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第85話:【85日目】組織の巨大化と、魔導ERP(統合基幹業務システム)

 人口が五百人を超え、社宅、工場、フードコートが稼働する「巨大な都市」へと進化したホワイト村。

 しかし、85日目の朝。村役場(PMO)のホログラム円卓には、かつてないほどの大量の「書類(羊皮紙)」が山積みになっていた。


「……タクト村長。いくら自動書記の羽根ペンがあるとはいえ、五百人分の『シフト管理』『勤怠管理』『給与ボーナス計算』『資材の在庫管理』を、このホワイトボードと紙だけで管理するのは、もはや不可能です」


 CFO(最高財務責任者)のグレイシアが、目の下に薄くクマを作りながらため息をついた。

 CDO(最高デジタル責任者)のネクロディアも、カタカタと顎の骨を鳴らす。

「情報のサイロ化(分断)が起きておる。農業部の収穫データと、食堂の消費データがリアルタイムで連動していない。このままでは、ヒューマンエラーによる発注ミス(ロス)が必ず発生するぞ」


 彼らの指摘は、現代企業が必ずぶつかる「500人の壁(組織規模の限界)」そのものだった。

 アナログな管理手法では、もはやこの巨大な村を回しきれない。村のあらゆる情報を一元管理する「基幹システム」が必要なフェーズに突入したのだ。


「デジタル・トランスフォーメーション(DX)の完全なる実行だな」


 俺は「残り281日」の紙をめくった。

 光の粒子が収束し、現れたのは、手のひらサイズの薄くて黒い「板」が何百枚も詰まったコンテナと、巨大な漆黒のサーバーラックだった。


『SSRアイテム【全自動・魔導ERPシステム(統合基幹業務システム)&スマート端末】を獲得しました』

『※村のあらゆるデータ(人事、財務、在庫、生産)をリアルタイムでクラウド(魔力空間)に統合・分析する最強の管理システムです。全住人に配布されるスマート端末(スマホ)で、あらゆる申請や情報共有が手元で完結します』


「キタ! これで情報管理のブラック化から完全に解放される!」


 俺はネクロディアに指示し、中央サーバーをタワマンの地下に設置。そして五百人の社員全員に、この「魔導スマート端末(スマホのようなもの)」を配布した。


「みんな、今日から出勤の打刻タイムカードも、休暇の申請も、今月の給与の確認も、全部その板(端末)をタップするだけで終わるぞ!」

「えっ!? いちいち役場に紙を出しに行かなくていいんですか!?」

「それに、村の掲示板(社内報)や、今日のフードコートのメニューまで見られるぞ!」


 魔物や獣人たちが、真新しい端末の画面をスワイプしながら歓声を上げる。

 グレイシアの目の前の山積みの羊皮紙は一瞬にして消え去り、ホログラム円卓には美しく整理された「リアルタイムの村のダッシュボード(経営指標)」が映し出された。


「……素晴らしい。全てのデータが可視化され、自動で最適化されている。これで私は、再びコタツの中でミカンを食べながら予算承認のボタンを押すだけの優雅な生活に戻れるぞ」

 グレイシアが安堵の息を漏らし、ネクロディアも「完璧なアルゴリズムだ」と満足げに頷いている。

 村のDX(デジタル化)は完了し、組織の管理体制は無敵の領域へと到達した。


 ――その頃。

 ホワイト村から遥か北。極寒の吹雪に閉ざされた「魔王城」。


 四天王が全て消え、末端の魔物たちも全てホワイト村へ転職してしまったその城は、静まり返る完全な「もぬけの殻」と化していた。

 玉座の奥、巨大な氷のクリスタル(休眠カプセル)の中で、強大な魔力を持つ『魔王』だけが、一人孤独に眠り続けている。

 クリスタルの表面には、無慈悲なシステムのアラートが赤く点滅していた。


『魔王復活プログラム、進行中。……残り280日』


 部下ゼロ、予算ゼロ、防衛力ゼロの魔王城で、魔王だけがその日を待ち続けているのだった。


(残り280日。明日は何が出る?)

【キャラクター紹介(85日目時点)】


タクト

元PMの村長。五百人規模に膨れ上がった村を、最新の魔導インフラとERPシステムで完璧にホワイトにマネジメントする。最近はフードコートの寿司がお気に入り。


シルフィ

エルフの秘書。タクトのスケジュール管理を魔導スマート端末でこなしつつ、隙あらば彼の横に張り付いている。


ガルド

ドワーフの建築リーダー。社宅街を1日で作り上げるなど、インフラ整備の要。


ルナ

狼獣人の警備リーダー。新しい制服の「お日様の匂い」を嗅ぐのが日課。


ガロ族長

農業リーダー。垂直植物工場ハイテクファームのLEDの光の中で、真剣な顔でタブレットを操作する農家。


セシル

元・聖女。フードコートの導入により「総料理長」から「フードプロデューサー」へと出世し、各国料理の味の監修を楽しんでいる。


ザンギュラ

CSO。魔物難民たちの現場監督として、持ち前の兄貴肌を発揮して彼らをまとめている。


グレイシア

CFO。ERPシステムの導入により、書類の山から解放され、再びコタツでミカンを食べる優雅な生活を取り戻した。


ネクロディア

CDO。村のシステムと中央サーバーの保守を担う。完璧なアルゴリズムを眺めながらホットミルクを飲むのが至福。


カーミラ

CISO。暗殺鬼からセキュリティ監査役に。女子会でアフタヌーンティーを楽しむなど、すっかり俗世に染まっている。


アーサー

有給休暇中の勇者。オークたちと一緒に網を囲んで焼肉奉行と化しており、もはや「魔王討伐」の意志は完全に消滅している。

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