第78話:【78日目】カーミラの苦悩と、CISO(最高情報セキュリティ責任者)の誕生
「……ふぁぁぁ。なんという柔らかい毛布……」
78日目の朝。
ぽかぽかセンサーで捕獲されたカーミラは、村役場のソファで、俺が今朝「残り288日」のカレンダーから引いたアイテムに包まれていた。
『SSRアイテム【陽だまりの魔導着る毛布&安眠ホットアイマスク】を獲得しました』
『※着用者の体温を魔法で完璧に保温し、心身の緊張を極限まで解きほぐす防寒具とアイマスクのセットです。末端冷え性に絶大な効果があります』
「どうだカーミラ。冷え性は少し良くなったか?」
俺がホットミルクを差し出すと、カーミラは着る毛布にすっぽりと包まりながら、ホットアイマスクをおでこにずらして、涙ぐんだ目で俺を見た。
「……あったかい。あったかすぎるわ……。魔王城の冷たい石の床で寝ていた日々が、馬鹿みたい……」
「あんたも、かなりブラックな働き方をしていたみたいだな」
俺の言葉に、カーミラの不満が堰を切ったように溢れ出した。
「聞いてよ村長! 『暗殺』って聞こえはいいけど、実態はただの『超長期の待機業務』なのよ! いつ標的が来るか分からない影の中で、24時間365日、飲まず食わずでじっと待機しなきゃいけないの! 息を殺して、トイレも我慢して!」
「……うわぁ。究極の張り込み(拘束時間)だな」
「しかも、上層部(魔王)は『待機時間は労働時間に含まれないから無給だ』って言うのよ! おかげで私は極度の末端冷え性とドライアイよ!」
名ばかりの「成果報酬型」で、膨大な待機時間(見えない労働)を搾取される。これもまた、ブラック企業にありがちな闇だ。
「……カーミラ。あんたの苦労、よく分かった。もう影の中で震える必要はない。うちの村に転職(寝返り)しないか?」
「えっ?」
「あんたを、この村の『CISO(最高情報セキュリティ責任者)』に任命したい。うちの村の防衛網や結界に『穴(脆弱性)』がないか、暗殺者の視点からテスト(監査)してほしいんだ。いわゆるレッドチームだな」
俺は彼女に、着る毛布の襟元を直してやりながら提案した。
「労働時間は1日8時間。待機も立派な労働時間としてカウントするし、残業は禁止だ。暖かいタワマンの個室と、三食の美味しいご飯、そしていつでも入れる温泉を保証する」
「ほ、本当に……? ずっと明るくて暖かい場所にいて、いいの……?」
「ああ。暗殺者だからって、日向を歩いちゃいけないルールなんてないさ」
カーミラは、マグカップの両手の温もりを噛み締め、大きく頷いた。
「……負けたわ。タクト村長、私の暗殺スキル、この村のセキュリティ強化のために好きに使ってちょうだい」
こうして、魔王軍最後の四天王・カーミラがホワイト村に寝返った。
これで、魔王軍の最高幹部(四天王)は全員、俺の村の正規社員となったのだ。
(残り287日。明日は何が出る?)




