第84話:【84日目】多様性(ダイバーシティ)の推進と、大食堂の拡張
垂直植物工場が稼働し、新鮮な食材が山のように確保できるようになった。
しかし、五百人という規模になると、また別の「食の課題」が浮上してくる。
「……村長。オークたちは『もっと肉が食いたい』と言い、エルフの新人たちは『野菜だけのさっぱりしたものがいい』と言い、ドワーフたちは『酒に合う濃い味のツマミが欲しい』と言い出しています……」
84日目の朝。総料理長のセシルが、少し疲れた顔で村役場に相談にやってきた。
これまでは「美味しい豚汁」や「特製カレー」の一点突破で全員が満足していたが、種族が入り乱れて多様化が進むと、個人の味覚の好み(ニーズ)が細分化してくるのだ。
だからといって、セシル一人に何十種類もの別メニューを作らせるのは、過重労働に直結してしまう。
「多様な食文化を尊重しつつ、セシルの負担を減らす(自動化する)ソリューションが必要だな」
俺は「残り282日」の紙をめくった。
現れたのは、いくつもの店舗が立ち並ぶ巨大な屋内の模型だった。
『SSRアイテム【全自動・魔導マルチプル大食堂&各国料理フードコート】を獲得しました』
『※中華、和食、イタリアン、ジャンクフード、焼肉など、数十種類の専門料理を自動で調理・提供する巨大な飲食エリアです。食の多様性を完全に満たします』
「キタ! これぞ大型ショッピングモールの要、フードコート!」
俺は即座に、従来の食堂を大幅に拡張し、このキットを展開させた。
昼の休憩時間。チャイムと共に食堂にやってきた村人たちは、目の前に広がる信じられない光景に言葉を失った。
広大なフロアの周囲には、「熱々鉄板ハンバーグ」「魔導オーブンピザ」「激辛麻婆豆腐」「本格江戸前寿司」「無限焼肉バイキング」など、色とりどりの看板を掲げた自動店舗がズラリと並んでいる。
「うおおおおっ! なんだこの肉の焼ける暴力的な匂いは!」
「あっちには、新鮮な魚の切り身が乗った不思議な米の料理があるぞ!」
「アタシ、この『ぱふぇ』ってヤツを全部食べたいですぅ!」
魔物や獣人たちは歓声を上げ、各自が持っている社員証(魔石)をかざして、自分の好きな料理を自由に受け取っていく。
中央の巨大なテーブルエリアでは、信じられない光景が広がっていた。
「おいオークの兄ちゃん、そのカルビ、焦げてるぞ。焼肉ってのはな、ひっくり返すタイミングが命なんだ」
「フゴッ! 勇者の旦那、すまねえ! 焼き加減が難しいんだな!」
なんと、有給休暇中の勇者アーサーが、かつては死闘を繰り広げたはずのオーク兵士たちと一緒に網を囲み、和気藹々と焼肉をつついているのだ。勇者は完全にただの「焼肉奉行の俗物」と化している。
隣のテーブルでは、四天王グレイシアと暗殺鬼カーミラが、二人で優雅に「アフタヌーンティーセット」をつまみながら女子会を開いていた。
「……タクト様。食の多様性は、種族の壁をいとも簡単に破壊してしまうのですね」
シルフィが、山盛りのパンケーキを頬張りながら感心したように言う。
「ああ。同じ空間で、それぞれの好きなものを食べて笑い合う。これこそが、真のインクルージョン(包括的な受容)だからな」
セシルはというと、「総料理長」から「フードプロデューサー」へと役職が上がり、各店舗の味の調整(魔法のスパイス投入など)を指示する管理側に回ることで、肉体的な負担は劇的に減ったようだ。
ホワイト村の食文化は、この日を境に宇宙的な広がりを見せることになった。
(残り281日。明日は何が出る?)




