第90話:【90日目】冬の寒波と、常夏の温水プール《スパ・リゾート》
精密健康診断から一夜明けた、90日目の朝。
窓の外を見ると、荒野はかつてないほどの猛吹雪に見舞われていた。
気温は氷点下を大きく下回り、いくら防寒着や床暖房が完備されているとはいえ、外での作業や移動すら億劫になるほどの絶対的な「冬の底」だった。
「……タクト様。今日の農業部門の外作業は、安全を考慮してすべて中止にしました。温室ドームの中だけの作業に切り替えます」
最高財務責任者のグレイシアが、コタツに入ってミカンを剥きながらスマート端末で報告してくる。
「賢明な判断だ。だが、外がずっと暗くて寒いと、どうしても気分が塞ぎがちになるな」
日照時間の減少と寒さは、人間のメンタルに直接的なダメージを与える(冬季うつ)。
俺は日めくりカレンダーの前に立ち、「残り276日」の紙をめくった。
気分が塞ぐ冬の真ん中なら、あえて「真逆の環境」を提供するのが最高のサプライズだ。
『SSRアイテム【全天候魔導温水プールドーム&無限熱帯果実ジュース】を獲得しました』
『※巨大な透明ドームの中に、気温30度の常夏ビーチと波の出る温水プールを展開します。天候を完全に遮断し、真冬でも完璧なサマーバケーションを提供します』
「よし! 夏に作った屋外プール(28日目)の完全上位互換だ!」
俺はタワマンの隣の広大なスペースにこのドームを展開し、全社員に「水着を持参してドームに集合」と通知を出した。
「さ、寒いよぅ……こんな吹雪の日に水着なんて……」
ガタガタと震えながらドームの入り口をくぐったルナたち獣人だったが、一歩中に足を踏み入れた瞬間、その言葉は歓声に変わった。
「あったかぁぁぁいっ!!」
「うおおおっ! なんだここは! 外は猛吹雪なのに、中はポカポカの夏じゃねえか!」
ドームの内部は、眩しい人工太陽の光に照らされた白い砂浜と、エメラルドグリーンの温水プールが広がっていた。
寒さで縮こまっていた五百人の社員たちは、歓声を上げて一斉に温かい水の中へと飛び込んでいく。
「タクト様! 冷たいジュースをお持ちしました!」
ハイビスカスの髪飾りをつけた水着姿のシルフィが、カラフルな無限熱帯果実ジュースを二つ持って駆け寄ってきた。
「ありがとう、シルフィ。……うん、美味い。冬の真ん中に南国気分とは、最高の贅沢だな」
俺はビーチチェアに寝転がり、ジュースのストローを咥えながら、はしゃぐ村人たちを眺めた。
アーサーがウォータースライダーを滑り降り、ザンギュラとガルドがビーチバレーで熱い戦いを繰り広げ、グレイシアまでもが浮き輪につかまってプカプカと浮いている。
俺がこの異世界で日めくりカレンダーをめくり始めてから、今日でちょうど90日目。
最初の頃の孤独な開拓から、今や五百人を抱える巨大なホワイト企業へと成長した。
魔王の復活まで、まだ時間はある。
この最高の仲間たちがいれば、どんな困難も「極上のレクリエーション」に変えていけるだろう。
(残り275日。明日は何が出る?)
【キャラクター紹介(90日目時点)】
タクト
元PMの村長。500人規模の組織をスマート端末と究極の福利厚生で完璧に管理する。最近は冬の寒さを忘れる常夏リゾートを満喫中。
シルフィ
エルフの秘書。タクトの隣で水着姿ではしゃぐのが最近のブーム。
アーサー(New)
元・勇者。王国のプレッシャーから解放され、「村の笑顔を守る」ために正式に村の防衛部隊に就職。聖剣をアトラクションのギミックや薪割りにフル活用している。
ルナ
狼獣人の警備リーダー。人間ドックで古傷が治り、身体能力がさらに向上した。
ガルド
ドワーフの建築リーダー。遊園地のジェットコースターの構造に感銘を受け、新しい建築のアイデアを練っている。
セシル
総料理長。500人分の食事を無限生成ツールで楽々こなしつつ、新メニュー開発に余念がない。
ザンギュラ
最高防衛責任者。アーサーとジェットコースターで絶叫し、すっかり丸いおじさんになっている。
グレイシア
最高財務責任者。コタツの次は「常夏プールでの浮き輪生活」の魅力に取り憑かれつつある。
ネクロディア
最高デジタル責任者。VR訓練などのシステム管理を担当し、ホワイトな開発環境に涙している。
カーミラ
監査役。お化け屋敷のトラップにプロ目線でダメ出しをする元・暗殺者。




