第88話:【88日目】魔導テーマパーク《遊園地》の熱狂と、勇者の決意
88日目、待ちに待った休日。
俺は朝のルーティンで「残り278日」のカレンダーをめくり、『SSRアイテム【無限ポップコーンワゴン】』をエントランスに設置した。チュロスも同時に無限生成される特別仕様だ。
甘いキャラメルの匂いが漂う中、五百人の村人たちがゲートをくぐり、夢の国へと雪崩れ込んでいった。
「きゃあああああっ!!」
「ガハハハハッ! 最高だぜぇぇぇっ!!」
上空を凄まじいスピードで駆け抜ける絶叫マシン。
その最前列に並んで座っていたのは、なんと最高防衛責任者である元・魔王軍四天王のザンギュラと、有給消化中の勇者アーサーだった。
「どうだ勇者の坊主! この落ちる時の内臓が浮く感覚! 魔物の背中に乗って空を飛ぶよりスリルがあるぜ!」
「はははっ! 風が気持ちいい! ザンギュラさん、もう一回乗りましょう!」
かつては世界を賭けて殺し合うはずだった二人が、ポップコーンを片手に絶叫マシンをリピートしている。
ルナたち獣人は回転木馬のような動物型のアトラクションに乗り、シオンやカーミラたち最高情報責任者&監査役の元・暗殺者コンビは、お化け屋敷の中で「あのトラップの配置は甘い」とプロ目線でダメ出しをしていた。
夕方。
遊び疲れた俺は、村の景色を一望できる巨大な観覧車に乗って一息ついていた。
向かいの席には、勇者アーサーが座っている。彼の顔は、この村に遭難してきた時の「死んだ魚のような目」から一変し、年相応の明るく精悍な青年の顔に戻っていた。
「タクト村長。今日は本当に最高の休日でした。……俺、こんな風に腹の底から笑ったのは、勇者に選ばれてから初めてです」
「それは良かった。有給消化は順調みたいだな」
「はい。王国にいた頃は、毎日『お前が世界を救うのだ』『遊んでいる暇などない』とプレッシャーをかけられ、誰かのために剣を振るうのが苦痛で仕方ありませんでした」
アーサーは、眼下に広がる夕日に照らされたテーマパークと、笑顔で歩く住人たちの姿を見つめた。
「『世界を救え』という曖昧な言葉じゃ、俺は頑張れなかった。でも……今、この場所で笑っているザンギュラさんや、エルフや獣人たちの『具体的な笑顔』を見ていると、俺の心の底から、熱いものが湧き上がってくるんです」
アーサーは、腰に帯びた伝説の聖剣をポンと叩いた。
「タクト村長。俺の有給休暇は今日で終わりにします。明日から、俺をこの村の防衛部隊の正式メンバーとして雇ってください。俺は魔王を倒すためじゃなく、この村の皆の『笑顔と休日』を守るために、剣を振るいます」
強迫観念(やりがい搾取)から解放され、自分自身の明確な意志で働く目的を見つけた男の顔だ。
これほど頼もしい人材はいない。
「歓迎するよ、アーサー。明日からよろしく頼む」
「はい! とりあえず、明日はこの聖剣を使って、食堂の薪割りを全力で手伝わせてもらいます!」
伝説の聖剣を薪割りに使うのはどうかと思うが、彼がそれで幸せなら文句はない。
最強の勇者が正式に村の社員となり、ホワイト村の防衛力はもはや神の領域へと到達した。
(残り277日。明日は何が出る?)




