第81話:【81日目】数百人の新人研修(オンボーディング)と、魔導社宅街
「すぅーっ……はぁぁっ……。美味い、こんな美味いもん食ったことねえ……」
「温かい汁が、凍傷になりかけてた手足の先まで染み渡るぜ……」
魔王城から逃げてきた数百体の魔物たちがホワイト村にやってきた翌朝。
村の広場では、昨夜【魔導巨大フードトラック】から配られた『無限のあったか豚汁』と塩おにぎりの朝食が振る舞われていた。
ゴブリン、オーク、トロールなど、凶悪な見た目の魔物たちが、両手で大切そうにお椀を抱え込み、幸せそうに白い息と湯気を吐き出している。
俺は村役場(PMO)のベランダからその光景を見下ろし、熱いコーヒーをすすった。
「タクト様。彼ら難民……いえ、新人研修生たちの受け入れは順調ですが、物理的な問題が発生しております」
分厚いファイルを持ったシルフィが、エルフの尖った耳を少しだけ下げて報告してきた。
「住居の問題だな」
「はい。昨夜は集会所や大浴場の休憩室、タワーマンションのロビーなどを解放して雑魚寝してもらいましたが……長期間となると、プライバシーの欠如や睡眠の質の低下が懸念されます」
その通りだ。数百人規模の人間(魔物)が密集して雑魚寝すれば、ストレスは爆発的に跳ね上がる。良質な睡眠とプライベートな空間の確保は、健康な労働環境の絶対条件である。
「よし、今日のタスクは大規模な居住区画の構築だ」
81日目の朝。俺は日めくりカレンダーの前に立ち、「残り285日」の紙をめくった。
光の粒子が収束し、現れたのは、小さな家々のミニチュアが綺麗に区画整理されたジオラマのようなボードだった。
『SSRアイテム【全自動・魔導スマート社宅街展開キット】を獲得しました』
『※任意の広大な土地に、防音・空調・床暖房を完備した快適な平屋型社宅を数百棟単位で一瞬にして展開します。上下水道も自動で敷設されます』
「キタ! これぞ究極の都市開発インフラだ!」
俺は即座に、建築リーダーのガルドと、元魔王軍四天王たちを呼び出した。
「ガルド! 村の西側に広がる空き地を整地してくれ。ザンギュラとグレイシアは、魔物たちを各種族ごとにグルーピングして、入居の割り当てリスト(名簿)を作成だ」
「ガハハ! 村の拡大工事だな! 任せときな、ドワーフの整地スピードを見せてやる!」
「ふん。エクセルのような魔法の羽根ペンがあるのだから、名簿作成など一瞬だ。コタツの中で終わらせてやる」
各部門のリーダーたちが完璧な連携を見せ、昼前には広大な西側の土地の整地が完了した。
俺がキットのジオラマボードを地面に置き、シルフィに魔力を注いでもらう。
「いきますっ、【都市展開】!」
ズゴゴゴゴォォッ!
地響きと共に、荒野の地面から次々と真新しいレンガ造りの平屋が「生えて」きた。
綺麗に舗装された歩道、等間隔に設置された魔導街灯、そして一戸につき一部屋の広々としたワンルームが、見渡す限り整然と立ち並ぶ。その光景は、もはや村というより一つの新興住宅街だった。
「お前ら! 今日からここがてめえらの新しい家(社宅)だ! 一人一部屋、鍵も渡す! 風呂は大浴場を使え!」
ザンギュラが拡声器代わりの魔法で魔物たちに呼びかける。
「お、俺たちみたいな下級魔族に、一人一つ、こんな立派な家を……!?」
「隙間風が全く入らない! しかも、床が……床がぽかぽかして温かいぞ!」
自分専用の鍵を受け取り、真新しい部屋に入ったゴブリンやオークたちは、ふかふかのベッドに顔を埋め、大声で泣き出した。
魔王城では冷たい石の床で、毛布すらなく折り重なって眠っていた彼らにとって、この「完全なプライベート空間」と「圧倒的な防寒設備」は、天国以上の衝撃だったのだ。
「居住環境が整えば、彼らは必ず最高のパフォーマンスを発揮してくれる。それがPMとしての投資対効果(ROI)だ」
夕日に照らされる巨大な社宅街を見下ろしながら、俺は満足げに頷いた。
(残り284日。明日は何が出る?)




