日」のカレンダーをめくった。
光の粒子が収束し、村役場の隣に清潔感あふれる白い医療施設が展開された。
『SSRアイテム【全自動魔導人間ドック&万能治療カプセル】を獲得しました』
『※対象者の細胞レベルから魔力回路までを数秒で完全スキャンし、隠れた疾患を特定。付属の治療カプセルに入れば、どんな慢性疲労や古傷も数分で完治させます』
「完璧だ! これぞ究極の産業医システム!」
俺は統合基幹業務システムを通じて全社員に通知を出し、部門ごとに順番に人間ドックを受診させた。
「ええっ、治療カプセルですか? 俺は魔王軍にいた頃から、何百年もこの『腰痛』と付き合ってきたんです。安物の重い鎧をずっと着せられていたせいで、もう治らないと諦めて――」
そうボヤいていた中年のオーク兵士が、半信半疑で青い光に満ちた【万能治療カプセル】の中に入った。
カプセルが閉まり、ウィィィンという静かな稼働音が数分鳴り響く。
プシュッ、と扉が開いて出てきたオークは、自分の腰をトントンと叩き、そして目を見開いた。
「……い、痛くねえ! 屈んでも、重い石を持っても、全く腰に痛みが走らねえぞ!」
「すごい! アタシも、昔魔物に噛まれた足の古傷の痺れが、綺麗さっぱり消えましたぁ!」
ルナや獣人たちも、自分の体が生まれ変わったように軽くなったと大はしゃぎしている。
「これだよ。どれだけ美味しいご飯や温泉があっても、根深い体の痛みが残っていれば、100%のパフォーマンスは出せないからな」
カプセルから出てきた社員たちは、感極まって俺の手を握りしめ、ボロボロと泣き出した。
「村長……! 俺たちみたいな下っ端の、体の痛みにまで気を配ってくれるなんて……! 俺、この村のためなら何日徹夜しても――」
「徹夜は禁止だ。健康になった体で、定時の中で最高の成果を出してくれ」
健康への投資は、社員の忠誠心を限界突破させる。
隠れた疾患をすべて取り除いた五百人の社員たちは、真の意味で「最高のコンディション」を手に入れたのだった。
(残り276日。明日は何が出る?)




