第82話:【82日目】大量の衣類問題と、全自動魔導クリーニング工場
魔物たちの住居問題が解決し、彼らは温かい社宅で人生初の「熟睡」を経験した。
しかし、82日目の朝。彼らが広場に集合した姿を見て、俺は顔をしかめた。
「……服が、ボロボロでドロドロだな」
彼らが身に纏っているのは、魔王城から逃げてきた時のままの、破れた麻布や錆びた薄い革鎧だけだった。そこには雪や泥、そして長期間風呂に入っていなかった頃の染みついた汚れがこびりついている。
もちろん、昨夜彼らは大浴場で体を綺麗に洗ったのだが、着る服がないため再び汚れた布を羽織るしかなかったのだ。
「タクト様。このままでは、衛生環境の悪化による感染症のリスクが高まります。いくら温泉や栄養があっても、不衛生な衣服は労災の元です」
シルフィが鼻を少しピクピクさせながら指摘する。
横では、嗅覚の鋭いルナが「うぅぅ……いろんな匂いが混ざって、お鼻が曲がりそうですぅ……」と涙目になっていた。
数百人分の服を用意し、さらにそれを毎日洗濯する。
以前カレンダーから引いた【魔導ランドリーシステム】(家庭用ドラム式洗濯機)が村には何台かあるが、さすがに五百人規模の洗濯物を毎日回すとなれば、キャパシティを完全にオーバーしてしまう。
「業務用の洗濯インフラと、全員分の新しい制服(作業着)が必要だな」
俺は「残り284日」の紙をめくった。
現れたのは、巨大な工場のミニチュアと、真っ白なハンガーラックだった。
『SSRアイテム【全自動・魔導クリーニング工場&無限の清潔作業着(制服)】を獲得しました』
『※数百人分の衣類を一括で洗浄・乾燥・プレス・殺菌する魔法の大規模工場です。付属の作業着は着用者の体型に自動フィットし、防寒性と通気性を兼ね備えたフリース素材です』
「完璧だ! これぞ大規模組織の福利厚生!」
俺は即座に社宅街の隣にクリーニング工場を展開した。
そして、無限のハンガーラックから次々と生み出される「ネイビーカラーの魔導フリース上下(ホワイト村のロゴ入り)」を、広場に集まった魔物たちに配って回った。
「みんな、今まで着ていたそのボロボロの服は全部、そこの焼却炉に捨ててくれ! 今日から君たちの制服(作業着)はこれだ。毎日仕事が終わったら、クリーニング工場の投入口に放り込めば、翌朝には新品同様になって戻ってくるぞ!」
「こ、こんな軽くて温かい服を着て良いのですか……!」
「肌触りが……まるで最高級の羊の毛のようだ……っ!」
オークやトロールたちが、真新しいフリースに袖を通し、その圧倒的な保温性と着心地の良さに驚嘆の声を上げる。
ボロボロの布を脱ぎ捨て、統一された清潔な制服を着た魔物たちの顔には、確かな「自尊心」と「帰属意識」が芽生え始めていた。
「どうだルナ、匂いは?」
「クンクン……! わぁっ、お日様の匂いと、爽やかな石鹸の香りしかしません! アタシ、この匂い大好きです!」
ルナが尻尾を振って、オークのお腹に鼻を擦り付けている。オークは照れくさそうに頭を掻いていた。
「身だしなみを整えることは、モチベーションの維持に直結するからな」
同じ制服を着ることで、彼らは「魔王軍の敗残兵」から、正式な「ホワイト村の社員」へと意識を上書き(アップデート)されたのだ。
清潔で温かい制服に身を包んだ五百人の社員たちが、トラクターや建築現場へと向かっていく。
その背中は、昨日までの疲弊しきった難民の姿とは全く違う、誇り高き労働者のそれだった。
(残り283日。明日は何が出る?)




